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撃滅のピンカーヴィー ~落第少女達の成り上がり~  作者: マノイ
第一章 最後の希望

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2. 襲撃

「はうぅ……ご、ごめんなさいですぅ……」


 ロケットのように打ち上げられたピンク色の少女は、追いついた仲間達に両腕を掴まれてどうにか真っすぐ飛んでいた。


「気にする必要は無いぜ、隊長」

「そうよ。これからゆっくり慣れれば良いのよ、隊長」


 赤い格闘家風少女と、白い修道女風の少女は、まともに飛べない隊長のことを全くネガティブに感じていないようだ。


「…………」


 なお、普段着風少女は彼女達の後ろについていくように、相変わらずぼぉっとした顔で飛んでいた。


「ありがどうございばず~。で、でもやっぱり私が隊長っていうのはおかしいですよ!」

「そんなこと無いぜ」

「そんなこと無いよ」

「なんで~!?」


 まともに飛べない空軍人が部隊長だなど、普通に考えたらありえない。だが彼女の立場を否定するのはピンク色の少女本人だけだった。


『調子はどうかしら、ミモニー』

「びゃあ!」


 突然耳元から聞こえて来た声に、ピンク色の少女ミモニーは大きく体を震わせて驚いた。


『まだ慣れないのかしら。地上であれほど練習したのに』

「ずびばぜん~……」


 謎の声は機械を通して彼女達全員に伝わっている。無線による通信だ。


「へぇ、空でもくっきり聞こえるんだな」

「こんなに小さな機械なのに不思議ね」


 ミモニー両脇の二人は空いている手で耳元に張り付けた小さな丸い機械にそっと触れ、不思議そうにしている。それこそが無線の送受信機である。


『骨伝導で伝えているから、どれだけ周りが煩くてもしっかりと聞こえる優れものよ』


 上空を高速で飛ぶと風の音が非常に煩い。それにいざ戦闘が始まるとそこかしこで爆発音が鳴り響いてしまう。そんな中でも確実に基地とやりとりできるようにと開発されたのが、この骨伝導型小型無線機だった。


『さて、おしゃべりはここまで。オペレータとして作戦の指示を出すわ』

「は、はい!よろしくお願いします!ランベリーさん!」


 ランベリー。

 それが彼女達専属のオペレータの名前だ。


『作戦と言ってもブリーフィングで説明があった通り、基地周辺を飛んで敵影を確認するだけ。飛び方もコースも自由なのだけれど、それだけだとつまらないから勉強もしましょうか』

「べ、勉強ですか!?」

『ええ、そのまま飛行練習をしながら一般常識についても復習しましょう。本来であれば時間をかけて多くのことを学ばなければ戦場には立てないのに、貴方達にはその時間すら与えられなかったのだから』


 それはつまり、戦闘訓練が完了していない少女達ですら戦場に投入しなければならないような事態に、彼女達が追い込まれているということである。隠れ住むような洞窟を基地としているのも、それが理由なのかもしれない。


『では問題。『魔法』を使って飛行する際に、最も気を付けなければならないことは?』

「そんなの簡単だぜ。『魔力残量』に気を付けること。無くなっちまったら落ちちまうからな」

『正解、シエン。『魔力残量』は数値では分からないから個人の感覚で判断するしかない。もし少しでも枯れそうな兆候があれば、すぐに帰投すること』

「わ~ってるよ!」


 回答したのは格闘家姿の少女、シエンだった。

 なお、仮に落下した場合も物理的な対策が取られてはいるが、気休めのようなものであり戦場では死に直結する。本来であれば己の『魔力残量』が感覚的に理解できるように徹底的に身に刷り込ませる訓練が必要なのだが、彼女達はまだその訓練を受けていなかった。


『分かって無いから言ってるの。それに貴方その格好、寒く無いの?』

「う゛っ……さ、寒くなんか……ぶへっくしょん!……ねえよ!」

『あのねぇ、だからその格好はやめときなさいって言ったでしょ。風邪ひいたら怒るわ』

「…………次は考える」

『よろしい』


 露出が多い服装で上空一キロメートル付近を飛んでいるのだから、そりゃあ寒いに決まっている。魔法は彼女達の身体を寒さから守ってなどくれないのだ。


『では次の問題。ブリーフィングで強く注意されていた作戦空域からの離脱について。もしも離脱したら、どのようなことが考えられるかしら』

「今度は私が答えるよ。敵に見つかる可能性がぐんと高まり、救援も来ず、撃破されるか、捕らえられるか、そうでなくともかなりの危機に陥ってしまう、かな」

『正解、マルマルファース。ただし作戦空域から基地に戻る場合の離脱については危険では無いわ。もちろん勝手な離脱は命令違反になり処罰対象となるけれどね』


 回答したのは修道女風の少女、マルマルファース。


 今回の作戦は基地付近の哨戒任務。

 つまり作戦空域の外は基地から離れた場所ということになり、敵がいる可能性が基地付近よりも遥かに高くなるだろう。


「本名は止めてって言ってるのに。マルって呼んで」

『そうだったわ。ごめんなさいね、マル』


 ランベリーは素直に謝罪したが、シエンがニヤニヤ顔で揶揄い出す。


「マルマルファース!マルマルファース!キラキラしてて良いじゃん!ギャハハ!」

「キラキラしてないよ!泣き虫ぴえん!」

「な!あたしはシエンだ!それに泣かねーよ!」

「あれれ~そうだったっけ? ちょっと前に号泣してたのは誰だったかな?」

「ぐっ……てめぇだってあの時は……!」

「ケンカしちゃダメですぅ……」


 自分を挟んで口喧嘩を始めようとしたシエンとマルに対し、ミモニーは反射的に止めようとした。だがその言葉の勢いはあまりにも小さく、二人には届かないかのように思えた。


「申し訳ありませんでした!隊長!」

「気を付けます!隊長!」

「びゃあ!なんでそんなにかしこまってるのぉ!?」


 おどおどしている自分なんかを、どうして二人が真っ当に隊長として扱ってくれるのかが本気で分からないミモニーであった。


『くすくす、寄せ集めかと思ったけれど、貴方達って案外良い組み合わせなのかもね』

「うう……私なんかが隊長なんて変なのに……どうして……」


 ランベリーの声が面白そうに弾んでいるが、ミモニーは未だに自分が置かれている状況が納得出来ていない様子だった。


『次の問題。哨戒任務中に敵影を……』

「隊長」

「トサインちゃん!?」


 これまで無言でついてくるだけだった私服姿の少女、トサインが突然会話に割って入って来てミモニーは驚愕する。


「(今までほとんど何もしゃべってくれなかったのに!?)」


 それもそのはず、トサインの声を聞いたのは初めて会ってから今まで数回だけ。それも上官から強く促されてやっと口にしたのだ。

 そんな無口で寡黙な少女が自分から話しかけて来た。その衝撃にミモニーだけでなく、他の二人もオペレータも驚いていた。


「なにか、くる」

「え?」


 ミモニーはトサインの視線の先を確認するが何も見えない。だが科学の力は遠く離れた敵影であっても確認が可能だ。


「ランベリーさん!レーダーは!?」

『……敵影は見当たらない。いえ、これは!四〇四隊!今すぐに帰投しなさい!』

「え!?」


 これが訓練をしっかり受けた軍人であればすぐに反応出来ただろう。

 だが彼女達は中途半端な訓練しか受けていないひよっこだ。


 反応が遅れてしまい、動き出した時にはもう遅かった。


『ダメ。敵影はまっすぐにこちらに向かってきている。恐らく貴方達の存在がバレてしまった』

「じゃ、じゃあどうすれば!」

『敵影は四つ。本来であれば迎撃したいところだけど……』


 まだ作戦とは名ばかりの練習飛行を始めたばかりの小隊にそれを依頼するのは酷と言うのものだ。


『……………………』

「ランベリーさん?」

『帰投しなさい』


 急ぎ決断しなければならないところ、ランベリーは時間をかけて考え、帰投の判断をした。敵影はすでにミモニーでも視認出来る距離まで近づいていた。


「なんでだ!そこは戦えって言うところだろ!」

「その通りよ。何のために私達がここにいると思っているの?」

「…………」


 その判断に隊員たちは不満顔だ。

 軍の指示に反対するだなど、本来であればありえないことなのだが、ランベリーとミモニー達は対等な階級であり、しかもランベリーは上からの指示に従って判断したわけではないためセーフである。


 そもそもこの基地には今、真っ当に指示できるが存在しないのだが。


『…………隊長の判断に任せるわ』

「私ですかぁ!?」


 突然話を振られて困惑しているのは、隊長としての自覚が無いが故か。


『隊員達は貴方の判断なら喜んで受け入れるでしょう』

「だからなんでなんですって!」


 うんうんと頷く三人を見て、ミモニーは恐怖しか感じられなかった。


「うう……こんなコミュ障でビビリでまともに飛べない私なんかをどうして……」


 その言葉に両腕がより一層強く掴まれた。まるでそんなことないと反論するかのように。


「(どうしようどうしようどうしようどうしよう)」


 隊長としてどう判断するか。

 仲間達の命が懸かった重大な決断。


 プレッシャーに押しつぶされ、今にも吐き出してしまいそうだ。


「おえ……」


 いや、すでに胃酸が喉元までせりあがって来て、咥内が気持ち悪い。


 このままパニックになりそうな心境の中、ミモニーは敵影を見る。

 すでにかなり大きくなってきており、敵が四人の成人男性であることまで分かるくらい近い。


 その姿を見たら、不思議とすっと心が軽くなった。

 そしてやるべきことがパッと思い浮かぶ。


「せ、戦闘準備!」

「おう!」

「はい!」

「ん!」


 ミモニーが選んだのは戦闘だった。

 それはそれ以外に選択肢が無いことに気付いたからでもあった。


『……危なかったら直ぐにでも基地に戻ること!』

「それだけはダメです!」


 ランベリーが彼女達をフォローしようとするが、ミモニーはそれをきっぱりと断った。


「ここで私達が基地に逃げ帰ったら、基地の場所が敵にバレて、すぐに総攻撃を受けてしまいます。今、この基地が落とされることだけは絶対にダメです。もしも負けそうになっても、基地には戻らないで散開して必死に逃げましょう!」


 ランベリーとて、そのことを分からなかった訳ではない。


 だがミモニー達はこの基地の最後の戦力(・・・・・)であり、彼女達を失うということは、結局のところ敗北と同意なのだ。


 それゆえ、彼女達を帰投させた後にこっそり彼女達だけを別の小島にでも逃がして希望を繋げようと考えていたのだ。もちろんそれは、基地に残された自分達が犠牲になることを意味している。


 だがミモニーはそれはダメだと吼えた。

 自分達だけが逃げるなんてことは考えてもいない。


「そうだそうだ。流石隊長!」

「当然よ」

「…………」


 仲間達もミモニーの判断に全面同意。


 決して勝算があるわけではない。

 ただの無謀という訳でも無い。


 ミモニーの両腕には彼女達の震えが伝わってくる。

 死ぬかもしれないという現実を理解している。


 だがそれでもやらなければならない。


 何故なら彼女達は戦うと決めて空に飛び立ったのだから。


「四〇四隊、戦闘準備!」

「おう!」

「了解!」

「…………」


 襲い掛かる四人の敵を打ち倒すべく、四〇四隊の最初の戦闘が始まろうとしている。


『どうか……どうか無事で帰って来て……』


 そんな彼女達の姿を、ランベリーは祈るような気持ちで画面越しに見つめていた。


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