聖力が進化したようです 1
気がついたら、ベッドの上にいた。
「気がついたかい? シェイラ」
その声に、ゆっくりと瞬きを繰り返した。
「……え、リンド殿下? どうしてここに……」
リンドが心配そうな顔をして、自分の顔をのぞき込んでいた。
「君が倒れたと聞いて、飛んできたんだ。気持ち悪くはないか? めまいがするとか……」
言われてみれば、なんだか目の前がふわふわしてまるで揺れている気がする。
「聖力を一気に使い過ぎたんだ。神官たちによれば、聖力がまた使えるようになるまで回復するにはあと一日は寝ていた方がいいらしい」
「聖力の……使い過ぎ……?」
リンドが心配そうにうなずいた。
「君が無理をして頑張ってくれていたのはわかっていたんだ。ものすごい勢いで聖力を放っていたからね。本当なら止めるべきだったのに、すまない……。また無理をさせてしまった」
聞けば、聖力の使い過ぎは相当に体に負荷がかかるものらしい。聖力を使い過ぎるということはある意味命を削ることにもなるんだとか。
「そっか……。まぁでも、結果的に王都を守ることができたんだからよし、です。もっちーズちゃんたちも頑張ってくれたし。ふふっ」
もっちーズちゃんたちも疲れ果てたのだろう。いつもの場所でぐっすりと眠りについていた。それを見やり、微笑んだ。
「でも……心配かけてごめんなさい。無茶をしないって約束したのに……」
本当なら、リンドはこんなところで油を売っている暇などないはずだ。いくら魔物たちから王都を守り切ったとは言え、壊れた城壁の修繕やら後始末はたっぷりと残っているんだろうし。
けれどリンドは優しく微笑んで、首を横に振った。
「それだけ君が、この国や民を守ろうとしてくれたってことだからね。あやまる必要なんてないよ」
「でも……」
リンドの手が、額にかかった前髪をそっとなでた。
「だから君は何も気にせず、ゆっくり休んでくれ。相当に疲労も蓄積しているはずだからね」
「……殿下」
リンドの優しい声が、体中にじんわりと染み渡っていく。
「はい……。でも殿下も無理しないでくださいね」
「ん?」
「殿下だって、たまには草の上に寝っ転がって休まないと……倒れちゃうから……。あの丘でふたりで寝っ転がったみたいに……」
リンドの声を聞いていたら、また眠くなってきた。これ以上ないほどの安心感を感じながら、回り切っていない頭でつぶやいた。
「あぁ、わかっている。すべてが片付いたら、またあの丘に行こう。またふたりで草の上に寝っ転がって、空を眺めよう。シェイラ」
「ふふっ。そうですね……。もしそうできたら、きっとすごく楽しい……です……ね……」
遠ざかる意識とつむった瞼の裏に、リンドと見上げた気持ちよく晴れた青い空が浮かんだ。
「約束……ですよ……」
早くそんな穏やかな日がくるといい。心からそう思いながら、再びゆっくりと眠りに落ちていったのだった。
次に目が覚めたのは、なんと二日後だった。
「さ、シェイラ様! あーん」
侍女が、やわらかく煮た野菜がたっぷり入ったスープをひと匙すくい口の前に差し出した。
「あ、えっと……ありがとうございます。でももうひとりで食べられ……」
言いかけた口に、侍女が有無を言わさずスプーンを押し込んだ。
もぐもぐ、ごくり。
「むぐっ! と、とってもおいひいでふ」
目が覚めるなり入れ替わり立ち替わり侍女たちがやってきて、体を拭いたりスープをのませてくれたりと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
まるで小さな子どもにでもなった気分だ。
すかさず今度は別の侍女が、きれいな皿に盛られたデザートを差し出した。
「こちらもどうぞ! 料理長自慢のプリンですっ。新鮮な卵をたっぷり使っているそうですよ」
「……お、おいしそうっ」
目の前でふるふると揺れる黄金色のその姿に、思わず喉が鳴った。
ぱくり、もぐもぐ。ごくり。
「んーっ! 最高ーっ。おいひーっ。とろけちゃう!」
あまりのおいしさにほっぺたを押さえ歓声を上げれば、侍女たちが顔を見合わせ嬉しそうに微笑んだ。
「あ、そうでしたわ! あとで殿下がお見えになるそうですよ。目が覚めたとお伝えしたら、ぜひお顔を見たいとおっしゃって」
「えっ⁉ リンド殿下が? くるの? ここにっ!?」
がばり、と慌てて体を起こした。
「す、すぐに汗を流さなきゃ! こんな汗臭い体と寝ぐせだらけの髪でなんて、絶対に会えないっ!」
こうはしていられない、とベッドからはい出せば、侍女たちもこくりとうなずいた。
「確かにそれもそうですわねっ! では私たちがお手伝いさせていただきますっ」
「へっ⁉ 手伝いって……? え? あの……ちょっと待っ……!?」
止める間もなくあっという間に服を脱がされ、浴槽に放り込まれ泡だらけにされた。
裸を見られて恥ずかしいだのなんだのと思う暇もなく。
そしてかわいらしいワンピースに着替えさせられ、リンドの到着を待ったのだった。




