55話 勝負の行方
『我が青春のQueenプレミアBOX』
それは1000セット限定で販売された、ファンにとって超がつくほどのお宝である。
BOXの中で特にオレの心を惹いたのは、LIVE映像はもちろん、メンバーへのインタビューやレコーディングの様子等が当時の映像そのままにリマスターされ収録されたDVD。
今ネットオークションに出品すれば数十万円の値がつくと思われるお宝がもらえる?
それなら話は別だ。
そのお宝をいただこうじゃないか。
オレは部長が提案してきた勝負を受けて立つことにした。
「それじゃ、決まりだね。」
したり顔で話を進めて行こうとする部長。
よほど自信があるのか大津賀先輩もそれに反対しようとしない。
「ちなみに、うちの副部長は全国大会3位の猛者だから、先行か後攻は君に決めさせてあげるよ。」
余裕たっぷりという感を出しつつ、地味にプレッシャーをかけてくる部長。
その余裕を今からぶち壊させてもらうとしよう。
多分オレの一射目をビキナーズラック、素人のまぐれだと思っているのだろうけど、それが勘違いであることを思い知らせてやるぜ。
(以蔵さん、見せつけてやるっすよ!)
スラがオレのテンションをさらに高めてくれる。
せっかく選択の機会をもらえたので、オレは『先攻』を選び、後攻の大津賀先輩にプレッシャーをかける作戦でいくことにした。
「オッケー。それじゃあ副部長は後攻ということで早速始めるけど二人とも準備はいい?」
確認するようにオレと大津賀先輩の顔見上げる部長。
オレがうなずいた横で、同じく大津賀先輩が無言でうなずく。
「確認なんですけど、一射勝負で、的の中央により近い方が勝ちということでいいんですよね?」
オレは弓を構えながらたずねる。
「そうだよ。」
腕を組んだ姿勢で部長が答える。
確認できたことで安心したオレは、弓構えまでの準備動作と、打起しから引分けまでの動作を一連の流れで再現する。
息を止め再び超視力で的を見すえる。
そして的の真ん中と矢の先が一直線上に重なった瞬間、指先から弦を離した。
ヒュンッ!!
風切音を残し的に向かって矢が飛んでいく。
二矢目も寸分違わぬ正確さで、一矢目と同じど真ん中に突き刺さっていた。
「おおぉぉ!!」という歓声が起こる中、続けて後攻の大津賀先輩が弓を構える。
お手本のような打起しから引分けまでの流れるような動作。
彼女の一挙手一投足を見逃すまいと、道場内は水を打ったように静まり返る。
まるで彼女の周りだけ時間が止まってしまったかのような錯覚に陥ってしまった次の瞬間、矢が放たれた。
静寂を穿つように放たれた矢は、見事的の中央に突き刺さっていた。
道場がオレの時よりも大きな歓声に包まれる。
「うーん…これは同点かな。」
そんな歓声のなか部長が面白くもなさそうな表情で勝敗結果を告げる。
「それじゃ、さっきの約束は?」
オレはDVDが気になってたずねていた。
「えっとじゃあ、持田君は仮入部ということで。あと、副部長はデートの代わりに食堂でランチをご馳走してあげる感じでどうかな?」
「私のほうはそれでいいんですけど、持田君はどう?」
「オレもそれで大丈夫です。ただプレミアBOXの方はどうなりますか?」
「そっちはねぇ、コピーしたものあげるよ。」
なんだかうまく丸めこまれた感はぬぐえないが、プレミアBOXのコピーがもらえるならよしとしよう。
(以蔵さん、よかったすね。)
スラがうれしそうに話しかけてきた。
そうだな。
仮入部にはなったけど、部長をはじめ色々興味深い出会いもあったし、しばらく弓道部に居候するのも悪くないかもな。
オレがそんなことを考えていると、大津賀先輩が話しかけてきた。
「持田君。無理言って勝負事に巻き込んでしまってごめんね。おわびと言ってはなんだけど、私のお古でよければ、今貸してる弓掛けそのまま使ってもらっていいよ。」
さっきまでの凛としたたたずまいが一変、柔らかな雰囲気の大津賀先輩がそこにはいた。
「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます。」
オレはそう答えながら、譲ってもらったばかりの弓掛けを改めて見直してみる。
何か動物の皮で作られているのだろう。
もとは茶色だった表面は所々が削られてまだら模様のようになっている。
しかし、すごく年季の入ったこんな貴重なもの、本当にもらっていいのか…?
そんなオレの様子に何かを感じたのか、丸井部長がオレの前にやってきて説明を始めた。
「持田以蔵君。弓掛けは、弦から指を守っているだけでなく、それを使って鍛錬してき人の汗と涙の結晶でもあるんだよ。もしそれを受け取るなら、その思いも一緒に引き受けてやってほしい。」
真摯さを宿した丸い目に見つめられたオレは黙ってうなずくしかなかった。
そんなこんなでオレは弓道部に仮入部することになったのだけど、この選択がオレの運命を大きく変えていくきっかけになるとは、この時のオレには想像することさえできなかった。




