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撃滅のピンカーヴィー ~落第少女達の成り上がり~  作者: マノイ
幕間

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11. マルマルファース、シエン、トサイン

「こんにちは~」


 恐る恐る大きな扉を開くマル。

 極小ビキニの上からシスターの服を着ており、痴女ではなくなっている。


 そんな彼女が向かったのは、ソースノ島の外れの丘の上に位置する小さな教会。


「うっわぁ、これは酷い。空が見えちゃってる」


 戦時に魔力弾が当たってしまったのだろう。天井が激しく崩壊し、今にも建物全体が崩れそうな危険な状況になっている。


「おじゃましま~す」


 しかしマルは危険を顧みずに中に入る。空が見えて落ちてくるものが無いなるべく安全そうな場所を通り、恐れることなくどんどんと進んで行く。


「中は全部片づけられちゃってるんだ」


 本来であれば信者達が座る長椅子がいくつも置かれているはずが、瓦礫が少し散らばっている程度。屋根が破壊される前に別の用途で使われていたのかもしれない。


「戦争で使ったのかな。住宅街から少し離れてるし、中が広いから。そんなんだから負けちゃうんだよ。攻め込まれてるんだから住宅の中で隠れるようにして準備しないと」


 そうすれば敵はその軍事施設を攻撃しにくくなるだろう。民家を手当たり次第に攻撃するなど誰もやりたくはないからだ。だが住宅街の外れの、しかも丘の上にある教会など目立ちすぎで攻撃してくれと言っているようなもの。


「でもそんな国だから私はまだここにいるんだよ」


 負ければすべてが終わるというのに、それでも民間への被害を最小限に抑えたかった。住宅街を戦場にしたくなかった。その優しさが敗北へのスピードを加速させた。それは愚かであるのだが、愚かだからこそ最後まで諦められない人々を生み出していた。


 マルは教会の奥まで進み、なんらかの像があったと思われる場所まで移動した。そこは他よりも被害が酷く、像は台座部分しか残っていなかった。


「…………」


 その場に跪き、手を組んで目を閉じる。


 マルは見た目だけのエセ淫乱シスターではなく、本物の信仰者(シスター)だった。


「ギナパイウ様、どうか私達に平穏を……」


 大陸に広く普及するギナパイウ教。

 争いを良しとせず、誰もが笑顔で健やかに過ごせるように努めましょうという緩い教義がウリの宗教で、戦争が始まってから信者が激増したらしい。攻撃側にとっては都合が悪い宗旨であるのだが全く制限されていないことも増加の理由の一つだろう。


「…………」


 静けさに満ちた聖堂は破壊されていても神秘的な雰囲気を残している。

 無言でひたすら祈るマルの姿は、神に仕える敬虔な信徒にしか見えなかった。


 服の下は極小マイクロエロビキニだが。


 どれくらい経っただろうか。

 マルはひたすら祈り、祈り、祈り続ける。


 何を願ったのか、あるいは心を落ち着かせていただけなのか。

 なんと一時間近くもそうしてから、ようやく立ち上がった。


「え?」

「おっと、驚かせてしまったかな」


 マルから少し離れた所、部屋の隅に一人の神父が立っていた。

 白髪で恰幅が良く、お爺ちゃんと呼ぶには少しだけ早い。そんな雰囲気で柔和な笑みを浮かべている人物だった。


「ごめんなさい。長く占有しすぎました」

「お気になさらずに。今日は建物の様子を見に来ただけですから」

「こちらで活動をされていた神父さんなんですか?」

「いえ、私は大陸の出の者で、避難されている方々と一緒にこの島まで来ました。皆さんの不安を少しでも取り除けるようにと思いまして」

「とても立派な方なんですね」


 今回の戦争は教会が狙われている訳ではないため、素直に降伏すれば普段とほとんど変わらない生活が保障される。教会は攻めて来る側の国も利用するからだ。


 しかし避難民の心の傷を憂いて共に行動するとなると、一緒に敵から狙われることになってしまう。


 そんな危険を背負ってまで人々の心を癒すべく行動した神父に対しマルは賞賛した。


「立派だなんてとても。言葉だけでは苦難に満ちた現実を変えられないのではと痛感している所です」


 どれだけメンタルケアをしようとも、それで戦争が終わるわけではない。

 多くの人が死に、苦しみ、嘆き、それを止められない無力感。神父はそういったものに囚われているのだろうか。


「おっと失礼、自己紹介がまだでしたね。私はマルモといいます」

「私はマルマルファースです」

「マルマルファースさんですか。こんなところまで祈りに来て下さりありがとうございます。神も喜んでいるでしょう」


 二人して壊れた神像に目を向ける。

 それを見て果たして何を思うのか。どちらも口にすることは無かった。


「マルモさん。もし良ければ説教を聞かせてくれませんか?」

「私などでよければ喜んで」


 戦争に巻き込まれ、長らく聞けなかった神の言葉。

 それをマルは久方ぶりに堪能するのであった。


--------


「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


 泳ぐ。


「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


 泳ぐ。


「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


 ひたすら泳ぐ。


 手足を必死に動かし、体力が続くまで全身運動を続ける。

 それは訓練というより、自分に罰を与え責めているかのようだった。


「(考えるな。余計なことは考えるな)」


 無心になって身体を動かせ。

 程良い酸欠が思考を鈍らせてくれるに違いない。


 シエンにとって訓練とは、技術の上達やミモニーと並んで戦えるようになるためのものだけではない。


 辛く苦しい状況に身を置くことで、心の中の雑念を振り払うための儀式。


 だがそれがどれほど過酷であろうとも、むしろ過酷であればあるほど、それが聞こえて来てしまう。


『シエン逃げて!』

『早く!早く逃げるんだ!』

『きゃああああ!』

『シ……シエ……』


ゆえに更に強度を高め、頭を空っぽにしようと必死になる。


「うおおおおおおおおお!」


 このままでは力尽きて沈んでしまうのではないか。

 そう思えるほどに全力で。


「(くそ、くそくそくそくそ!)」


 だがそうすればそうするほどに、声は強くなり、その場面が鮮明に脳内に蘇ってしまう。


「(こんなことならビーチバレーを続けていれば良かった)」


 ミモニー達と共にある時だけは、何故かこの呪いから解放される。

 ゆえに本当は四六時中彼女達と共に在りたいのだが、それが逃げているように感じられて、つい一人で訓練を始めてしまう。


 まるでこの呪いに苦しみ藻掻くのが、自分がやるべきことだと言わんばかりに。


「(パパ……ママ……)」


 シエンの心が解放される日は、まだまだ遠い。


 だがその苦しみが彼女を強くする。

 そしてそれが世界にとって大事なピースとなるのだが、なんと皮肉なことだろうか。


--------


「~~~~♪」


 鼻歌を歌いながらトサインは波打ち際を歩く。


 無表情のような、僅かに微笑んでいるような、不思議な表情だ。


 軽い足取りは楽しんでいるように見えなくもないのだが、理由なく違和感を覚える人もいるかもしれない。


「…………」


 行く先を小さな蟹が横切った。

 トサインはしゃがんでそれをじっと見る。


 それだけ見れば子供のようにしか見えない。


 ぐしゃ。


 伸ばした指がそれを押しつぶし、硬い殻を貫き絶命させる。

 

 自分が為した行為の結果に対し、トサインは何ら感情を見せず立ち上がる。

 命を奪ったことに、感情を抱いていない。


 子供特有の、小動物に対する残酷な行動なのだろうか。

 否、そうではない。

 戦場での彼女もまた、敵を殺すことへの抵抗感を一切見せていない。ミモニーにお願いされたからやっている。ただそれだけのこと。


「あれ、トサインちゃんだ」

「今日は一人?」


 反対側から水着を着た若いカップルが歩いてきた。

 ソースノ島奪回戦での活躍により、四〇四隊は広く知られるようになった。最も活躍しているミモニーは当然として、他のメンバーの印象も強く残っているらしい。


「皆と一緒じゃなくて大丈夫?」

「島から敵は掃討されたはずだが、もしかしたらまだ隠れ潜んでいるかもしれない。危ないから誰かと一緒の方が良いぞ」


 トサインを心配して声をかけてくれたのだが、トサインは全く聞いてない様子ですれ違ってしまった。視線を向けることすらない。


「何あの態度。心配してあげたのに、無視は酷くない?」

「まぁまぁ、あの子はピンカーヴィーの言葉以外は聞かないらしいから。少し変だし、きっと辛いことがあってああなっちゃったんだろう」


 実力はあるが扱い辛い。

 トサインの性格も知られており、二人は話に聞いていたそれを実感した。そしてこの二人からまた他の人へとその話が広まり、トサインの世間のイメージが固まることになる。


「出身とかも不明なんでしょ?」

「気付いたらいつの間にかピンカーヴィーの近くに居たらしいな」

「そんな人を軍隊に入れて大丈夫の?」

「しょうがないだろ。人手不足だし、彼女の実力は俺達に必要なものだ」

「スパイじゃなきゃ良いけどね」

「だな」


 謎の変身能力を持つ正体不明の実力者。

 果たして彼女の存在は彼らにとって吉と出るのか凶と出るのか。


「あ~!いたいたトサインちゃん!そろそろ帰るよ!」

「…………ん」


 その答えは、彼女を唯一動かせるミモニーにかかっているのかもしれない。

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