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54話 部長

オレはギャラリーたちの歓声を聞きながら、そのままの姿勢で一人静けさの中にいる大津賀先輩に見とれてしまっていた。


(次は以蔵さんの番っすよ!)

そんなオレにスラが声をかけてくれる。


わかってるよスラ。

まぁ、見ててくれ。


オレはスラにそう告げると、たった今大津賀先輩が見せてくれた残心ざんしんと呼ばれる矢が離れた後の姿勢までの流れを、『トレース』というスキルを使ってイメージ化していく。


この『トレース』は、オレの覚醒が始まってからずっと訓練してきたスキルで、視覚的に認知した動きを脳内で詳細にイメージ化し、それを寸分たがわず再現する、言葉でいうと簡単に聞こえるが、かなり難易度の高いスキルだった。


最初の『トレース』はダーツから始めたのだが、動画等の映像で観るよりは、実際の動きをリアルタイムで見た方がより正確に再現できることがわかってからは、試合会場に足を運ぶようになった。


そこで、上手い選手の動きをイメージの中で反復し、より正確に動きを再現できるよう訓練してきた。


ダーツをマスターしてからは、ボーリング、卓球、空手など様々な競技の『トレース』に挑戦してきた。


その訓練の成果がこんな場面で発揮されるとは想像さえしていなかったけど、オレは大津賀先輩の一連の動きを頭の中でなぞりながら、自分がその通りに動けているイメージを固めていく。


「持田君、次は君の番。」

そんなオレに大津賀先輩が声をかけてきた。


「わかりました。」

オレは返事を返すと弓構ゆがまえまでの準備動作を再現してみせる。


続けて打起うちおこしから引分ひきわけまでの動作を再現し呼吸を止める。


ギリギリと弦を引く音を右耳でききながら、常人の10倍になった超視力で的を見すえる。


28m先にあるはずの的が目の前にある感覚。


その的の真ん中と矢の先が一直線上に重なった瞬間、指先から弦を離す。 


ヒュンッ!


耳横を風切音が通り過ぎる。


矢は確認するまでもなく、的の中央に突き刺さっていた。


オレは残心の姿勢のままゆっくりと息をはく。 


「うそ…。」

オレの右横で大津賀先輩が小さく声をもらしていた。 


(やったっすね!)

スラがうれしそうに声をあげる。


だな。

まぁ、楽勝だったけど。


オレがスラの歓声に応えながら弓を降ろすと、大津賀先輩が声をかけてきた。


「確認のため聞くけど、持田君て経験者じゃないよね。」


「はい。超初心者です。」


「そうなんだ…」

言いながら、戸惑っているような、それでいて腑に落ちないような表情の大津賀先輩。


クールビューティの困り顔はギャップ萌えがして眼福だな。


オレがそんなことを思っていると、また誰かが声をかけてきた。


「サキ、そんな消極的な態度じゃ新入生はいってくれないよ。」


その声の主はオレではなく、大津賀先輩に声をかけているらしい。 


振り向くと、入り口に丸い生き物が立っていた。


「新入生の諸君、はじめまして。私は3年で弓道部の部長をしている丸井珠世まるいたまよです。」

声の主はそう自己紹介するとオレの方に近づいてきた。


身長は140cmくらいだろうか。

丸い顔に丸い体。

頭の上にはお団子が2つのっている。 

何より、全体的に丸いシルエットは、未来から来た猫型ロボットを彷彿とさせる。


「部長、ガイダンス出なくて大丈夫なんですか?」

そんな猫型ロボット、いや丸井部長に大津賀先輩が話しかける。


「うん大丈夫。ガイダンスの責任者うちの顧問だから。」

丸井部長は答えるとオレの前で立ち止まった。


「君、私のこと丸いと思ってるよね。」

まん丸な目をさらに小さく丸めるようにしてたずねてきた。


「はい、思ってます。」

オレは悪びれることなく答える。


「この質問をすると大概は否定してくるんだけど…。君、正直だね。名前は?」


「持田です。」


「持田君。一勝負しない?」


「どんな勝負ですか?」


「うちの副部長とどちらが的の中央に射ることができるかの一射勝負。」

オレを見上げながら楽しそうに提案してくる丸井部長。


いったい何を企んでいるんだ?


「もし君が勝負に勝ったら、うちの副部長とデートできる。でももし負けたら弓道部に入ってもらうというのはどう?」


なるほど、そういう勝負か。

それなら答えは決まっている。


「お断りします。」

オレは即答する。


「「…………………!!」」

まさか断られると思っていなかったのか、無言で顔を見合わせる部長と副部長。


さらにオレの後ろにいるギャラリーたちから野太いブーイングも聞こえてくるが全スルーだ。


「申しわけないんですけど、オレ弓道部には体験に来ただけなんで。それにデートとかにもあまり興味ないんで…。すいません。」

オレが頭を下げて1年生たちの列に戻ろうとすると、それを遮るようにして丸い生き物がオレの前に立ちはだかった。


「持田君。君の気持ちはよくわかった。じゃあこうしよう。もし君が勝ったら私の秘蔵DVD『我が青春のQueenプレミアBOX』もプレゼントしようじゃないか。」


「部長、そんなの欲しがる人、部長以外でいませんよ!」


ドヤ顔で再提案してくる部長とそれに待ったをかける副部長。


この二人案外いいペアーなのかもしれないなと思いながらも、オレの心は『我が青春のQueenプレミアBOX』に釘付けになっていた。

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