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幼馴染のプリズナー【CERO Z】

作者: 綾乃葵

昔の作品を少し簡潔に改稿しました。

彼女が泣いていた。


――けれど、それは“僕の彼女”ではない。

幼なじみの、沙樹だった。


理由は分かっている。

彼氏に、振られたのだ。


「……他に、好きな子ができたからって……」


かすれた声が、夜の静けさに沈む。

典型的すぎる別れの言葉。けれど、その残酷さは、彼女の表情がすべて物語っていた。



思えば沙樹は、いつも彼に合わせて生きていた。

髪型も、服装も。

「彼が好きだから」と言いながら、無理をして笑っていた。


――だから、報われてほしかった。


「沙樹は頑張ったよ。無理してでも彼に合わせようとした。それだけで十分だ。……だから次は、疲れない相手を探せばいい」


言葉は拙い。けれど、今の僕にできる精一杯だった。


沙樹は涙を拭き、かすかに微笑んだ。

「……君って、本当に優しいよね。……好きになっちゃうかも」


一瞬、時間が止まった。


胸が高鳴る。けれど、その響きは恐怖に似ていた。


――これは、ただのリバウンドだ。

僕は代用品にはなれない。


それでも、彼女の目はまっすぐで。

揺れる想いを、逃げ場なく突きつけてきた。


「もし、私が君を好きだって言ったら……どうする?」



既視感に襲われる。

あの夏の日。まだ幼かった頃。


同じ問いを、彼女は一度だけ投げかけてきた。

その時、僕は照れ隠しで言ったのだ。

「そんなわけないだろ」――と。


あの時の彼女の沈んだ瞳を、僕は今も忘れられない。


「私は……ずっと、君のこと……」


「やめろ」

思わず声が荒くなる。

「俺は……代わりになんて、なりたくない」


「ちがう。代わりじゃ――」


「じゃあ、どうしてだ! なんで先輩と付き合った! ……俺だって……ずっと、好きだったのに!」


夜に響いた叫びは、答えを奪った。

沙樹の視線が揺れ、沈黙が落ちる。


その瞬間、分かってしまった。

――もう戻れない。


高校三年の冬。僕と彼女は、取り返しのつかない決裂を迎えた。



五年が過ぎた。


大学に進み、社会人になった。

平凡に見える日常の裏で、ただひとつだけ異常があった。


――沙樹を、忘れられなかった。


奇跡の再会を夢想し続ける。

愚かしいと知りながらも。


届いたのは、一枚の年賀状だった。


『私たち、結婚しました』


白いドレスに身を包んだ沙樹の笑顔と、隣に立つ知らない男。

添えられた手書きの文字。


――今でも、君が好きでした。

――でも、私は幸せです。

――あなたにも、素敵な人が見つかりますように。


視界がにじむ。

泣いていると気づくのに、時間がかかった。



「……どうだった? 新作のゲーム」


フルフェイス型VRを外した僕に、白衣の男が問いかける。


「……最低だ。なんで“救えない幼なじみ”なんて題材にしたんだ」


「はは。俺なりの最高の恋愛シミュレーションを目指したんだけどな」


「俺がNTR嫌いなの知っててやったんだろ。同級生だからって、許せる話じゃない」


「でも……162周も繰り返したんだろ? 君は結局、その世界から逃げられなかった」


胸が痛んだ。

確かに、そうだった。


「夢を応用したシステムだ。過去の記憶をもとに世界を構築するから、違和感なく没入できる。本来は医療用に開発したんだ」


白衣の男の声は、真剣だった。


「君は“やり直したい”と言った。けれど162回ループしても、結末は変わらなかった。つまり――後悔してないんだろう?」


「……ああ」


目を閉じる。

本当は今でも考える。

もし、あの時「俺も好きだ」と答えていたら――と。


けれど、それはもう叶わない。


人は後悔を抱きながら生きていく。

それもまた、真実の終わり方だ。


「感想は?」


白衣の男が笑みを浮かべる。

僕は静かに答えた。


「――これが、俺のトゥルーエンドだ」

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