25. ドラゴンブレス
「とんでもないわね」
オペレータールームにて、画面に映し出されているミモニーの驚異的な戦闘能力にランベリーは唖然としていた。
「まだまだ成長の余地があるってことよね。一体どこまで強くなるのかしら」
なんとなくとはいえ、狙った敵の方へと移動が可能になってしまった。超高精度な回避と攻撃は相も変わらず、殲滅速度が格段に向上した。
「でも全く嬉しくないわね。胸糞悪いことしてくれちゃって」
ミモニーの友達を利用して寝返らせようとするだけならまだしも、子供を利用するだなど卑劣なことこの上ない。あまりの不愉快さにミモニー同様に何かにあたりたくなってくる。
そんな気分をどうにか落ち着かせ、そろそろ締めに入ろうと通信を再開する。
「これで終わりかしら……え、これはっ!? 避けて!!!!」
思わずそう叫んでしまったのも仕方ない。レーダーに反応したのは彼女達がもっとも恐れるものだったのだから。
「報告!ドラゴンブレスの発射を捉えました!」
「馬鹿な!ここはアレの射程範囲外だぞ!」
「敵の無線によると、強引に発射させたそうです!おそらくは一発のみかと!」
「一発だけでも十分脅威だ!全軍退避させろ!」
オペレータールームが慌ただしくなり、各隊へ緊急の指示が出された。
『避けろって何からだよ!』
『何が起きてるの!?』
シエンとマルが周囲をキョロキョロ見渡して困っている。中途半端な指示を出してしまったランベリーの失態だ。
「ごめんなさい。急いでその場から離れて」
『離れるったってどっちに!?』
「それは今調べ……上よ。上に逃げて!出来る限り上に!高度限界までひたすら逃げて!」
『いきなりどうして!? 何でそうなるのよ!?』
「ドラゴンブレスが来る!」
『『!?』』
超長距離対地対空拡散爆裂殲滅魔導砲、通称ドラゴンブレス。
まるで中二病の塊かのような名前だが、その威力は全く馬鹿に出来るものではない。着弾すると超広範囲に魔力爆発が発生し、半径数キロ圏内を魔力破壊する。
巨大な魔力弾が拡散し、それが爆発し、その場のあらゆるものを殲滅する。
その様子がまるで空想上のドラゴンの一撃をイメージさせることからドラゴンブレスと名付けられた。
そのあまりの威力故、膨大な量の魔力充電が必要であり連射は不可能。とはいえ一撃だけでも十分に脅威であり、勝勢の解放軍を一瞬にして壊滅させる切り札。
「本来はここまで届かないのに無理矢理発射させたらしいわ。だから上空じゃなくて地上ギリギリで爆発する見込み。上に逃げるのはそういう理由」
『地上部隊は!?』
「もう退避してる。こんな時のことを想定して練習してあるから貴方達は気にしないで逃げなさい」
『分かった!隊長!聞こえてますか!?』
『う、うん。上だね。がんばる。あ、トサインちゃんも一緒に上に行くんだよ』
『…………ん』
暴走していたミモニーも冷静になりどうにか上空へと移動し、ミモニーのお願いしか聞かないトサインもこれで上に逃げるだろう。
「ふぅ……なんとかなりそうね」
ドラゴンブレスの発射を早めに感知できたため、少なくとも空軍は全員退避が間に合うだろう。地上軍は必死に逃げているが、着弾予想地点からの距離が近いため逃げ切れるかは分からない。最悪海に飛び込んで威力が弱まってくれればと願うばかりだ。
「(でも妙ね。どうしてこんな無茶をしてきたのかしら)」
この戦いが終わったらドラゴンブレスは使い物にならなくなるだろう。修理に時間がかかり、その間に解放軍の進軍を許してしまうことになる。
「(ドラゴンブレスが無くても守り切れると思ってる?)」
新型兵器やまだ見ぬエースと呼ばれる部隊など、解放軍が乗り越えなければならない壁は多い。敵軍はそれらに絶対の自信をもっていて、脅しの意味もこめて一発かましただけなのだろうか。
『くそ、なんて無茶しやがる』
『まさか仲間ごと攻撃するなんて……』
「え?」
マルが何気なく呟いた言葉に、ランベリーは慌てて画面を凝視する。
そこにはミモニーに撃墜されて、意識を失いパラシュートで落下する多数の敵兵の姿。生き残っている敵の空軍はそれらを回収せずに我先にと退避していた。
つまりこのままでは彼らは間違いなく死んでしまう。
そしてその中にはハロモゴも含まれていた。
『隊長!』
『だめです!』
『…………!』
「ミモニー!止めなさい!戻りなさい!」
ようやくランベリーは気付いた。
ハロモゴを利用したミモニーへの罠はまだ終わっていなかったのだと。
説得が失敗した場合、その命をもってミモニーを排除するつもりだったのだ。
ミモニーならば大切な友人を殺すようなことはしない。
むしろ死にそうならば敵であっても助けに来るはずだ。
そこをドラゴンブレスで吹き飛ばす。
「(たった一人を潰すためだけにそこまでするの!?)」
敵の中にそれだけミモニーのことを危険な敵であると認識し、排除したがっている人がいる。
そしてその悪意は結実し、ミモニーは死地へと飛び込んでしまった。
『くそ、隊長!』
『連れ帰らないと!』
『…………!』
「ダメよ!もう間に合わない!」
シエン達がミモニーを追いかけようとするが、ランベリーはそれを止めた。
『でもミモニーがいなければ意味がねーんだよ!』
『そうよ!今はまだ隊長が必要なの!ううん、隊長に死んでほしくない!』
『…………』
ここでミモニーを失ってしまえば、解放軍はもうこれ以上の進軍が難しい。訓練のおかげで強くはなれたがミモニー無しでこのまま快進撃が続けられる程には強くなっていないのだから。
そしてそれとは別に、ミモニーに死んでほしくないと思う。
だからシエン達は行くしかない。
そう思ったのだが。
『皆来ないで。上に逃げて』
ミモニーが彼女達を止めたではないか。
ハロモゴを助けるために、いつものように感情が暴走して動いている訳では無かった。
『私は多分大丈夫だから』
『んなわけねーだろ!?』
『そうよ!ドラゴンブレスの威力を知らないの!?』
焦るシエン達に向かって、ミモニーは冷静な声色を崩さない。
『私を信じて』
『っ!』
『くぅっ!』
『…………』
トサインが踵を返して上へと移動する。
シエンとマルはまだ躊躇しているのか動けない。
『大丈夫。私は死なないから。絶対に死のうとなんかしないから』
あの日、命を懸けて自分を守ろうとした友がいた。
だからこそ、大切な人が失われる辛さをミモニーは知っている。
自分が同じことを今の仲間にするだなど、絶対にありえない。
戦争を終わらせるという誓いを、こんなところで破棄するだなどありえない。
『隊長命令です。私を信じて上に逃げて、そして上に逃げた敵兵を少しでも多く倒しておいて』
『…………』
『…………』
『返事は?』
『了解!』
『了解!』
シエンとマルはミモニーの言葉を信じ、歯を食いしばって上空へと避難した。
「ミモニー、本当に平気なのね?」
最後にランベリーがもう一度確認する。
『はい、任せてください』
「そう、なら私も、いいえ、私達全員が信じるわ。だから絶対に……絶対に死なないで」
『了解!』
ミモニーがハロモゴの元へと辿り着く。
邪魔なパラシュートを小さな魔力弾で切り離し、自分の体を盾にして守るかのように彼女の体を抱き締めた。
その三秒後。
「着弾します!」
とてつもない爆音と共に、ユーイ海岸一帯が焦土と化した。




