13. 作戦会議
「さて、ようやく作戦会議を始める訳だが」
「誰のせいよ」
「しょうがないだろ! 演説とか一度やってみたかったんだから!」
今日集まった目的は今後の方針を決める作戦会議。
だがオスカーの演説のせいで開始がかなり遅れてしまっていた。
もちろんそれは意味あることで誰も文句は無かったが、メンバーはわざと茶化して空気を和らげようとうしていた。
「とにかくだ、地図を見ながら話をするぞ」
大きなテーブルの上に世界地図が置かれている。
それを全員で囲みながら話をする。
「今俺達がいるのは、ここ。ゴーテンヴァ諸島のソースノ島だ」
そこは地図の北東に位置する少し大きな島である。
目と鼻の先に東大陸があり、視力が良い人であれば海岸沿いの街並みが目視でギリギリ分かる程度に近い。
「敵は今、ユーイ海岸に防衛ラインを敷いている。こっちに攻めて来る気配はない」
「こちらが攻めて来るのを待っているのでしょうね」
「また島々に逃げられたら面倒だと思ってるんだろ。俺達は兵力を残しておく余裕なんて無いし全軍で突撃するしかない。向こうからしたら全滅させるチャンスだからな」
つまりここで攻めたら相手の思うツボというわけだ。
「なら裏をかいて別方向に攻めるか?」
「別方向……南はかなり遠いわよ」
ソースノ島から南方向には海が広がっている。遥か彼方に東大陸の南端がせり出している個所があるが、そこまでの間に補給や休憩が可能な島は無く、飛翔で向かおうにも絶対に魔力が足りず墜落する。
軍艦があればあるいは辿り着けるかもしれないが、それはそれで敵軍に動向を察知されて攻撃されるか、結局向かった先で万全の態勢で待ち構えられるのがオチだろう。しかもその場合、長い船旅で味方は全員疲れており勝てる確率は限りなく低い。
「いや、真南じゃなくてユーノ海岸よりも南、マキオゥエィザ海岸辺りまで迂回するのはどうだ」
ユーノ海岸は東の海に突き出る形になっているため、それより南を攻めるとなるとユーノ海岸を迂回する形で海を進み、長く飛ばなければならない。
「ユーノ海岸の部隊が横から急襲してきそうね」
「だが上手くいけば守備が薄い場所を攻めることが出来る。そこからの防衛進軍ルートも考える必要はあるが、上陸するだけなら成功する確率はそうは低くないと俺は見てる」
オスカーのアイデアを、メンバーは頭の中でシミュレートして検討する。
そんな中、一人の男性が他のアイデアを提案する。
「でもそっちが手薄とは限らないだろ。それに例の兵器が届くかもしれない。だから北から回るのはどうだ?」
「北か……確かに中央より警備は薄いだろうが、今の俺達があの極寒の地でまともに戦えるだろうか」
ユーイ海岸より北に向かうと、そこは氷河が広がる雪と氷の世界。
戦闘機を利用した戦闘ならまだしも、人が空を飛んで戦う現代において、そこで戦うなら寒さ対策が必須だ。しかし物資に乏しい彼らにはそんなものは無い。敵だけでなく凍死との戦いになるだろう。
「北か、南か、正面か。ううむ……」
少しでも勝率が高い選択肢を選びたい。
オスカー達はこれまでにもたらされた様々な情報を組み合わせて、最適なルートを検討する。あ~だこ~だと議論をするが、これだと言った答えが出ない。
それならばと、ランベリーがミモニーに質問する。
「ミモニーはどのルートが良いと思う?」
「私ですかぁ!?」
「そうだな。現場で戦うのはミモニーだ。俺達の議論は気にせず、率直な意見を言ってくれ」
「で、でも……」
ランベリーを見ると、彼女は笑顔で頷いた。
自分の意見が誰かのメンツを潰すことになって恨まれないか心配だったが、そんな心配など無用だと言われたのだ。
それならばと、ミモニーは恐る恐る答えた。
「真っすぐ攻めれば良いと思います」
ユーイ海岸を攻める。
迷うことなくそう答えた。
「だがミモニー、ユーイ海岸は敵が万全の態勢で待ち受けているんだぞ。凄い危険なんだぞ」
「全部倒せば良いだけです」
「ソースノ島よりも遥かに多くの敵がいるかもしれないんだぞ。しかも新兵などよりも遥かに強い敵が」
「全部倒せば良いだけです」
「魔力版の新型SAM、SAMMが配備されたらしい。ホーミング性能が高い攻撃が地上からも襲ってくる」
「全部壊せば良いだけです」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
どれだけ恐ろしい場所だと伝えても、ミモニーの答えは全く変わらなかった。
まるで脳筋かのように、倒して壊せば良いと主張するだけ。この場のメンバー全員がなんとも言えない表情を浮かべていた。
「おいランベリー。彼女は聡明だって話じゃなかったのか?」
「実際そうだったのよ。戦場では的確に指示出来ていたのにどうして……」
「私何か言っちゃいました!?」
困惑するメンバーの様子を見てあたふたするミモニー。
しかしミモニーの選択は、単なる脳筋だからでは無かった。
「だってこの程度の敵を倒せなきゃ、戦争を終わらせるなんて無理ですよぉ!」
その瞬間、作戦会議室がシンと静まり返った。
ミモニーの言葉に呆れたのではなく、ミモニーが正面突破を選択した理由が理解できたから。それが自分達が目を逸らそうとしていた事実に抵触するものだったから。
オスカーの演説でやる気が出でもなお、自分達はこれ以上勝てないのではという不安が消えてくれなかった。
だからつい弱気な選択をしてしまう。
最も成果が高い選択では無く、最も死ににくいだけの選択をしてしまう。
後ろ向きになってしまう。
だがそれでは勝てるものも勝てない。
百パーセント壊滅することが分かっている罠があるならまだしも、戦ってみなければ結果が分からない状況で、どうして後ろ向きな選択が出来ようか。
奇襲や奇策の類は、それが本当に必要とされるタイミングでやるべきであり、今はその時ではない。
逃げるのではなく闘え。
その先にこそ、真の勝利が待っている。
「くっ……ははは! そうか、そうだな。ミモニーの言う通りだ。正面突破以外の選択肢なんか意味ねーよな」
「全くね。むしろ疲弊したところを囲まれて全滅する未来しか見えないわ」
「北から回っても、寒くないところに壁作られて凍死して終わりそうだしな」
誰もが本当は分かっていた。
目の前の敵から目を逸らしてはいけないのだと。敵もそれが最善だと分かっているからこそ、そこで防衛しているのだと。それに彼らが考えることなどお見通しで、迂回先で待ち受けている可能性も高い。
「さっきのは撤回する。ミモニーはやはり聡明だった」
「ですね」
「びゃあ!いきなりどうしちゃったんですか!?」
困惑していたと思ったら、今度はいきなり褒められた。
何が何だか分からず目を白黒させるミモニーを、メンバーは微笑まし気に見つめていた。
その瞳の奥に今度こそ本物の闘志を宿らせて。
「うし、なら正面突破で決まりだ。詳細を詰めよう」
「ミモニーを放り投げて暴れさせる、で良いのでは?」
「びゃああああ!そんなの無理ですうううう!」
反射的に抗議したミモニーだが、結果的にそれと似たようなことになるのだろうなと誰もが思っていた。
「それが一番楽っちゃあ楽なんだが、それで納得出来るようにな奴はここにいねぇよ」
「そうそう、これは俺達の戦争だからな」
「弾避けは多い方が良いだろ?」
「島に敵の兵器が残ってたから、地上部隊の援護もマシになるしね」
「空軍だって特殊訓練してるって聞いてるぜ」
「魔法はつかえねーが、頭脳労働と肉体労働は任せろ!」
ミモニーは一人では無い。
この戦争は故郷を取り戻したいと願う全員で戦っている。
その意志が挫けない限り、彼らは簡単には全滅などしないだろう。




