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十六話 元公爵令嬢、二人目の攻略対象と出会う

 学園生活四日目。


 教室に着いて自席に座った直後、フリージアがバタバタと教室に駆け込んできた。


「セシリア様! 昨日のテストの結果、もう発表されてるみたいだよ!」

「え? 流石に早すぎない……? テストが終わったの、昨日の十六時よね?」

「まぁほら、そこはゲームの世界だから……ね?」


 ……なるほど、流石のご都合主義ってやつね。

 まぁでも、納得だわ。道理で教室のみんながソワソワしてると思ってたのよね……。


 フリージアの騒ぎ声が聞こえてきたのか、ソフィアとエドナとが私達の席まで歩いてきた。


「おはようございます。セシリア様達も、これからテスト結果を見に行かれるんですか?」

「私達もまだ結果見てなくて! よかったら、四人で一緒に見にいきませんか??」


 前世では常に学年三位以内が当たり前だったから、テストの結果をあまり気にしたことはなかったけれど……。

 この世界では、テストの結果が気になって仕方ない。


 ……だって、あまりにも簡単なテストだったから……。満点の生徒が半数くらいいても、おかしくない難易度だったもの。


 そう考えて、私は二人の提案にありがたく乗ることにした。


「えぇ、ぜひご一緒させてもらえるかしら」

「やった〜! へへ、実はこのエドナ……勉強にはちょっと自信があるんですよ! 四人で勝負しませんか!?」

「あら、そうなの? ふふ、なら勝負に乗らせていただこうかしら」

「エドナのわがままに付き合っていただき、ありがとうございます。では、行きましょうか」


 エドナの提案に盛り上がる私達三人の後ろで、フリージアが泣きそうな声で叫んだ。


「わ、私の意見は!?」

「もちろん、フリージアさんも強制参加だよ!」


 エドナが楽しそうに答えたのを見て、フリージアががっくりと肩を落とした。


 ____かわいそうだけど、諦めてもらうしかないようね……。


 ***


 掲示板に近付くにつれ、生徒達のざわめきが大きくなる。それも、異常なまでに。

 ……一体、そこまで盛り上がることがあったのかしら?


 そんなことを思いながら掲示板の前まで歩みを進めると、いきなり空気が一変した。


 ____私達以外の全員が、私達……いえ、私を見て固まっている。


 疑いや羨望の眼差しが一身に集まっているのを感じていると、突然フリージアが大きな声をあげた。


「セ、セシリア様! 見てください! すごい結果になってますよ」


 フリージアに促されて掲示板に目を向ける。

 そこに書かれていたのは……。


『首席 セシリア・ランカスター 500点』


「わ、私が首席!?」


 だ、だからこんなに私が注目されているということ……?

 ……いや、それよりもっと気になることがある。私の名前の下に書いてある……点数は……。


『次席 レインハルト・フォン・ルピナス 499点』


 ____499点……ということは、満点は私しかいなかったということ!? 


「あんなに簡単なテストだったのに……?」

「……セシリア様の前世って、どれだけ教育水準高かったの……!? ていうか、それどころじゃないよ! だって次席は……」


 驚きのあまり小声で呟くと、フリージアが焦ったように耳打ちしてくる。


 その瞬間、背後から低くて艶のある、それであてどこか喪失感のある声が聞こえてきた。


「この私が……次席だと……? あんな伯爵令嬢なんかに負けるなんて、到底信じられるものか……! あの悪女のことだ、不正でもしたのか……?」


 ____あんな伯爵令嬢、ですって?


 いえ、確かに以前までのセシリアは酷いものだった。でも、今の私は決して不正などしていないわ。


「ちょっとあなた、随分失礼じゃありませんこと? 正々堂々テストに挑んだ結果がこちらなのです」


 流石に黙っていられず、後ろにいた男性に言い返す。


 ____美しいブロンドヘアに、碧色の瞳……。それに、すごく美形だわ。それにしたって、なんだか見覚えがあるような……。


 そう思ってセシリアの記憶を辿ろうとした時、フリージアが焦ったように耳元で囁いてきた。


「セシリア様! この方、王太子様だよ……!?」


 ____その言葉を聞いて、思い出す。そうだわ、この人、ルピナス王国の第一王子じゃない……!


 ……というか、自分の国の王太子の顔をぼんやりとしか覚えていないなんて……流石にどうかと思うわ、セシリア!!


 とりあえず、無礼な発言をしてしまったこと、急いで謝罪しなければ。

 そう思って、礼をしながら改めてレインハルト殿下に話しかける。


「……取り乱してしまい、大変失礼いたしました。謹んでお詫び申し上げます。ですが、私は本当に不正などしておりませんわ」


 急に大人しくなった私に驚いたのか、レインハルト殿下は一瞬目を見開いてから、一拍遅れて口を開いた。


「いや……こちらこそ、勝手に決めつけてすまなかった。君の評判を聞いたことがあるものだから、つい驚いてしまったんだ」

「いいえ、とんでもございませんわ。私が今までに行ってきたことは、とても褒められた行動ではございませんもの」

「……噂と違って、随分大人しいんだな」

「学園に通うにあたって、改心したのですわ。信じてもらえないかもしれませんが……」


 そんな風に、しおらしい表情で語りかける。私の鍛え上げられた表情筋がまた活躍することになったわね。


 でも、流石にこんな言い分、信じてもらえないかしら……?


「……いや、たかが噂に振り回され、君に失礼なことを言ってしまった。セシリア嬢、君のことを信じよう」

「……! ありがとう、ございます……」


 なんだか、拍子抜けしてしまった。

 噂を信じず私の話を聞いてくれるなんて……。今までこの国の将来が心配だったけれど、こんな王太子がいるなら少しは安心だわ。


 それに、第一印象で決めつけてしまったのは、私も同じね……反省しなくては。


「次は、君に必ず勝たせてもらう。ではな」


 そう言って、レインハルト殿下は去っていった。


 フリージアがニヤニヤ笑いながら、私の腕をつつく。今度は一体何なのかしら……。


「さっき言い損ねちゃったんだけど……レインハルト殿下は、『はなおと』の攻略対象の一人だよ! 学園四日目にしてもう二人の攻略対象と絡みができるなんて、流石セシリア様……!!」


 ____だから、そういう大事なことは最初に言いなさいって何回言わせるのよ!!!


 ……なんというか……この子が一番難攻不落だわ…………。

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