19. 【過去】友達 その二
「魔力弾!」
校庭の隅。
百メートル程離れた所に置かれているカカシに向かって攻撃を放つミモニー。
「ぎゃああああ!」
「逃げろおおお!」
「おま!ふざけんな殺す気か!」
生成した魔力弾を前方に向かって投げたはずなのに、何故かそれが後方へと飛んで行き、順番待ちをしている生徒に当たりそうになってしまった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
何度も頭を下げて謝るミモニーに対し生徒達は激怒した、ように見えて実はそうではない。
「くぅ~今日も最高だった」
「やっぱりミモニーの魔力弾はスリルがあるな」
「ちぇっ、今日はそっちだったか。残念」
激怒したように見えたのは、いわゆるお約束の反応。
彼らはミモニーの予測不能な軌道を楽しんで遊んでいるにすぎない。
入学してから一年。
二年生に進級したミモニーの実力は全く上昇していなかった。その姿があまりにも情けないからか、嫉妬されて心無い言葉を投げかけられるようなことも無くなっていた。
「うううう。どうしてこうなっちゃうのかな」
「ドンマイ、ミモニー」
「こればかりは練習あるのみですわ」
意気消沈するミモニーをハロモゴとスズが慰めてくれる。
これもいつもの流れだった。
「練習……してるのになぁ」
「大丈夫だよ。いつか絶対に上手くなるから」
「そうですわ。あなたの努力が実る日はそう遠くないに違いありませんわ」
「うう、あの、励ましてくれるのは嬉しいですけど、頭は撫でなくても……」
「そう?」
「そう?」
たっぷりと愛でられ、困り顔のミモニー。
そんな彼女達の様子を微笑ましく見守るのがいつものことだった。
しかしこの日は少しだけ様子が違っていた。
「お、おい、あれ」
「ハヤマじゃねーか」
「あのいつも寝ていて先生に怒られまくってる問題児の?」
「あいつが起きてる姿初めて見た」
体操服姿の一人の女子生徒が、三人の元へと歩いてきた。
「…………」
ハヤマは眠そうでダルそうな目をしながらミモニーを見る。
「ええと、ハヤマさんだよね。私達に何か用?」
「失礼ですが、初対面ですわよね」
ハモロゴとスズがミモニーを守るように前に出る。
危害を加えて来そうな雰囲気など全く無いのに、過保護である。
「…………」
ハヤマは何も言わない。
ただ、何処からか通信端末を取り出して操作をした。
そしてその端末の画面をハモロゴ達に見せる。
「これ、似合うと思う」
「…………」
「…………」
しばらくの間、画面を凝視したハモロゴとスズ。
やがて錆びた機械のように揃ってミモニーを見た。
「ひいっ!」
画面に表示されていたのはゴスロリ風のピンク色の衣装。ミモニーが玩具になることが決まった瞬間だった。
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「かわいい~!超可愛い!」
ミモニーの周囲をぐるぐる回って写真を撮りまくるハロモゴ。
「こ、こっちも、こっちも着て下さいまし!」
二つの衣装を手にして迫るスズ。
「…………これと、これもよろしく」
衣装がズラっと並んだクローゼットの中から次の服をピックアップするハヤマ。
「びゃああああ!私はお人形さんじゃないですぅ!」
そんなことを言われても似合うのだから仕方ない。
とでも言わんばかりに、三人はミモニーの抗議を全く受け付けない。
「ハヤマさんの御慧眼は実に素晴らしいですわ」
「どれもこれもミモニーが似合う服ばかり。これ全部ハヤマさんのコレクションですか?」
「うん。可愛いのが好きで、これが似合う人を探してたの」
それなら何故、今になってミモニーにコンタクトを取ろうとしたのか。
「こんな可愛い子がいるなら、ちゃんと起きていれば良かった」
なんてことはない。普段から寝まくっていて周囲に全く興味が無かったからだ。
探しているなんて言っていたが、探す気が全く無かったのである。
「どうしていつもそんなに眠そうなのかしら」
「夜更かししてるの?」
「これを作っているから」
「え!?この服ってハヤマさんの手作りなの!?」
「凄すぎですわ!」
「びゃああああ!そんな大事な物を着るなんて!」
ハヤマの特技に三人は心底驚き、ミモニーは絶対に汚してはならないと震えてしまっている。
「ミモニー、服は汚れても良いもの。だから気にせず着て」
「そ、そういうものなんですね……ってそれでも嫌ですぅ!」
「チッ」
丸め込まれそうになったが、着せ替え人形になることを認めた訳では無いと抗議を続けるミモニーであった。ハヤマは舌打ちしたので、恐らく話の流れで着させるつもりだったのだろう。
流石に申し訳なく思ったのか、度重なる抗議にようやくハロモゴが反応した。
「ミモニーはこういう可愛い服って嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど、恥ずかしいです」
「なら平気だね。すぐに慣れるから」
「諦めてくれる流れじゃなかったんですかぁ!?」
「そう?」
「あ、これダメなやつです」
結局自分は着せ替えから逃れられないのだなと、肩を落とすミモニー。
それならばと、せめて別の話をして意識を逸らそうと考えた。
「ハヤマさんは、将来こういう服を作るお仕事をするつもりですか?」
「うん。魔法よりもこっちが好き」
「素敵です」
「ホントに?」
「はい!魔法よりも良いと思います!」
「…………ありがとう」
ハヤマはとても温かな笑みを浮かべ、そして怪しい笑みへと変化した。
「あ、あれ? じゃあスズさんは卒業したら何を目指しますか?」
嫌な予感がしたので話の矛先を変えてみた。
「もちろんわたくしは貴族として多くの人々を守りますわ!」
「スズさんらしいです。スズさんなら絶対になれます!」
「そう、思ってくださるのかしら」
「当然です。スズさんが貴族じゃなければ他の誰が貴族なんだって感じですもん」
「…………ありがとう」
スズはとても温かな笑みを浮かべ、そして怪しい笑みへと変化した。
「あ、あれ?あれれ? じゃ、じゃあハロモゴさんは?」
「私?私はまだ何がやりたいか決まってないよ」
「そうなんですか?」
「うん。軍に誘われてはいるけど、戦争とか怖いし」
「ハロモゴさんなら大活躍間違いなしです! でも怖いならダメですね」
「そうなの。でも他にやりたいことがあるわけでもないし……」
「あ、それなら良い案があります!」
「何?」
「スラウン君のお嫁さん!」
「え?」
たまには自分が弄ってやる。
そう思ったミモニーはハロモゴの恋心を利用して揶揄おうとした。
「そ、そんな。私なんかじゃ……」
「とってもお似合いです!ハロモゴさん以外考えられないです!」
「そ、そう?」
「はい!」
「…………ありがとう」
ハロモゴはとても温かな笑みを浮かべ、そして怪しい笑みへと変化した。
「あれぇ!? なんでぇ!?」
三人はゆっくりとミモニーの元へと歩み寄り手を伸ばす。
「びゃああああ!」
そしてたっぷりと優しく頭を撫でるのであった。
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ミモニーを中心に集まった四人は、青春を謳歌する。
共に学び、共に遊び、共に笑う。
周囲の誰もが羨むくらい、彼女達は楽しそうだった。
ミモニーだけは可愛がられすぎて困っている時が多かったが、その姿もやはり微笑ましいものだった。
「またこれですかぁ?」
「やっぱりミモニーにはこれが一番似合うね」
「そうですわね」
「うん。自信作」
いつものようにハヤマの部屋で着せ替え人形になっているミモニー。
今はハヤマに最初に着せられたピンク色のゴスロリ服を着せられていた。
どうやらそれが彼女達の一番のお気に入りらしい。
「今日はこちらもつけてくださる?」
「また可愛いの……」
「わたくしがつけてさしあげますわ」
スズが手にしているのは、ピンク色で派手なカチューシャ。服に合わせて用意して来た逸品だ。
「きゃあ!とっても可愛い!」
ハロモゴが鼻血を出しそうな程に喜んでいる。
好みに完璧にマッチしたのだろう。
幸せな少女達の日常風景。
それがいつまでも続くのだと、誰もが思っていた。
「何!?」
「何!?」
「何!?」
「何!?」
突如けたたましいサイレンが鳴る、その時までは。




