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十八話 元公爵令嬢、王太子相手にスパダリを発揮する

 ____キーン……コーン……


「うぅぅぅ……ついに昼休みになってしまった……」

「ほら、行くわよフリージア! いい加減諦めなさい! あなたのためでもあるんだから!」

「やだよぉ〜! セシリア様、絶対スパルタなんだもん!」


 そう言って絶対に自席から立とうとしないフリージアを、力技で強引に立たせた。


「セ、セシリア様の鬼……!」

「なんとでもいいなさい。そもそも、エドナとソフィアに用事ができて二人が来れなくなった以上……私に置いて行かれたらフリージアは一人になるけど、いいのかしら?」

「……よくない」

「なら、行くわよ」

「は〜〜〜い……」


 ようやく歩く気になったらしいフリージアを連れて、図書室までの廊下を進む。


 その途中、突然フリージアが「あ!!!」と大きな叫び声を上げた。


「な、なに? どうしたのよ、突然……」

「いや……今から行くのって図書室、だよね!?」

「だからそう言ってるじゃない。本当に何かあったの??」

「いや、ちょっと思い出したことがあって……! そうと決まったら、行こ!!」


 そう言ってフリージアは、さっきとは別人のような様子で私の手を引いて歩みを進める。


 ____嫌な予感がするわね。この子が張り切るということは、おそらく前世の記憶絡みだわ……。


 推測にはなるけれど、何か攻略対象とのイベントでもあるのかしら?


 そうだとすれば、エドナとソフィアが急に来れなくなってしまったのにも納得が行くわ。

 この世界によくあるご都合主義ってことよね……。


 それなら私は今すぐ引き返したいくらいなのだけれど、私が提案した以上どうしようもないわね。


「セシリア様、早く早く!」

「もう、わかったから……もう少し淑女らしい振る舞いをしなさいね?」


 図書室の扉の前まで到着して、フリージアが勢いよく扉を開けた。


 ____案外、空いているのね。


 というか、王立の学園なのに本の管理が杜撰というか……。

 せめて、本棚の上に本を積み上げるのはやめていただきたいところだわ。


「こっちです、こっち……!」


 やけに楽しそうなフリージアに誘導されるまま、部屋の角にある机に向かう。

 だが、既にそこには先客がいるようだった。


 ……先客というか、あの後ろ姿は……


「……ちょっとフリージア、殿下が既にお座りになられているじゃない」

「だからだよ! このあとスチルが見られるかと思うと、私我慢できなくて……!」

「だから、変な期待をするのはやめてちょうだい!」


 興奮しきっているフリージアにツッコミを入れていると、突如ガタン!という音を立てて殿下が立ち上がる。


 それから、私達が隠れていた本棚の側までツカツカと歩いてきた。


「君達、ここをどこだと思っているんだ? 勉強の邪魔をしたいのなら、今すぐ出て行ってもらえないか。ここには他の生徒もいるんだ」


 ____正論すぎるわ。


「大変申し訳ございませんでした。殿下や他の皆様の学習を阻害してしまったこと、深くお詫び申し上げます。……ほら、フリージア、あなたも……」


 私は即座に頭を下げながら、レインハルト殿下にお詫びをする。

 そして隣で焦っているフリージアにも小声で謝罪を促すと、フリージアも慌てて大きく頭を下げた。


 ……のが、いけなかった。


「ご、ごめんなさっ、わわっ!?」


 ____ガンッ!


 フリージアが大きく体勢を崩し、本棚に勢いよくぶつかってしまった。


 その瞬間、本棚の上に積まれている大量の本がバランスを崩し、落下してきたのである。


 そして、落下してきた本の下にいた人物は____


「危ないっ!!!」

「っ……!?」


 次の瞬間、バサ、ドサッ!と、沢山の本達が床に着地する音が図書室に響く。


「……いたた……」

「お、おい、君……」

「すみません殿下、お怪我はございませんか?」

「な、ない! ないから、一旦私の上から退いてくれ……!」


 ____そう、本の下にいたのはレインハルト殿下だったのだ。


 だから私は……殿下が怪我をしないよう、咄嗟に殿下の頭を守るよう抱き着き、そのまま押し倒した。


 おかげで私の全身に大量の本がぶつかってきたけれど……殿下が怪我をする方がよっぽど大事になってしまうもの。


「セ、セシリア様、殿下……!? 大丈夫ですか!? ごめんなさい、私、そんなつもりじゃ……!」


 フリージアが顔を真っ青にしながら謝っているのが声色でわかる。

 私は腰を押さえながら、ゆっくりと殿下から離れて立ち上がった。


「わかっているから大丈夫よ、フリージア。幸い殿下にはお怪我がなかったようだし」

「で、でも……! セシリア様、足から血が出てます!!」

「こんなの、すぐに治るわ」


 私とフリージアがそんな会話をしている間に、レインハルト殿下もゆらりと立ち上がった。

 ……表情から察するに、随分動揺されているみたいね。


「大丈夫では、ないだろう……! ご令嬢が男を庇って怪我をするなど……」

「殿下、お言葉ですが……。あなたは、これから国を担う尊いお方なのです。私はただの臣下にすぎません。殿下をお守りできたのなら、これ以上光栄なことはございませんわ」


 私がキッパリと言い切ると、殿下は呆然とした表情で黙ってしまった。


 でも、実際にそうなのだ。私はただの伯爵令嬢だし、殿下よりもよっぽど命が軽い。


 それに……もし殿下に何かあって、責任を問われるのはフリージアだ。

 私だって、せっかくの友人が罪に問われる姿なんて見たくないもの。


「と、とりあえず早く手当てをしないと……!」

「そうね、フリージア。悪いけど、保健室まで連れて行ってくれる?」


 そう言って、図書室を出ようとした時。


「ちょっと、待ってくれ……!」


 ____レインハルト殿下が、少し震えた声で私達を呼び止めた。

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