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驚きの真実 2

 翌朝目が覚めるなり、シェイラはリンドに謝罪された。


「えっ……!? なんで殿下があやまるんですか? 今回のことは、私が不甲斐なかったからで殿下のせいじゃ……」


 けれど、リンドは首をゆるゆると横に振った。その表情は、ひどく苦しげだった。


「違うんだ……。今回のことは、私に責がある」

「責って、どんな……?」


 わけがわからないまま、リンドを見やった。


「実は君に話していなかったことがあるんだ……。もう少し事がはっきりしてから話そうと思いながら、いたずらに不安を駆り立てるのもと迷っていたばかりに」

「どういう……こと、ですか?」


 リンドはこちらをじっと苦しげな顔で見つめ、話しはじめた。

 

「昨日君が戦った魔物は、本物の魔物じゃない……。実体のない幻影なんだ」

「……は?」

「だから君が思うようにやつらを倒せなかったのも、一掃に時間がかかったのも君が悪いんじゃない」

「え……?」


 ゆっくりと目を瞬き、リンドを見やった。


「幻影は、呪術者が生み出した実体のない偽物――、紛いものなんだよ。だから聖力も大して効かない」


 リンドから、幻影が何であるのかを聞きあんぐりと口を開いた。


 リンドが言うには、モンクル村に現われた魔物も他のすでに浄化済みの地に現われた魔物たちも皆、本物ではないらしい。

 呪術によって生み出された、実体のない幻影だというのだ。


「幻影が姿を現しはじめたのは、少し前からだ。君ももしかしたら多少は異変を感じ取っていたかもしれないが……」


 その瞬間、はっとした。


 言われてみれば、最近になって急に魔物の様子がおかしくなった。一時は順調に片付けられていたはずの魔物が、なんだか急に手応えがなくなった気がして。


 聖力を放っても放っても魔物の力がなかなか失われなくて、自分のやり方に何か問題でもあるのかと気にはなっていたのだ。


「じゃああの感じは、私が戦っていたのが実は本物と幻影の両方だったからだっていうんですか!?」


 リンドが暗い顔でうなずいた。


「幻影が国中に現れだした時点で、君に話しておくべきだったんだ。今ならそう思う。だが私は……」


 事実を伝えたところで、どう区別をつけるのかどう戦えばいいのかの策はまど見つかっていない。ならば余計に不安を増大させるだけだと考え、リンドは話すタイミングを見計らっていたと告げた。


「すまない……。そのせいで、結果的にこんなにも君を苦しめることになってしまった。許してくれ……、シェイラ」

「……」


 再び頭を深く下げたリンドに、返す言葉がなかった。


「……でも、なんでそんなものが? 誰が、何のために?」


 実体がないとは言ってもその身から繰り出される攻撃力は変わらない。攻撃によって巻き起こる風や火の威力も本物だ。

 トルクはそれにやられて、大けがを負ったのだ。


 けれどまさかそれが、幻影によるものだなんて信じられない。


「君も、おかしいと感じていたはずだ。なぜ聖力を放っても放っても、魔物たちが消えないのか」


 リンドの言葉に、はっと息をのんだ。


「そりゃ一度浄化したはずの地に魔物が現れるのも、聖力を放っても手応えがなくて変だとは思ったけど……」


 リンドはこくりとうなずいた。


「幻影には聖力がほぼ効かないからね。そもそも実体がないせいだろう」

「じゃあ、私が魔物をなかなか倒せなかったのはそのせい……」


 一度はちゃんと浄化も完了していた。それはちゃんと兵たちが確認してくれていた。

 ということはつまり、自分の力不足とか失敗のせいなんかじゃなかったってことだ。


「そっか……。そうだったんだ……」


 ほっとすると同時に、もやりとした。


 聖力よりもまだ物理攻撃の方が効くのなら、聖女である自分が下手に手を出さないほうがいい。

 聖力による攻撃をしたら、ダメージを与えられないどころかさらに怒りに燃えて暴れる可能性だってあるんだし。


 けれど、その区別はどうつけたらいいのか。


 幻影とはいっても見た感じはなんら本物と変わりなく映るらしい。

 たから大騒ぎになったのだ。聖女が消したはずの魔物がなぜまた現れたのか、と。


 本物だけを選んでうまく聖力を放つことができれば、両者が入り混じっていても無駄なく攻撃できる。

 でもあの時感じた感覚では、特に違いはわからなかった。


 聖力の効きが鈍いというだけで、どちらも魔物の気配はしたのだ。


 するとリンドが嘆息した。


「やはりそうか……。聖女の力ならあるいは違いを感知できるかとも思ったんだが……」


 どうやらリンドも、その辺についてはまだよくわかっていないらしい。


「もしもその区別がうまくつくようなら、君に早く伝えるべきだろうと思ってはいたんだ。だが……」


 神官たちによれば、本物も幻影も同じ気配を漂わせているのだという。おそらくは、一度消された魔物の命の欠片のようなものを使って、呪術によって幻影を作り出しているせいらしい。


 つまりは、幻影のもとが本物の魔物である以上明らかな違いは実体の有無と、聖力が効くか効かないかだけなのだ。


「じゃあ、どうやって幻影と戦ったらいいの……? 私に倒せない幻影に気を取られている間に本物の魔物退治が後回しになったら、それこそ……」


 問題はそこだった。


 聖女が本物の魔物を倒し、兵たちが幻影を倒す。その方法なら効率よく戦えるし、被害だって最小限に抑えられるかもしれない。


 でも聖女である自分にその見極めはできない。そうこうしている間に、今回のように退治に時間がかかってしまったら被害はどんどん拡大してしまう。


「……すまない。まだそこまではわかっていないんだ……」

「そんな……」


 だからこそ、リンドは幻影についてなかなか話せずにいたらしい。


 下手に幻影に怯えてしまえば迷いにつながる。聖力の発動にだって、その不安が影響するに違いないから、とリンドは嘆息した。


「……」

「……」


 部屋の中に、重苦しい沈黙が落ちた。


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