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撃滅のピンカーヴィー ~落第少女達の成り上がり~  作者: マノイ
第三章 ユーイ海岸攻防戦

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16. 偽物と地獄の訓練

「びゃああああ!」

「たいちょ~」

「待ってください~」

「…………」


 敵に囲まれ必死に逃げ回るピンク色の女性と、赤、白、緑の三人の仲間達。

 彼女達が飛ぶ場所だけ人の密度がとても濃くなっていた。


 無線に敵軍の会話が混線してくる。


『あんな雑魚にやられたとか、だらしねぇな』

『オラオラ! もっと気合い入れて逃げねぇと人生終わっちまうぞ!』

『チッ、惜しい。もうちょい右だったか』


 敵軍は他の敵との交戦を蔑ろにし、彼女達を重点的に狙ってくる。接敵した当初こそは恐る恐るといった感じであったが、少し交戦しただけで噂に聞いていたような悪魔じみた力など無いことが判明。それからは楽しむかのように狩りをしていた。


『おい、いつまで遊んでるんだ。さっさと落とせ』


 だが中々仕留められないことに、カサイン軍のオペレーターが苛立ち始めた。


『分かってるんだが、なんでか当たらないんだよ』

『弾幕の中を突っ切ってギリギリで超回避してる時があるような気がするんだが、まさかあれが噂の原因か?』


 否定したはずの悪魔の存在が彼らの脳裏に徐々に蘇り始める。だがそんな恐怖など戦場ではマイナスでしかない。


『ありえない。そうだとしたら我々はとっくに壊滅している。逃げるのが得意なだけのやつなんて山程いるだろ。その手のタイプなんだろう』

『そりゃそうか』

『なら徹底的に囲って逃げ道を封鎖するしかねーな』


 オペレーターがきっぱりと否定することで不安は消え去った。回避が得意な相手に向けた作戦を決行しようとする。


 その時。


『なんだって!? 悪魔が出現した!?』


 オペレーターがとんでもない情報を口にしたでは無いか。


『おいおい、悪魔は目の前にいるだろ』

『そうそう、よわっちい悪魔もどきがよ』


 悪魔と呼ばれているピンク色の敵兵を開戦直後から自分達が追っている。それなのにどうして今更そんな情報が飛び込んでくるのか。


『そいつらは偽物だ! 本物は地上部隊に紛れ込んでいた!』

『なんだって!?』


 無線からカサイン軍の動揺した声が聞こえ、ピンク色の女性がにやりと笑った。


「びゃああああ!バレちゃったああああ!な~んちゃって」

「思ったより時間を稼げましたね」

「まさか生き延びられるとは」

「怖かったぁ」


 今回の作戦で解放軍にとってもっともきついところは何処か。

 それは地上部隊の上陸である。

 海岸沿いの鉄壁ガードは、人も物資も足りていない解放軍が突破するには困難極まりない。それなら空から援護すれば良いのだが、空も大量に展開されていて援護しようにも邪魔をされるに違いない。


 四〇四隊を密かに上陸させて不意打ちで敵地上戦力を大幅に削り、それから空の戦いに挑む。それが解放軍が考えた作戦である。


 だが噂のピンカーヴィーが空で姿を見せないとなると、地上部隊に警戒されるかもしれない。ゆえに偽の四〇四隊を空に飛ばせ囮とすることで、警戒されないようにしたのだ。


「まさかこの歳でこんな可愛い服を着ることになるなんてねぇ」

「そっちはまだ良いじゃないですか。私なんか露出が多くて寒くて寒くて」

「ローブで良かった」

「悲鳴もあげられなくて無言なの辛かったよ~」


 彼女達を間近で観察すれば違和感を覚えたかもしれない。

 化粧で誤魔化してはいるが、少女とは思えない年齢だからだ。


 背格好が似ているだけの女性が囮として選ばれた。

 しかも彼女達はソースノ島奪還戦に参加しなかったので敵軍に存在を認知されていない。正体不明の悪魔の身代わりとしてはうってつけだった。


 では彼女達はソースノ島奪還戦の時に何をしていたのか。


「もう二度と戦えないと思ってた」 

「怪我が治るまでに負けそうだったもんね」

「でも再び死地に飛び込む機会を与えられた」

「ここでもまだ生きている。私達は生きている」


 これまでの戦争で大怪我を負い臥せっていた。

 それがソースノ島奪還戦の終了後に完治して、新たな戦力として加わったのだ。


 その最初の任務が、大量の敵軍に囲まれて囮となって逃げ続けろ。

 死んで来いと言われているようなものだが、彼女達は自分からこの作戦を提案して志願した。


 死ぬためではなく、生きるために。

 破れかぶれではなく、勝利するために。


「私達は生きる!」

「「「はい!」」」


 これまで逃げ続けていただけの偽四〇四隊が、方向転換して敵軍に向かって行く。


『なんだあいつら、やる気か!?』

『舐めるな! 逃げなくなったなら容易く落とせる!』


 チャンスが来たと色めき立つカサイン軍。

 正面から先頭のピンクに魔力弾(アタック)を仕掛けるのだが。


『避けた!? ぐわああああ!』


 紙一重で避けられ、逆にカウンターで攻撃されて落とされてしまう。


『こいつら実力を隠してたな! 油断するなよ!』


 それだけで相手の真の実力を判断して警戒を強めたカサイン軍。ソースノ島の新兵とは違いベテランや実力者が多く、焦ることなく隊列を組み直してじっくりと戦う方針に変更したようだ。


『悪魔が別にいるなら、そいつらに固執する必要は無い。落とせるやつから順番に落していけ!』


 これまで囮に攻撃が集中していたため、他の兵の負担は少なかった。しかしここからは積極的に狙われるようになるだろう。数を減らすことを優先してきたため、特に実力が乏しい者は落とされやすい。


 解放軍は負け犬の集まり。

 実力者は以前の戦いで敗れ、弱い人間しか残されていない。


 囮となった偽四〇四隊もそれは同じだった。


 圧倒的な実力差に、数も相手の方が多い。

 本物の四〇四隊が参戦してくるまでの間に、果たして何人が落とされてしまうのか。


 そういった流れになるはずだったのだが。


『くそ、くそくそくそくそ! どうして当たらない!』

『どいつもこいつも奇妙な動きばかりしやがって!』

『自分から当たりに来やがる!死ぬのが怖くないのか!』


 これまで何度も成果を挙げて来た、訓練通りの攻撃をカサイン軍が仕掛けて来る。絶妙なコンビネーションで相手の逃げ道を塞ぎ、着実に落そうとする。


 だがそのいずれもが当たらない。

 軍隊なのに隊列を組まず、無茶苦茶な自由飛行で避けられる。


 当たる気配が無い。

 相手は悪魔ではないというのに。


『一体どうなってるんだ!?』

『悪魔に魂でも捧げたってのか!?』


 それは良いな、と解放軍の一人が思った。


「ひゃーっはっ! これが悪魔の力か! 最高だぜ!」


 そしてそれに次々と乗っかる仲間達。


「全く当たる気がしないわね」

「ちょ~気持ち良い~!」

「ピンカーヴィー様! もっとお力を!」


 相手を恐れさせるのに、これほど有効な冗談は無いだろう。


 いや、半分は冗談では無かった。


「こんなのあの訓練に比べたらどうってことないぜ!」

「ぶつかりそうな岩なんて無いしな!」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!ぎゃはは!」


 彼らの実力が突然急上昇したのは、命を懸けた壮絶な訓練を行ったから。


「ピンカーヴィー様に続け! 俺達は誰一人として足手纏いなんかじゃない!」

「おおおおおおおお!」


 ミモニーの飛行について飛ぶという地獄の訓練を乗り越えたから。


 全力飛行で墜落しそうになり、岩にぶつかりそうになり、無数の訓練弾の中を突っ切り、不規則な軌道に翻弄されながら必死に喰らいついて飛び続けた。


 一瞬のミスが死につながる訓練。


 その緊張感と必死さが彼らを強くした。死地を乗り越えた成功体験が実となり力となった。


 敵がどれだけ攻撃をしてこようとも怖くなどない。

 何故なら訓練の方がよほど怖かったから。


 敵の攻撃がどれだけ体の傍を通ろうが怖くなどない。

 何故なら訓練では自ら当たりに行くルートしか飛ばないから。


 敵がどれだけ強かろうが怖くなどない。

 敵より強いと信じる悪魔に多少はついていけるようになったのだから。


「びゃああああ!あはははは!」

「いくぞおらぁ!避けてみろやぁ!」

「ぬるいぬるいぬるいぬるい!壁でもぶつけてこいってんだ!」


 偽ミモニーも、三一〇隊も、空を駆ける全ての兵士が敵を困惑させる。


『落ち着け!向こうの攻撃だって簡単には当たらないんだ!有利なのはこっちだ!』


 だが彼らが練習したのは飛行技術だけ。

 攻撃技術は未熟なままで、中々カサイン軍に当たらない。


 戦況は膠着状態。

 むしろ数に差がある分だけ、時間が経てば解放軍は不利になる。カサイン軍は交代制にして魔力の節約が可能だが、解放軍にそんな余裕など無いのだから。


 しかもカサイン軍には、まだ戦力が残されていた。


『SAMMの発射を確認! 各員迎撃せよ!』


 山の奥からミサイルが飛んできた。


 科学兵器は防御(ガード)で無効化可能。

 だが情報通りならば、それのミサイルの中には魔力が詰まっている。


「俺か!良いぜ、鬼ごっこは得意だからな!」


 誘導性能のあるそのSAMMが、解放軍の一人の男を追尾する。

 男は訓練で培った不規則な動きで逃れようとするが、SAMMはしっかりと後をついて来る。しかも男よりも飛翔スピードが速いため、このままでは追いつかれてしまうだろう。


「だったらこれでどうだ!」


 男はSAMMに向けて魔力弾(アタック)をぶつけてみた。

 細長いソレに当てるのは難しかったが、三度目で見事に先端にヒットした。


「ぬおおおおおおおお!」


 着弾した瞬間、大爆発が発生して男は吹き飛ばされてしまった。

 大量の魔力が周囲に放たれ、それが防御(ガード)していた男の身体を押し流したのだ。


「なんだそりゃあ!あんなの当たったら即死だぞ!」

「魔導兵器は威力が弱いんじゃなかったのかよ!」


 空軍が敵の攻撃を受けた場合どうなるのか。それは必ずしも死に繋がるわけではなく、攻撃の威力や当たり所によっては重症で済むことが多い。

 行動不能になった瞬間、背中のパラシュートが自動で開いて落下するようになっている。もしも死んでいなければ、そしてパラシュートを破壊されなければ生存できる可能性は高い。むしろ攻撃側がそのまま放置して捕虜として捕えることもある。


 だがSAMMの攻撃はあまりにも威力が高すぎるため、直撃それすなわち死になってしまう。しかもそれほどの威力の攻撃が追尾してくるのだ。あまりにも恐ろしい。


 もちろん死を過度に恐れなくなった解放軍はパニックになるようなことは無いが、敵からの攻撃が激化したため回避に専念させられ、中々攻撃が出来なくなってしまった。


 徐々に押し返しつつあるカサイン軍。


「残念だったな! 最初からこうしていればお前達の勝ちだったかもしれなかったのにな!」

「まんまと策にひっかかってくれてありがとうよ!ば~か!」

「ここからは一方的な展開だぜ!」


 偽四〇四隊に警戒しなければ。

 最初から全力で全員の迎撃を目指し、SAMMを惜しみなく使っていれば。

 もっと早くに押し返していれば。


 今頃はカサイン軍が制空権を得ていたかもしれない。

 そうなってしまえば、いくらピンカーヴィーとはいえひっくり返すのは困難だろう。悪夢の夜やソースノ島の時とは敵の数が違いすぎる。圧倒的なまでの物量で抑え込むことが出来たかもしれない。


 だが敵は様子見をしてしまった。

 計算高く、確実に勝つために相手の出方を伺いながら状況に応じた戦いをした。偽四〇四隊の撃破を優先し、それが不要と分かったら敵兵力を少しずつ減らそうとし、中々敵が倒せなかったのでSAMMを投入した。


 それだけの時間をかけてしまった。

 それだけの時間をかけさせられてしまった。


 地上部隊はすでに壊滅に近い状態だった。

 立て直すには今しばらくの時間がかかるだろう。


 となると何が起きるかなど決まっている。


『下から来るぞ!気をつけろ!』


 オペレーターの声に反応したカサイン軍の一人の男が、周囲を警戒しながら下を見る。


「何処だ。何処から来やがる!」


 しかし本物の悪魔らしき存在が何処にも見えない。見えるのは激しい戦闘を繰り広げる地上の様子だけ。


「ぐぼっ!」


 突然男の頭部に猛烈な痛みが発し、意識が途切れようとする。

 その間際、上から(・・・)落ちて来るピンク色の何かが視界の端に映った。


「下からじゃねーのかよ……」


 それが男の最後の言葉となった。


 オペレーターの指示に男が反応した時、ミモニーは猛烈な勢いで急上昇し既に男の頭上まで移動していた。そしてそのまま急反転して男を狙ったのだ。指示が彼女の超高速移動に追いついていなかったがゆえの不幸であった。


 悪魔の降臨。

 これにより状況が一気に解放軍に傾くことが確定した。

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