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【超短編小説】郵便局へ行こう!

掲載日:2025/12/26

 冷房の壊れた事務所は開け放たれた窓から熱風が吹き込んでいる。

 サンターナ!

 東京砂漠に吹き荒れる風!

 汗だくのアロハシャツが風に揺れる。流れる汗を手の甲で拭う。

 目の前に座る男は笑みを浮かべておれを見ている。

「社長、おれのボーナスはどうなってるんです?」



 日本の労働者に足りないのは拳銃だ。

 良い子をしてきたご機嫌伺いの馬鹿が経営者目線とか言い出し、付和雷同するアホが後を絶たない。

 冗談じゃない!

 進め火の玉!一億総経営者!?

 粉砕せよ!コンサルは卑劣漢!

 止めどなく流れる汗は勤労のそれとは別物だ。しかし汗は汗だ。


 社長は答えない。

 おれは続ける。

「関谷が結婚する時に昇給したんだから、おれだってそうなって然るべきでしょう」

 経営者目線?

 そんなものは必要が無い。

 おれたちにとっての生産性は最低の労働出力と最高の労働賃金だ。

 経営者たちは最低の労働賃金と最高の労働出力を欲しがる。

 日々はその綱引きで成り立っている。



 おれたちジャパンの労働者に足りないのは暴力だ。

 つまり拳銃だ。

 死が必要だ。

 ジャパンの経営者たちには緊張感が足りない。

 労働者をナメたら殺される。

 やり過ぎたら殺される。

 そう言う緊張感が足りない。

 それはおれたちの手に拳銃が無いからだ。拳銃を手にした労働者は最強だ。



 最強のはずだ。

「社長」

 汗だくのアロハシャツが風に揺れる。

 おれの左手にある煙草が灰になって落ちる。社長の電子タバコは煮豆みたいな匂いでくすぶる。

「社長」

 社長は動かない。

 労働者に必要なのは労組でもストでも労基でもない。

 暴力だ。

 それは筋肉よりガラスの灰皿よりゴルフクラブよりも拳銃だ。

 犬小屋より狭い日本のオフィスなら拳銃で十分だ。


 社長は動かない。

 社長の浮かべる微笑み。社長の中指が立つ。社長の薬指が引き金にかかっている。

 おれはため息をつく。

 それは労働者たちのため息だ。

「社長、拳銃を下ろして下さい」

 こっちはレンコン。相手はフルオート。

 構わないさ。

 漫画みたいに社長の拳銃はジャムったりしないだろう。


 おれも笑いを返す。

「明日は明日のおれが来ますよ」

 社長は何も言わなくなった。

 だが開放感はそう長く続かない。

 おれはやがて高い塀の中に入る事になる。

 それは四角い空を見る穴かも知れない。どちらにせよ大きな違いは無い。



 もしも日本が銃社会だったらおれは何回くらい他人を撃って何回くらい殺しているのか考えたけれど、それより自分を撃ってみている回数の方が多いだろう。

 趣味の欄に「エア拳銃自殺」と書いてあるだろ。

 趣味なんだ。

 何回目の引き金で死ぬかのエア拳銃自殺。

 エア独りロシアンルーレット。

 テレビもうるさいしインターネットもうるさい。パトカーのサイレンもうるさい。

 おれは人差し指をコメカミに突きつける。

 バン!

 テレビの中で奴らが笑う。

 スマートフォンの中で誰もが笑う。

 エレファント姦しいマン。


 おれはお前たちの目を忘れない。

「社長、ボーナスを」

 バン!バン!

「ください」

 バン!バン!バン!

 弾丸は飛び出ない。ボーヤ、弾丸は飛び出なかったんだ。



 ピンポン、042番のお客さま、窓口にお越しください。


 おれは笑う。

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