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撃滅のピンカーヴィー ~落第少女達の成り上がり~  作者: マノイ
第一章 最後の希望

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4. ピンク色のエース

「何だ!?」


 マルを狙っていた男は、仲間が撃破された音を聞いて慌てて周囲を警戒した。


 そのままマルを確保して人質にすることも考えたが、何が起きているのか分からない状況でそれを選択することが出来なかったのだ。もしも彼らが真っ当に出撃した部隊であり、ミモニー達と同じようにオペレータが裏にいたのであれば、そちらの選択肢を選べとの指示があったかもしれない。


「死いいいいねええええ!」


 おどおどしていた時とは雰囲気が一変し、可愛らしい顔を歪ませて物凄い形相で男に迫るミモニー。


 だがその軌道はあまりにも不安定で、高速で真っすぐ移動していたにもかかわらず突然直角に曲がるなど、慣性は何処にいったと突っ込みたくなる程であった。


『ミモニー、着弾可能距離に入ったら合図します!』


 着弾可能距離とは、魔力弾が威力を弱めずに相手に届き得る距離の事だ。目視で判断することも可能だが、レーダーで相手との位置関係を把握できていれば、より正確なタイミングで攻撃可能である。


 特にミモニーは真っすぐまともに飛べないため、オペレータからのフォローは飛ぶことと攻撃することのみに集中できるからありがたい。


『今!』


 まだ百メートルは離れているが、攻撃の合図が来た。それがミモニーの暫定(・・)着弾可能距離である。


「死ねぇ!」


 飛びながら生み出した魔力弾を、ミモニーは男に向かって放り投げるように放った。するとその魔力弾は、これまた物凄いスピードで男に向かって飛んで行く。


「まぁまぁ早いが、そんな単独弾など構えていれば避けるのは造作も……ぐわああああああああああああああああ!」


 超高速で突っ込んでくるサッカーボール大の魔力弾を、男は右に避けようとした。だが避けようと体が動いた瞬間、魔力弾がカーブするように曲がり男に直撃したのだ。


「ば……馬鹿な……その……スピードで……ホーミング……だと……?」


 ホーミング性能がある魔力弾は、あまりスピードを出せないというのが定説だった。それゆえ男は魔力弾が曲がるとは思ってなかったのだ。


『ナイスキル!ミモニー!』


 その男もまた気絶し、パラシュートを開き海へと落ちて行く。


 ミモニーは今度はトサインと相対している男へと向かった。


「けほっ……けほっ……こ、これが隊長の絶対命中……す……凄い」


 体の調子が悪いマルは、豊満な胸を押さえて苦しそうにしながら苦笑いを浮かべる。もちろん苦く見えるのは苦しいからであり、本来は満面の笑みを浮かべたいのだが仕方ない。


「びぇええええええええ!」


 怪鳥のような叫び声をあげながら、ミモニーは次の男に狙いを定めて飛ぶ。


「な……なんだよ……なんなんだよあいつ!」


 怯える男だが、幸運だったのは超高速で移動していたトサインをずっと目視していたこと。それゆえ速さに目が慣れ、ミモニーの動きを追えていた。


「こんなところで死んでたまるか!」


 男はトサイン用に用意していた魔力弾をミモニーに向けた。トサインから注意を逸らす形になるが、何もしてこないトサインよりもミモニーの方が遥かに脅威だと察したのだ。


 トサインにとって絶好の攻撃チャンスなのだが、彼女は相変わらず楽しそうに飛ぶだけ。どうやら攻撃してこないという予想は正しかったらしい。


「(単発攻撃だけなら撃ち落としてやる。あれだけ暴走してるんだ、魔力だってすぐに尽きるはず。じっくり耐えてチャンスを待つ!)」


 男の判断は間違ってはいなかった。だが相手が悪かった。


『今!』


 オペレータの合図で、ミモニーが魔力弾を放つ。

 するとバスケットボール程の大きさの魔力弾が男に向かって超高速で飛んで行く。


「相殺してやる!」


 男もまたその魔力弾にぶつけるように、己の魔力弾を放った。飛んでくる弾に当てるのは難易度が高い技術なのだが、正面から真っすぐ飛んできたうえに弾が大きめだったこともありどうにか当てることが出来た。


 魔力弾は大きな音を立てて爆発する。


「やったぜ!」


 これで相手の攻撃をひとまず潰せた。

 そう安堵した男だったが。


「ぐわああああああああああああああああ!」


 ミモニーが放った攻撃は消滅することなく、僅かに小さくなっただけで男に向かってそのまま飛んできたのだ。


「ば……ばかな……」

『ナイスキル!』


 魔力弾は魔力量にどれだけの差があったとしてもぶつかったら爆発してその場で両方とも消えるというのが定説だった。ミモニーの魔力弾もそうなったはずなのに、何故か消えずに攻撃を続行した。


「~~~~~~~~♪」


 戦場に全く無関心だったトサインが、いつの間にかミモニーの様子を眺めていて、これまで以上に楽しそうに空を舞い始めた。




「ば……ばかな……なんだあいつは!?」


 仲間達が撃破される様子を目の当たりにした小隊長は、全力で逃げ出した。

 判断の速さは流石隊長と言うべきか。


「まさか……まさかあれが悪夢の主(・・・・)なのか!?一夜にして百の追撃部隊をたった一人で壊滅したという噂の……」


 そんなおとぎ話のような存在がいるはずがない。

 噂を鵜呑みにしていなかったからこそ、男はたった四人でこっそりと軍を抜け出して来たのだ。


「どうする……上に報告するか?だがそれだと抜け出したことがバレてしまう。それとも危険な相手を見つけたことでトントンにしてくれるか?」


 どう立ち回るのが今後の自分にとって良くなるか。

 保身のことばかり考えていた男だが、まだここは戦場だ。


 それを思い出させる声が背後から聞こえて来た。


「待ああああああああ!てええええええええ!」

「!?」


 なんと背後から真っすぐミモニーが追って来たでは無いか。これまで不規則な動きしか出来ていなかったのに、最短距離を通っているのは果たして偶然なのか。


「チッ、そう簡単に逃げられるとは思ってねーよ!」


 男は全力で逃げながら、上半身を捻って振り返るようにし、右の手のひらを迫りくるミモニーに向けた。


「そんだけ速けりゃ、これは避けられねーだろ!オラオラオラオラァ!」


 生み出されたのは大小様々な多数の弾幕。それをミモニーの進行方向にバラまいたのだ。

 シエンがやっていた意味の無いものではなく、相手の進行を阻害する意味のある弾幕。


 大きく迂回するか、あるいはスピードを落として気を付けながら通過する必要がある。


 ミモニーが選択したのは、弾幕の中を通過する方だった。


「はは、残念だったな!このままトンズラさせてもらうぜ!」


 念のため追加で弾幕をばら撒き、隊長は逃亡を確信した。

 いかに飛行が得意な人間であっても、簡単にすり抜けて追いつけるような密度ではない。




 では飛行が苦手なミモニーはどうするつもりなのか。




「びゃああああああああ!」


 どうもこうもない。

 そもそもミモニーは弾幕の中に突っ込む選択をしたわけでは無かった。


 まともに飛べず、勝手に弾幕の中に突っ込んでしまっただけ。

 となると彼女に待ち受けているのは、被弾の一択。


 そのはずだったのだが。


『ミモニー!止まって!止まっ……ええええ!?』


 真っ青になりミモニーを慌てて制止していたランベリーが、この日一番の驚愕に襲われた。


「当たる当たる当たる当たるうううう!」


 などと叫びながら飛ぶミモニーが、なんとスピードを全く落とさず、最低限の動きで魔力弾を躱しながら突き進むでは無いか。


 己の身体がギリギリ通るかと思えるほどの細いルートに躊躇なく突っ込み、ほんの僅かでも軌道がそれれば即死という状況。


 もちろん彼女は意図してそうしているわけではない。死にたくないから必死に飛行操作をしていたら、たまたま(・・・・)そうなってしまっただけのこと。命の危機による生存本能がもたらした超絶飛行テクニック。


 それを敵が見たら果たしてどう思うのか。


「びぁああああああああ!」

「ひいっ!ば、化け物!?」


 奇怪な叫びも相まり、男は恐怖で少しだけちびっていた。


 だが彼はそこで完全にパニックにはならず、まだ冷静に考える余裕が残されていた。


「そ、それならこれでどうだ!」


 このままでは逃げきれないと判断した男は、急降下して海面スレスレを飛ぶ。

 すると奇跡的に(・・・・)ミモニーも彼についていき急降下する。


「びぁああああああああ!」

「そのまま墜落しやがれ!」


 ワンチャン海に落ちないかと期待した男は、背後で猛烈な水しぶきが上がったことで一瞬喜びかける。

 だがもちろん命の危機において超精密飛行を勝手にしてしまうミモニーが、そんな簡単に死ぬわけがない。


「待ああああああああ!てええええええええ!」

「クソが!」


 男よりも超低空飛行で、海面を割るようにして追ってくるでは無いか。


「だがここからが勝負だ!おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃ!」


 男は再度弾幕を放ち、ミモニーを墜とそうとする。だが彼女はこれまた最低限の動きでそれらを躱した。


「そうなることくらい分かってたさ!」


 弾幕がミモニーに当たるなどとは思っていなかった。

 男の狙いは別にある。


 弾幕の一部が海に落ちて爆発し、海面が高く跳ね上がった。

 そしてそれがミモニーの視界を奪う壁になった。


 もちろん壁とはいえ、ただの水だ。

 勢いを殺さずにそのまま通過は可能だろう。


 だが一瞬でも視界が奪われてしまえば、前からやってくる弾幕が見えなくなってしまう。

 見えない攻撃を果たして避けられるだろうか。


「オラオラオラオラァ!」


 男は水しぶきをわざと何度も上げながら弾幕を海水の壁に叩き込む。


「流石にそろそろ当たれよぉ!」


 だがどれだけ攻撃を叩き込んでもミモニーにそれらが当たることは無い。

 良く見ると、見えていないはずなのに弾幕を避けながら壁を突き破ってくるでは無いか。


「まさかこいつ、目で見ずに魔力を感じて避けてやがるのか!? 高速飛行しながらそんな精密操作が可能なのか!?」


 可能かどうかと問われれば、やっているのだから可能と答えるしか無いだろう。

 もちろん意識的に出来るかどうかと問われれば疑問に思わざるを得ないが。


 焦る男は最後の手段に出た。


「これで……どうだああああああああ!」


 激しく弾幕を海に叩き込み、壁を作ったところで急上昇したのだ。


「そのまま壁に激突しろ!」


 男はミモニーを誘導し、視界を奪ってから崖のギリギリ手前で急上昇した。

 前が見えていないミモニーは勢いのままに激突して死亡するはず。


 ドゴオオオオオオオオオン!


 男の足元で物凄い爆発音が聞こえた。


「やったか!?」


 それがミモニーが崖に激突した音だと感じた男は歓喜の表情を浮かべる。


「やった……俺の勝ちだ!生き残ったぜざまぁみろ!」


 そう口にしながらも、男は決して油断していなかった。

 ミモニーが本当に死んだか確認するために戻るようなことはせず、スピードを落とさずにそのまま逃げようとしていた。


 だが。


『今!』

「死いいいいねええええ!」


 これまで以上のスピードで急上昇して接近したミモニーが、その手から即死の魔弾を放ってきた。


「ひいいいい!な、何故だああああ!ぐわああああああああああああああああ!」


 その一撃は男に確実に命中し、男は何が起きたのかも分からず気絶し落下することになった。


『海に大量の魔力弾を叩き込み、その爆風を使って更にスピードアップして上昇する。口で言えば簡単なことだけど、崖に激突しそうなあの状況でそれをやるなんて、ミモニー貴方って人は……』


 男が聞いた爆発音はその時のものだった。

 海水に紛れて何が起きたか分からなかったから、ミモニーがまるで瞬間移動でもして攻撃されたと感じたに違いない。


「やっぱり隊長はすげぇや!」

「けほっ……隊長……一生ついていくよ」

「~~~~~~~~♪」


 これが後に世界に名を轟かせることになる四〇四隊の初戦。


「びゃああああああああああああああああ!止めてええええええええええええええええ!」


 戦いを終えた彼女達が基地に帰投するにはまだ少し時間がかかるようだ。


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― 新着の感想 ―
生死がかかっていたら、なんかうまいこと切り抜けてしまうのね。 普段からこれができていたら、もっと早く使い潰されてしまったのかな。 これもこれで、一つのロマン砲なのかも。
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