7. 瞬殺
『北東の部隊が苦戦しているようですので、援護に向かってください』
「了解」
東部中央を抑えた四〇四隊。
地上部隊が西部への侵攻準備を整えるまでの間に、他の部隊の援護に向かうことになった。
ミモニーは隊員に再び両腕を掴まれ、スピードを落として北上する。
「皆、魔力残量は大丈夫?」
「あたしは平気です!」
「私も節約していたから大丈夫です!」
「…………ん」
今回の戦闘は長期戦が想定されるため魔力の管理が大事だ。
特に使いすぎると体調を崩してしまうマルは念入りに確認をしていた。
「ランベリーさん。北部の状況は?」
『開戦当初はこちらの方が優勢でしたが、敵軍に一人手練れがいるようで、中々攻略しきれないといった感じです』
「それって空軍?」
『はい』
状況説明を受けてミモニーは素早く決断する。
やはり戦場とそれ以外とでは別人のようだ。
「なら私達はそいつを撃破。倒したら後は任せて引き返す」
「おう!」
「はい!」
「…………ん」
今の四〇四隊であれば、もっと多くの敵兵を撃破可能かもしれない。
だがここで無駄に魔力を消費することは今後のことを考えるとよろしくない。
それにランベリーの説明は一人の手練れがいなければ攻略できそうというニュアンスだった。
それならその一人を潰して残りは元々の担当の部隊に任せ、自分達は休むか魔力をあまり使わない他に出来ることをやるべきだ。
「見えてきた。あいつかな?」
戦場に近づくと、一人だけ明らかに動きが違う青い服装の敵兵がいた。ぐねぐねした不規則な飛び方をしながら味方部隊を翻弄している。
「皆、早速行くよ!」
「待ってください隊長!」
狙いを定めていざ攻撃、というタイミングでシエンが待ったをかけた。
「あの程度の敵なら隊長一人で十分だと思います!」
「え!?」
「ですからここは隊長に任せてあたし達は地上の兵器を上空から破壊して周り、地上部隊の進軍をフォローするというのはいかがでしょうか!」
「私一人なんて無茶だよ!」
『良いアイデアだわ』
「ランベリーさん!?」
あまりにも無茶苦茶だと思いシエンのアイデアを却下しようと思ったのに、ランベリーに採用されてしまった。
『四〇四隊は今シエンが言った通りに行動してください』
「いや私一人じゃ無……」
『ミモニー、あなたなら出来るわ。というか四〇四隊全員で攻めるだなんて、戦力過剰すぎてもったいない。そしてこの時間も勿体ない。ということで作戦開始』
「びゃああああ!なんでこうなっちゃうのおおおお!?」
『早くしなさい』
「びゃああああい!」
こうなってしまっては断れないことをミモニーは知っている。
もちろんランベリーの指示は軍の正式な指示ではなく現場での判断によるものなので断っても良いのだが、ミモニーの性格上無理なのだ。
「それじゃ隊長。手を離します」
「ま、待って」
「隊長、時間が惜しいです」
「そうじゃなくて、トサインちゃん。二人を守ってくれる?」
「…………ん」
トサインはミモニーがお願いしないと動いてくれない。
この指示は絶対に必要だった。
「それと、単に手を離すんじゃなくて、上に投げるような感じで放して欲しいの」
「と言いますと?」
「ほら、私っていつも落下しちゃうでしょ。だから上に投げてくれれば相殺されて真っすぐに飛べないかなって」
「…………分かりました」
シエンは何かを言いたげだったが、時間が勿体ないので止めた。
「では行きます!」
シエンの合図で、シエンとマルはミモニーの身体を上方向へと放り投げた。
「びゃああああああああ!なああああんでええええ!?」
するとミモニーは超猛スピードで遥か上空へと飛び去ったのであった。
「さぁ、あたし達は地上の兵器をガンガン潰すぜ」
「調子に乗って魔力使いすぎないようにね」
「それはお前だろ」
「なら勝負しようよ。どっちが効率的に破壊出来るか」
「望むところだ!」
残されたシエン達は、ミモニーのことなど全く気にせず引き返した。
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『クレイニー、誤って倒さないようにして頂戴』
「分かってるって、まったく面倒臭いなぁ」
ソースノ島北東部。
青い軍服を着た男が敵の背後を取り追いかけていた。
「くっ、しつこい!」
「そんな素直な動きじゃ当ててくれって言ってるようなものだよっと」
「ぐわ!」
男が放った魔力弾が敵の腕に直撃した。
腕なので辛うじて飛び続けられているが、痛みにより動きが大分鈍っている。
「よし、これなら俺だって!」
「くそ、くそ、俺達はお前らの訓練相手じゃねーんだぞ!」
弱った敵を別の男が追い始める。
その男に倒させるために、わざと胴体ではなく腕を狙ったのだ。
「この程度の敵、俺がいなくても倒せるだろうに」
『無茶言わないでください。彼らの大半は新兵なんです。いくら相手に実力者がおらず敗残兵がほとんどとはいえ、戦場の経験の有無は大きいんです。実際、あなたが出るまでは押されてたでしょ』
それがここの戦場で、攻撃側が押していた理由だった。
「ふ~ん、そんなもんかね。でも今更新兵を育てる必要なんてあるのか? もうこの戦争は終わったようなものじゃないか。後は大陸に散った生き残りの敵兵のゲリラ対策に注力すべきだろ」
『あなたが考えることではありません。それより油断はしないでください。敵の中に
悪夢の主がいるかもしれませんから』
「はは、あんな噂話を信じているのか。新月の夜に十分間で百の兵を単騎で撃破した、だっけか。そんなの我らがエース様でも難しいだろ」
『そうとも限りません。中央がすでに壊滅したらしいですから』
「は?中央ってこの島の中でもマシな奴らを集めてただろ。もう負けたのか?」
『はい。そしてどうやらお出ましのようです。あなたを狙っているのかもしれませんね』
敵兵を追いながらクレイニーが周囲を確認すると、遠くに奇妙な出で立ちの少女達を発見した。
「びゃああああああああ!」
「は? 何やってんだ?」
いきなり攻めてくるかもしれないと警戒しようとしたら、少女達の一人が物凄い勢いで上昇した。しかも他の三人は翻って別の方向へ向かってしまったではないか。
「なんだったんだ?」
『罠……という感じでは無さそうですね』
「まぁいい。念のためレーダーで上の奴の動向を確認しといてくれ」
『はい』
「悪夢の主だなんて、やっぱり噂に過ぎなかったってことだな」
興味を失い、自分の仕事を全うしようとクレイニーは飛びながら次の敵を決めて狙いを定める。
「舐めるな!もう俺達は負けられないんだ!」
「はいはい。ならちゃんと考えて攻撃しましょうね、と」
空戦における強さとは何か。
それはどうやって相手に攻撃を当てるか。
飛んでくる弾を避けることというのは、案外難しくない。
大抵は余裕で視認できる程度のスピードしか出ないからだ。
ゆえに様々な工夫を凝らして攻撃する必要がある。
シエンとマルは、シエンの攻撃でバランスを崩したところをマルがトドメをさすというコンビネーションでそれを成し遂げた。ミモニーとトサインは不規則な軌道で飛びながらの超高精度な一撃などで次々と敵を撃破する。
ただ魔力弾を狙って投げるだけの攻撃などベテラン相手には通用しない。
少なくともクレイニーにとっては児戯に等しい行動だった。
「それじゃ君も退場してくださ……」
『上空から来ます!』
「!?」
また身体の一部に攻撃を当てて敵を新兵の養分にしようと構えたら、オペレーターの焦った声が聞こえて来た。
クレイニーは攻撃を中断し、周囲に気をつけながら迎撃態勢を取る。
『物凄い勢いです!』
「超高速移動からの一撃って感じかな。悪くはない案だけど、その程度の小細工で俺が倒せると思うなよ」
クレイニーの手の中に、良く育ったスイカくらいの大きさの魔力弾が生成される。
「移動が高速であればあるほど軌道を変更し辛い。だから正面から真っすぐこいつをぶつけてやれば避けられない。一方で俺はじっくりと相手の動きを見て避ければ良い。お前のやり方は奇襲では通用するが、バレてたら意味が無いんだよ!」
それはクレイニーが実力者だからこその言葉である。
真っすぐ高速で飛んでくる物に対し、弾を正面から当てることは案外難しい。何故ならば、人は物を『真っすぐ投げる』ことが苦手だからだ。真っすぐ投げたと思っても、それはほぼ間違いなく弧を描き、思ったよりも斜め方向へと飛んでしまう。それはボールだろうが魔力弾だろうが同じこと。
投擲精度を高めるには相当の訓練が必要なのだ。
そしてクレイニーはその訓練を積み、実戦経験を重ねて来た。
絶対に外さない。
勝利を確信したクレイニーが、落下してくるミモニーの姿を捉えた。
「死いいいいいいいいねええええええええ!」
「死ぬのはお前だ!」
完璧なタイミングで完璧なコースに放たれた一撃が、ミモニーに向かって飛んで行く。
それは絶対に避けられないはずだった。
「は?」
しかしその一撃は何にも触れずに上空へと飛び去ってしまった。
進路変更不可能なはずのミモニーが、まるで世界線を移動したかのように真横に平行移動したのだ。
予想外の状況に間抜けな声を挙げてしまったクレイニーだが、焦らなかった。
「それならそれで避ければ良い!」
相手の攻撃を避けて、仕切り直して倒せば良い。
冷静にミモニーの動きを観察する。
「ここだ!」
ミモニーから放たれた超高速魔力弾が、クレイニーに向かって飛んできた。
それをクレイニーは横に移動して躱そうとする。
「は?」
それがクレイニーの最後の言葉だった。
飛んできた魔力弾がミモニーと同様に真横に平行移動し、クレイニーを追って来たのだ。そのことに気付いた時は、もう魔力弾が目の前だった。
敵軍のキーマンたる青い兵士はこうして破れ、戦況は徐々にまた攻撃側に傾きつつあった。




