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撃滅のピンカーヴィー ~落第少女達の成り上がり~  作者: マノイ
第三章 ユーイ海岸攻防戦

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14/16

14. 激戦の開幕

briefing

 大陸奪還の準備は完了した。

 最初の目標はユーイ海岸。


 ユーイ海岸は平地が少なく、すぐ背後に小さな山が聳え立つ。敵は海岸に沿うように南北に広く展開し、ソースノ島奪還戦と同様にマシンガン型魔導兵器が並べられている。同じと言っても数が比較にならないくらい多いため、正面から突っ込めばハチの巣になること間違いなしだ。くれぐれも無謀な特攻は慎むように。

 また、背後の山に多くの伏兵が潜んでいることも想定される。特に新型兵器の地対空魔導ミサイル、SAMMが配備されたという情報も掴んでおり、視認しにくい山の中から突然攻撃される可能性がある。威力もホーミング性能も非常に高いらしいため、見つけ次第破壊せよ。

 敵飛行部隊の総数は不明。だが対岸の人影はそれほど多くはなく、大量展開されるということは無さそうだ。それにエースがいるという情報も入っていない。情報統制されているのか、あるいはピンカーヴィーの実力が甘く見られているのか。どちらにせよ、油断せずに望んでもらいたい。


 目標は敵主要施設と、敵主力部隊。正面から侵入し、可能な限り多くの目標を破壊、撃破せよ。


 なお、嘘か真か敵がピンカーヴィー対策を用意しているという噂も聞こえてくる。あらゆる警戒を怠らず行動せよ。


--------


「よっしゃ!やってやるぜ!」

「今日は体調が良い気がする。行けるよ」

「…………」


 いつも通り元気一杯のシエン。

 調子が良さそうなマル。

 ぼぉ~っとしているトサイン。


 四〇四隊のメンバーは平常心で戦地へと飛んでいた。

 一名以外は。


「…………」

「隊長?」

「どうされましたか?」


 何故かミモニーは怯えることもなく、隊長としてのプレッシャーに潰されそうになることもなく、無言で飛んでいた。


「…………」

「隊長!」

「え? 何々!?」


 仲間が話しかけても反応が無かったため、シエンが耳元で大声で呼んだらようやく反応した。


「ぼぉっとしているようですが、大丈夫ですか?」

「もしかして体調が優れないのでしょうか」

『ミモニー、何か問題があるようでしたらすぐに報告すること。あなたの調子が悪ければ私達は絶対に勝てません。作戦の延期を検討します』

「びゃああああ!ごめんなさい!大丈夫ですうううう!」


 かなり心配をかけさせてしまったと知り、ミモニーは大いに慌てた。だがミモニーよりも周囲の面々の方が遥かに慌てていただろう。ランベリーが言うように、この戦の勝敗はミモニーにかかっているのだから。


「なんとなく、変な感覚があったんです」

『変な感覚?』

「嫌な予感、とは少し違って、何かが待ってるかもっていう予感みたいなもので、良く分からなくて」

『そう……体調面では問題無いのよね』

「すっごい元気です!」


 空元気という雰囲気ではなさそうなため、作戦延期の判断は無しになった。


『そういう感覚ってのは案外馬鹿に出来ないわ。本当に何かが待っているかもしれないから油断しないで頂戴』

「はい」

『シエンとマルも、隊長を気にかけてあげて頂戴ね』

「もちろんだぜ」

「当然よ」

「…………ん」


 呼ばれていないのにいつもミモニー以外に反応しないトサインが自発的に返事をした。それだけミモニーを心配する気持ちがあるのかもしれない。


『今日はよろしくなピンカーヴィー隊!』

「え?あ、三一〇隊の方ですか?」

『ちっ、今日は悲鳴が聞こえなかったか。残念だ』

「どうしてですか!?」

『何よあんた。ロリコンな上にドSなの? 救えないわね』

『誤解だ!お前だって悲鳴聴いてたすかるとかって言ってただろ!?』

『私がそんなこと言う訳ないじゃない』

『ずりぃ!俺ばかり悪者にしやがって!』

『地上では絶対にこの野獣を近づけないから安心してね』

『俺よりお前の方が危ない気がするんだが』

『何か言った?』

『ひぃ!なんでもないです!』


 相変わらず元気な三一〇隊だが、ソースノ島奪還戦では一番被害が大きく人数が減っている部隊でもある。だからといって意気消沈していないのは、これまで多くの仲間が失われるところを見て来ているため、今更その程度で気落ちなどしてられないからだ。


「(地上で何度も会ったのに忘れちゃってるのかな?)」


 四〇四隊は他の部隊と地上で会ったことがある。それなのに今更会わせないというのはどういうことかと疑問に思うミモニー。ただの場を和ませるジョークなのだが、通じていなかったようだ。


『そっちは元気だな。こっちは相変わらず三人しかいないからしんどいってのに』

「あ、二〇八隊の隊長さんですね。今日はよろしくお願いします」

『おう、よろしく頼む。ソースノ島では助けが来なかったが、今日は頼むぜ』

「あ、あれは、その、救援要請が来なかったから……」

『よ~しお前ら!今日も要請出さねぇから全力で死のうぜ!』

「びゃああああ!出してください!死なないで!」

『隊長また揶揄って……』

『娘さんにも同じことして嫌われてたらしいですよ』


 そしてその娘の面影をミモニーに重ねているのかもしれない。

 戦争ではこの程度の話などあり触れている。


『ま~た空の連中は楽しそうだぜ。こっちは難易度が激増してまた吐きそうになってるってのに』

「楽しくないです!」

『吐く前に穴だらけにされるから安心して彼女達のように楽しそうにすると良いさ』

『楽しくないです!』

『笑いまくったら気持ち悪い奴だと思って避けてくれたりしてなハーハーハー!』

「だから楽しくないですぅ!」


 地上部隊からも前回と同じように揶揄われ、戦闘前のこの流れが定番になりそうであった。


『ミモニー、リラックスするのは良いけど気を抜きすぎないようにね』

「だから楽しくないのに!」


 これから命のやりとりをするというのに、それが楽しいというのは狂人の部類に入るだろう。作戦をなめていると思われている。あるいは狂っていると思われている。どちらにしろミモニーにとって不本意でしか無かった。


『ですがミモニー、緊張しすぎるのも問題ですよ』

「大丈夫です。いつも無我夢中で緊張とか楽しむとかそれどころじゃないですから……」

『…………』


 そもそもミモニーはまともに飛ぶことが出来ない。ゆえにそれを必死に制御し、その状況でも殺意満々で攻撃をする。集中しろとか、心にゆとりを持てとか、よくある注意事項など彼女には全く意味をなさなかった。


「むしろシエンちゃんとマルちゃんが心配だけど、大丈夫?」

「あたしはいつも通りです!」

「私もです」


 そう、二人はいつも通り緊張している。

 だがその緊張が程よく作用し、ソースノ島では集中を切らさずにスムーズに身体が動いていた。ミモニーがやられてしまったり、敗北濃厚になるなどの余程の緊急事態が無ければ問題無いだろう。


「トサインちゃんも大丈夫? 今日はたくさん攻撃してもらうつもりだけど」

「…………ん」


 今回の敵が多いこと、そして訓練によって味方の技術が上昇したこと。

 それによりトサインには前回のような守備では無く攻撃を担当してもらうことになっている。ミモニーに匹敵する実力を有するトサインだが、どこまで活躍できるかは未知数だ。


 いや、それよりもミモニーが心配なのはトサインの心。


「(緊張するのかな。いつか普通にお話し出来る日が来ると良いな)」


 戦争で心が壊れてしまった人は数多く、トサインもその一人だと思われていた。

 いつの日かその傷が少しでも癒え、友として笑い合えたらどれだけ幸せかとミモニーは思う。


「(でも多分無理だよね。壊れた心は簡単には戻らないもん。私みたいに(・・・・・))」


 トサインではなく、自分が原因で歩み寄れないだろう。


 ミモニーはか弱い少女である。

 そんな彼女が戦いになると鬼のような形相で容赦なく敵を屠り続ける。それが普通であるわけがなく、彼女もそれを自覚していた。


『敵さんのお出迎えね』


 ランベリーの言葉でミモニーは思考を中断させ、戦闘モードに切り替える。


 正面にはすでに飛び立っている多くの空軍と、びっしりと海岸を埋め尽くす陸軍の姿。


 予想していたよりも多い敵の群れに、彼女達はこれから突っ込もうとしていた。


『有象無象がどれだけ集まろうが、御伽噺の悪魔(ピンカーヴィー)には敵わないってことを教えてやりましょう!』


 祖国奪還に向けた大戦が始まる。

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