二話 元公爵令嬢、朝の身支度だけで驚かれる
私が混乱していると、侍女が再び冷たい目線を向けてきた。
「セシリア様、意味のわからないことを仰っていないで、早く朝の準備をしてください。で、今日はどのドレスにいたしますか?」
この侍女は……そう、ノエル。ワガママ放題の私に呆れながらも、なんだかんだちゃんと身の回りの世話をしてくれるしっかり者。
ほとんどの侍女は私に怒鳴られるのを怖がって声もかけてこないから、ノエルはこう見えてすごく面倒見が良いのだ。
まぁ、少し毒舌なところはあるけれど……。
「そうね……今日はなるべく露出の少ない……あの紺色のドレスにするわ。髪は軽くアップでまとめてもらえるかしら?」
私がノエルにそう告げると、ノエルはぱちくりと瞬きをした。
「……何か悪いものでも召し上がられましたか? いつもは派手に胸元を露出したドレスを好まれますのに……」
「そ、それは……今日はそういう気分なのよ! それに、朝食を食べるのに露出度の高い服装は好ましくないでしょう?」
「それはそうですが……髪も、縦に巻かなくてよろしいのですか?」
……そうよね、セシリアはいつもド派手で華美なドレスに、髪を縦ロールに巻いているんだものね……。
でも、残念ながら私の好みではないのよね。私はもう少し、落ち着いたドレスの方が好みだもの。
髪だって……王妃が縦ロールなんて、ありえないでしょう?
「とにかく、今日はそういう気分なのよ。手間をかけさせて申し訳ないけれど……お願いできるかしら」
「か、かしこまりました……」
どうにか誤魔化して、ノエルに身支度をお願いする。ノエルは驚きながら、「お嬢様が人に怒鳴らずお願いをするなんて……」と呟いているのがわかった。
気持ちはわかるけど、普通に失礼だからそういうことは胸にしまっておいた方が良いと思うわよ……!!
まぁ、それくらい今までのセシリアの態度が酷かったってことなんだけれどね……。
本当に、なんて生活をしてくれたのよ、セシリアったら……!
ノエルは驚いた顔をしながらも、テキパキと私にドレスを着させ、髪を纏め上げた。
途中、「本当にこれで良いんですか?」と聞かれたから、「完璧よ。今日もありがとう」と笑顔で答える。
それだけで、「お、お嬢様がお礼を言うなんて……槍でも降るのかしら」と恐れられてしまった。
それから部屋を出て、朝食に向かうまでの間何人かの侍女とすれ違った。
私は元の世界にいた頃と同じように、侍女たちに笑顔で声をかける。
「ネリー、今日も朝からお疲れ様」
「ひぃっ……! あ、ありがとうございます……?」
「……おはようユラ、今日も良い天気ね」
「セ、セシリア様……!? お、おはようございます……」
……私、いくらなんでも怖がられすぎじゃない!?
本当に、セシリアったら何をしたのよ……!
____いえ、セシリアとしての記憶は確かにこの身体に刻まれている。
確か……ネリーには先週「埃が落ちている」と怒鳴りつけて、ユラには「紅茶が冷めてるわ」とカップを投げつけたんだったわね……。
そんな相手から急に笑顔で挨拶されたら、怖がるのも当然だわ。
なんというか……先は長いわね、本当に。
でも、諦めないわよ……!
まずはこの朝食会で、お母様とお父様に見直してもらうんだから……!!
……そんなことを考えながら、私はお母様たちが待つダイニングルームへ足を踏み入れたのだった。




