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もっちーズ、偵察する 2

 

 ガサゴソ……。てくてく……。

 カサカサ……。トトトトッ!

 

 とっぷりと更けた夜道を動きまわる、いくつもの小さな影。

 そのあとを、身を低くして偵察していることがバレないよう慎重に監視の役目を仰せつかった兵たちが忍び足で追いかける。


「おいっ! もっちーズ。どうだ、奴らの動きは?」 


 ひとりの兵が、先を行くもっちーズに話しかけた。

 その声に、ともすると長く育った草に埋もれそうなほど小さなもっちーズたちが振り返った。


 こくり……、こくりこくりっ!


 何体ものもっちーズたちの真っ白い頭が、暗がりの中でこくこくと縦に動いた。そして小さな体を精一杯に大きく動かしてジェスチャーで何かを訴えかけた。


「えーと……、ふむふむ。そうか! こちらには気づいていないし今のところ幻影の気配もない、と。ならこのまま追跡を続けよう!」


 はじめはこんなもっちりとした小さなパン種の塊とどう意思の疎通をすればいいのかと戸惑っていた兵たちではあったが、ともに過ごすうちになんとなく思っていることが読み取れるようになっていた。

 もちろんそれには、聖女シェイラのもっちーズとの付き合い方指南が絶対的な力を発揮していたのだったが。


「にしてもなんでこんな真っ白な目立つ体なのに、人目につかないんだろう……?」


 暗がりの中をとことこと走り抜けるもっちーズを見やり、ひとりの兵が思わず疑問を口にした。それに他の兵たちもうなずき、首を傾げる。


「そうだよな。どっからどう見ても、ただのパン種が動いてるようにしか見えないもんな。色もぱっちり目立つ白だし……」


 偵察や監視という役目を果たすに当たって、できるだけ目立たぬよう体を周囲の色や雰囲気に溶け込ませるのは鉄則である。そのために兵たちは暗闇や大地の自然な色味にうまく溶け込むよう努力していたのだったが、不思議ともっちーズたちはあんなに目立つ色をしていながら周囲に溶け込んでいた。


「それもやっぱり、聖力から生まれたからできる業なのかなぁ……? いいなぁ。偵察にはもってこいの能力だもんなぁ」

「だよなぁ。俺ももっと自然に周囲に溶け込めるよう、鍛錬を積まないとだな……」


 兵たちがまさかそんなことに感心しているなどとは思いもせず、もっちーズたちは夜の闇の中をてくてくと歩いていく。その先にはミルトンの姿があった。


 ここのところ、ミルトンがひとり真っ暗に夜も更けてからこそこそと王都の外れへと出かけることが続いていた。それがはじまった時期はちょうど、幻影が出現しはじめた時期と重なる。

 そしてつい先日の巨大な幻影が現れた直前にも、ミルトンはこそこそと王都を抜け出しどこかへと出かけていたのだ。


 ぴったりと連動するそのあやしい行動に、きっと呪術者たちにミルトンが指示を与えているのだろうと踏んで警戒を強めていたのだ。

 そして今夜、ついにミルトンが王都を抜け出したのだ。


 さっそくもっちーズとともにミルトンの追跡を開始した監視兵たちは、いつもの如く幻影の出現によりまたしても失敗かと肩を落としかけたのだが――。


 二体の幻影が立ちはだかり立ち尽くす兵たちの前に、もっちーズがひらりと踊り出た。そして何を思ったか、顔面に勢いよくぴとんっと張り付いた。


「……!?」

「何をする気なんだっ?」


 突然に視界を失った幻影たちは驚き戸惑い、右往左往し暴れ回る。その間に他のもっちーズたちが兵たちに先に行けとばかりに合図を送った。


「おい……、どうやら気にせずこのまま追跡を続けろと言いたいらしいぞ?」

「でも……幻影に張り付いてるあっちのもっちーズたちは放っておいていいのか……?」


 けれどもっちーズたちは気にせず行け、とばかりに合図を送っている。ならば、と無事ミルトンの追跡を続けることができたのだった。


 幻影に張り付いていたもっちーズたちもその後けがひとつなくけろりとした顔で遅れて合流したところをみると、幻影を見事撃退したか、もしくは追い払ったものらしい。

 実に見事なものである。


 そうしてミルトンの追跡を続けようやくたどり着いた場所は、何の建物もひとつの人影もないうら寂しい場所だった。


「にしてもこんな何もないところにきて、ミルトン殿は何をするつもりなんだ? 呪術者たちと密会するにしたって、こう人里からも離れているんじゃ……」

「確かにこの辺りには家の一軒もないはず……? あ、おいっ! あれを見ろっ」


 ひとりが指さした方向に、小さな建物が見えた。すぐそばに荒れ果てた畑が広がっているところをみると、建物は以前ここで暮らしていた農夫の家だったのだろう。

 

 そこをめがけてミルトンがまっすぐに歩いていく姿が、暗闇の中でもはっきりと見えた。

 ミルトンの姿を、草陰からもっちーズたちがじっと身をひそめて見つめていた。


「やはりここが……呪術者たちのアジト、なのか……?」

「こんな今にも崩れ落ちそうなボロ屋が……?」

「この中で……幻影術を……?」


 果たして本当にこんなこじんまりとしたボロ屋の中で、夜な夜な呪術者たちが恐ろしい幻影を生み出しているのか、とにわかには信じられず、兵たちが首を傾げ合ったその時だった。  


 ドンドンッ!


 なんとも遠慮も配慮もない扉を叩く音が、聞こえてきた。

 じっと息を殺し、扉が開くのを待った。


 そしてついに扉がゆっくりと開き、中からあやしげなローブ姿の男が顔をのぞかせたのだった。 


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