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いざ、最後のお掃除です! 3

「もっちーズちゃんたちっ。守りはお願いねっ。行くよっ!」


 その声と同時に、一斉にもっちーズたちが馬車から飛び出していく。


 視線の先には、見上げるほど大きな化け物がシュウシュウと不穏な息を吐きながら立ちはだかっていた。

 まるで怒りに燃えているかのように赤く光るふたつの目が、ギョロリとこちらをにらみつけている。


(うぅっ……! なんて怖い目。まるで世界の何もかもを憎んでるみたい……)


 その通りなのかもしれない。突然おかしな研究で獣と魔物とが合体させられ、使い捨ての武器としてこの世に生み出されたのだ。そんな勝手なことをした人間を憎んでいたっておかしくはない。

 

(でも……だからってむざむざやられるわけにはいかない。私たちにだって守りたいものはたくさんあるんだから……!)


 リンドと兵たちは、すでに化け物を攻撃すべく配置についている。とは言っても相手がどれほどの力を持つのかすらわからない以上、遠隔攻撃で様子見するつもりであるらしい。

 ならば、とシェイラも体中を熱く巡る聖力に、精神を集中させた。


 ぽうぅぅぅぅぅっ……!


 聖力が手のひらに集中していくのがわかる。その独特な熱の高まりを感じ取り、ぐっと奥歯を噛み締めた。


 聖力が進化したことにより、体の中に流れる聖力量は格段に増えた。けれど一度に放てる聖力量を見誤ると、体に負荷がぐんとかかる。

 おそらくは長期戦になるであろうことを考えると、聖力量のコントロールが難しいところだ。


(殿下はもしもの時は名前を呼べって言ってたけど、果たしてそんな余裕があるかどうか……。もちろん約束は守りたいけど……)


 兵たちも皆怯えた表情を浮かべ、ただの魔物とも幻影とも明らかに違う化け物を前に腰が引けている。それでも攻撃の手が緩むことはなかったけど。


 グオアァァァァァッ!

 ゴグゥゥゥゥッ……。


 やはり化け物は魔物や幻影とも違う。聖力もパン礫も効きが悪い。ちょうど口に入れば多少はダメージを与えられるのかもしれないが、そんな偶然を呑気に待っている間にやられてしまう。


 その時だった。

 ひとりの兵が放ったパン礫が、偶然に化け物の口目掛けて放物線を描いた。


「あっ! あのまま口に入れば、もしかしたら……!?」


 魔物にとっても幻影にとっても毒になるのなら、もしかしたらダメージを与えられるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱いて、パン礫の行く先を見守った。のだけれど――。


 ブワァァァァッ‼


 化け物の口から真っ赤な炎が噴き出した。その炎の中に飛び込んだパン礫は、当然のことながら真っ黒な消し炭になって消滅したのだった。


「そっか……。口に入る前に火で焼け焦げちゃうんだわ……。これじゃ……」


 火を噴く個体でなければ、もしかしたら勝算はあったのかもしれない。けれど目の前に鎮座する化け物はとんでもない量の炎を放つタイプだった。

 これでは口に入る前に焼け焦げて、永遠に口には入らない。


「他に……、何か他に戦い方は……」


 化け物の攻撃をもっちーズたちが体の大きさや形を変幻自在に変えることで、兵たちも自分も守ってくれている。おかげで、けがひとつなく聖力を放ち続けることができてはいる。

 けれど目に見えるほどのダメージは与えられていなかった。このままでは聖力が尽きるのは時間の問題だった。


(何か……何か方法を考えなきゃ……。パン礫もだめ……。聖力もあまり効かない……。物理攻撃だってほとんど効果がないし……。どうしたら……)


 ぐるぐると考えを巡らせながら、休みなく聖力を放ち続ける。


 老女は最終的に命を落としはしたけれど、ちゃんと化け物を倒したのだ。その時はまだ術が未完成だったために、化け物も未成熟だったのかもしれない。それでも多くの犠牲者を出し塔を破壊するほどの力を持っていたのだ。

 それをかつて聖女だった老女が倒したというのだから、きっと何か倒す方法はあるはずだ。


(考えるのよ……、シェイラ。きっと何かあるはず。化け物の弱点とか……これっていう倒し方が……!)


 その時だった。


「……みぃぃぃぃぃぃっ‼」


 ズシィィィィィンッ!


 巨大化したもっちーズの白い体が化け物の太い尻尾になぎ倒され、ゆっくりと地面に沈み込んだ。


「み……、みぃぃぃっ……」

「むぅっ……」

「に……にぃぃぃぃっ……」


 苦しげなうめき声を上げながら地面に転がる小さな体に戻ったもっちーズたちを、なおも化け物が攻撃しようと立ちはだかった。


「もっちーずちゃんっ‼ 逃げてっ! 早くっ‼」


 思わず大きな声で叫んでいた。


 その声に反応した別のもっちーズが、化け物に体当たりをしかけた。仲間たちを守ろうとしたのだろう。それを化け物が渾身の力で押しのけ、ギリギリともっちーズの首を締め上げた。

 


「もっちーズちゃんっ!」


 どんどん締め上げられていくもっちーズ。苦しげなうめき声を上げながら、その体が宙にゆっくりと浮いていく。化け物の力は、これまで戦ってきた幻影や魔物とは比べ物にならなかった。


(なんて力……! あのもっちーズちゃんたちが力を無効化できないなんて……! このままじゃ……)


 これまでは魔物や幻影の攻撃を、もっちーズは無効化もしくは上手にかわすことができていた。よって絶対的な防御力を誇っていたのだ。

 けれど今目の前で繰り広げられている攻防は、圧倒的に化け物が優勢だった。


「どうしよう……! どうにかしてもっちーズちゃんたちを助けなきゃ……!」


 いくら一晩で消えゆく存在とは言え、もっちーズたちは大切な分身で仲間なのだ。これまでずっと自分たちを守り支え、そして癒してきてくれた。

 そんなもっちーズが今とんでもない化け物に倒されようとしている。


 どうにかしてもっちーズを助けたかった。けれど聖力をどんなに放っても化け物はビクともしないし、パン礫の効果も薄い。

 このままじゃ――。


 唇をぎゅっと噛み締め、思わず飛び出そうとした時だった。


 グルゥァァァァァッ!


 目の前に立ちはだかる真っ白い大きな体に、化け物が大きく振り上げた太い腕が深くめり込んだ。

 


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