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二十八話 元公爵令嬢、二度の人生で初めて告白をされる

「本当に、素晴らしい劇でしたわ……!!」

「はは、楽しんでくれて何よりだ。私も楽しめたよ。……君が、キラキラした顔で舞台を観る姿を」

「な、何を見ているんですか!? …………今度は舞台をちゃんと観てくださいませ……!!」


 レインハルト殿下の言葉に、私としたことが激しく動揺してしまう。


 けれど殿下は私のそんな反応すら面白いのか、楽しそうな笑みを浮かべながら私の手をぎゅっと握り直した。


 ____こ、この御方ったら本当に……!!


「で、殿下には……婚約者はいらっしゃらないのですか? いくら私達は同級生とは言え、未婚の令嬢にこ、こんな……ことをしているとなると、婚約者の方が黙っていないのでは?」


 私は緊張のあまり、捲し立てるように殿下に質問する。


 すると殿下は一瞬ぽかんとした表情を浮かべてから、すぐに目を細めるようにして微笑んだ。


「私に婚約者はいない。……いや、正確には、今はいないんだ」

「……今、ということは、以前はいらっしゃったのですか?」

「あぁ。だが、彼女の不貞行為が原因で婚約を破棄することになってな。大体一年くらい前の話だったか」

「そ、そんな……。申し訳ございません、大変失礼なことをお聞きしてしまいましたね……」


 全く想定していなかった答えが返ってきて、罪悪感で胸がチクチク痛む。


「気にするな。彼女とは政略結婚のための婚約だったから、特に傷つくこともなかったしな。……それにしても、私が婚約を破棄したことはかなり話題になったはずだか……君は知らなかったのか?」

「うっ……」


 ギクリ、と肩を揺らした。

 そう、王太子殿下が婚約破棄を申し出たなんてゴシップ、普通なら知っていて当然だ。


 だけど、セシリアにはまず友達がいなかった。そして、家族の話も家庭教師の話もろくに聞いていなかった。


 ……結果、セシリアは何も知らずに、こうして王太子殿下の隣に腰掛けているというわけである。


 ____通りで、視線が痛いと思ったわ!


 きっと、たくさんの貴族達がレインハルト殿下の婚約者という椅子を虎視眈々と狙っていたに違いない。

 なのに、こうやってある日突然、しかも悪女として名高い女が現れた。


 ……警戒されて、当たり前ね。おまけに、恨みも相当買ってしまっていそうだわ。


 私、買い物は嫌いではないけれど……恨みと喧嘩はあまり買わない主義なのよね。


 けれども、この国の貴族である以上、殿下の誘いを断れるなんて出来るはずもない。

 それに、悪女と呼ばれるような振る舞いを続けていたセシリアにも問題はある。


 ……甘んじて受け入れるしかないわね。



 はぁ、と深いため息を吐くと、殿下は私が疲れてしまったのだと思ったらしい。まぁ、強ち間違いではないのだけれど……。


 こちらを見ながら、優しい声色で「そろそろ行こうか」と声をかけて、エスコートをしてくれた。


 殿下に導かれるまま、VIP席から離れていく。

 ……素敵な時間だったな。


 **.


 それから帰りの馬車に乗り込んで、殿下の正面に座った。


「今日はどうだった?」

「本当に、楽しかったです。連れてきてくださってありがとうございました」

「いいや、こちらこそ。誘いに応じてくれて感謝している」


 ……本当に紳士的な人ね。

 前世の婚約者と同じ王太子という立場のはずなのに、本当に大違い。


 なんだか、悔しいけれど…………少しうっとりしてしまう。


「……まるで、魔法のような時間でしたわ。あんな素晴らしい席で、こんなに素敵な舞台を観ることができて……本当に、幸せでした」


 私が改めて殿下に感想を伝えると、殿下は嬉しそうに口元を弛めた。

 それから、少しだけ緊張したような面持ちで口を開く。


「…………私の隣にいれば、この先何度だって……いや、もっと素晴らしい景色をみることが出来る」

「……え?」


 仰っていることの意味を図りかねて、思わず間抜けな声を出してしまう。

 殿下はそんな私の手を両手で包み込むように握って、真剣な眼差しで言葉を続けた。


「私と君は、まだ出会ったばかりだ。そんなことはわかっている。……だが、君に助けてもらったあの瞬間から、私の頭は君のことでいっぱいなんだ」

「そ、それって、どういう……」


 一気に顔が熱くなるのがわかる。心臓の音がうるさい。周りの雑音が遠くなっていく。


 まって、まだ続きを言わないで。


 まだ、心の準備ができていないの!




「…………セシリア嬢。どうやら私は……君のことを好きになってしまったらしい」

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