二十四話 元公爵令嬢、イベントの強制力に抗えない
「お誘いはとても嬉しいです。ですが……殿下のお相手が私に務まるとは、とても思えませんわ。ですから……私のような悪女ではなく、どうか他の素敵なご令嬢をお誘いになった方がよろしいのではないでしょうか?」
本当は、男性のお誘いをこんな風に断るものではないとわかっているけれど……。王太子が相手となれば、話は別だわ。
しかも、よりによって相手が私だなんて、下手したらレインハルト殿下の評判を傷つけてしまうことになるかもしれないもの。
私の言葉を聞いた殿下は、数秒程押し黙ったあと、振り絞るような声で告げてきた。
「…………少なくとも、今の私にとって君は悪女ではないし、一番素敵なご令嬢は君だ、と言ってもダメだろうか」
「そ、それは……私のことを買い被りすぎですわ。そもそも、昨日出会ったばかりだというのに____」
「こんなことを言ったら君は頷くしかないと、わかったうえで敢えて言わせてもらうが……どうか、私の顔を立ててはくれないだろうか」
殿下が私の言葉を遮って、切なそうな顔でそう言った。
……本当に、ずるい人だわ。
「……殿下がそう仰るのでしたら……ぜひ、お誘いを受けさせていただきます」
「すまない。そして……ありがとう」
これがフリージアの言っていた、『イベントの強制力』というやつなのかしら。
だって、殿下にこんなことを言われて断れる立場ではないもの。
____それに、本当は少し満更でもない自分がいることにも、気付いていた。
だって、前世の殿下はこんなお誘い、一度もしてくれなかったんだもの。
なのに、出会って二日目でお誘いしていただけるなんて……そんなの、つい比べてしまうじゃない。
……あとは単純に、私は観劇が大好きなのよ、本当は!
「丁度明日は休日だろう? だから、明日の正午に君を迎えに行っても良いだろうか。……本当はもっと余裕を持った誘いをするべきだと、心ではわかっているのだが……私は早く、君と出掛けたい」
「私はいつでも構いませんよ」
私の返事を聞いた殿下が、パァっと顔を明るくさせた。
こんな風にも笑える人なのね。少し子供っぽくて、でも、なんだか眩しい。
ギルが猫だとするならば……殿下は大型犬ね。それも、慣れると人懐っこいタイプの……。
初対面の印象が最悪だっただけに、ギャップが凄まじいわ。
そんなことを考えていると、レインハルト殿下が教科書を開きながら、先程よりも楽しそうな声色で話しかけてきた。
「なら、今日は君と共に、テストの復習がしたい。一問だけ間違えてしまったところを教えてもらいたくてな。……君自身の話を聞く時間は、明日いくらでもあるのだから」
「えぇ、私などでよろしければ、いくらでも」
殿下に勉強を教えるなんて、正直恐れ多いのだけれど……。
こんな風に頼まれたら、断れないじゃない。
それに、今の自分に慢心せず努力する姿は素直に素晴らしいと思う。
____私も、負けていられないわね。もっとこの世界の常識を学んで、真っ当な伯爵令嬢になれるよう、努力しなくてはならないわ。
教科書を真剣に見つめる殿下を眺めながら、そんなことを考えるのだった。




