二十二話 ギルバート、義姉に情緒をぐちゃぐちゃにされてしまう
俺とセリア……いや、セシリアが出会ったのは、俺が九歳、セシリアが十歳の時だった。
元々俺はランカスター伯爵家の分家の生まれだったが……両親が事故で亡くなったことをキッカケに、本家で養子として迎えられることになったのだ。
そこで初めてセシリアに会ったわけだが……。
最初にセシリアを見た時、こんなに可愛い女の子がいるのかと、俺は驚いた。
この子が姉になるのか、緊張する、失礼なことをしないようにしないと……なんてことを考えていた覚えがある。
……が、俺がセシリアに抱いていた幻想は、一瞬にして打ち砕かれることとなった。
なぜなら、初対面にあの女はこう言い放ったのだ。
「私はあなたを絶対に弟だとは認めないわ! 私のお母様とお父様に近寄らないでちょうだい!!」
……俺は、鈍器で頭をガツン!と殴られたような衝撃を受けた。
そこからだ。俺の地獄のような日々が始まったのは。
挨拶をしても無視、そして通り過ぎた後に言われる陰口、挙句の果てには靴の中に蛙を入れられた。
あ、あとは机の中に蛇のおもちゃを入れられたこともあったな。
そのくせ、あの女は全然勉強もしないし、マナーも最悪だった。
そんな「悪女」としてどんどん成長し、数年が経ったある日のことだ。
____セシリアが、別人のように生まれ変わったのである。
俺は再び衝撃を受けた。
完璧な食事のマナー。ふんわりと微笑んだ時の美しい容姿に、品のある服装。
一瞬、夢でも見てるんじゃないかと思ったくらいだ。
でも、夢ではなかった。
セシリアは、本当に全くの別人に中身が変わっていたのだから。
____つまり、俺に抱き着いたのも、セシリア……いや、セリアというわけで……。
俺があの時つい絆されかけてしまったのも、別人だったのだと思うとストンと納得出来た。
そして別人だと認識できた途端、俺が初対面に感じたドキドキがまた舞い戻ってきてしまったのである。
まぁ、ものすごく俗っぽいことを言ってしまうと……めちゃくちゃタイプだったのだ、元々。
しかも、今は性格が良くてマナーも完璧な元公爵令嬢。非の打ち所がない美女となのである。
……つまり認めたくはないが、俺は、セリアのことを……もう姉とは見られなくなってしまったわけで。
そもそも、中身はセラフィーナだし。
まぁ流石に、「あー、人ってこんなに簡単に落ちんだな……」と頭を抱えた訳だが。
……そんなわけでセリアが別人になってから、今はまだ一週間も経っていない。
今頃、セリアは五日目の学園生活を楽しんでいるところだろう。
それにしたって、昨日は驚いた。
セリアに少しでも男として見られたくて、わざわざ迎えに行ったのに……。
あんなこと言うの、ズルだろ!!
しかも、ちゃっかり王太子と仲良くなってるし、本気で焦った。その瞬間、頭が真っ白になるくらいには。
そのせいもあって、結局俺は渡すことが出来なかったのだ。
セリアの前世を聞いてしまったその日に急いで用意した、今話題の舞台のチケットを……。
「どうすれば、俺のこと男として見てくれんの……?」
セリアが俺のことを、弟しか見ていないことくらいわかっている。
だから、わかってほしい。俺は一人の男で、子供じゃないということを。
そしてセリアに____意識して欲しいということを。
「……俺も、同い年だったら良かったのに」
そうしたら、一緒に通学できたんだろうな。今みたいに、弟として扱われることもなかっただろう。
一度くらい、あの余裕そうな微笑みを崩してみたい。
____そして俺を、好きになって欲しい。
「いつ誘えばいいんだろ……。セリア、喜んでくれんのかな……」
握りしめてくしゃくしゃになってしまった二枚のチケットを眺めながら、俺はセリアに思いを馳せるのだった。




