52話 生徒会長
「生徒会です。休み時間中に失礼します。」
五宮先輩はそうあいさつすると、二人の女子生徒を連れて教室に入ってきた。
何がおきたとばかりにざわつく教室。
そのまま教卓まで移動した五宮先輩と付き添い二人がこちらに向きを変えると、それまでざわついていた教室が嘘のようにしーんと静まりかえった。
「本日は生徒会活動PRのために参りました。担任の先生からの許可はいただいておりますので、少しお時間をください。」
五宮先輩の凛としたよく通る声が教室全員の耳目を集める。
「改めまして、私は生徒会長で3年の五宮冬湖です。」
ペコリとお辞儀をした五宮先輩。顔を上げた直後、一瞬だけオレにむかって意味ありげな視線を送ってきた。
切れ長の目が印象的な端正な顔立ちに、胸元まで伸ばした姫カット。モデルのように均整のとれた佇まいに思わず見惚れてしまいそうになる。
どうやらそう思ったのはオレだけではないらしく、男子生徒はもちろん、女子生徒の何人かが熱い視線をおくっている。
続いて副生徒会長と書記の二人も自己紹介したが、全く記憶に残らないほど、五宮先輩の存在感は群を抜いていた。
「五宮先輩アピールしすぎだし…。」
オレのそばから、一人厳しい視線を送っていた杏子がつぶやく。
3人の自己紹介が終わった後、副生徒会長が生徒会の説明を始めたが、オレの耳には何も入ってこない。五宮先輩の切れ長の目が、オレの目をとらえて放さなかったからだ。
オレは五宮先輩を見つめ返しながら彼女と出会ったときのことを思いだしていた。
彼女と出会ったのは、入学式から4日目の放課後のことだった。
その日オレは、夕飯の材料の買い出しを頼まれており、家の近くのスーパーに寄っていた。
頼まれた食材を探して店内を歩いていた時、『だれか助けて…』という小さな声がバックヤードの方から聞こえてきた。
ちなみに魔人化後のオレの聴覚は「超聴覚化」しており、常人には聞き取れない微細な音も感知することができるようになっていた。
オレはか細いながらも繰り返し切実に呼びかけるその声に導かれるようにしてバックヤードに入ると、声の主を探しだした。
それが五宮先輩だった。
冷凍庫で在庫確認していて、そのまま出られなくなっていた彼女を助けだしたオレは、次の日お礼をかねて食事をご馳走になった。
その時に告白されたのだが、もちろん丁重に断らせてもらった。まさか断られるとは思っていなかった彼女は、「私、ぜったいにあきらめないから。」という言葉を残し颯爽と帰っていったのだが…
どうやらあの時の言葉は本気だったらしい。
「以蔵、五宮先輩のこと見すぎ!!」
杏子に肘でつつかれたオレは我に返るも、腑に落ちないことがあった。
それはもてすぎることだ。
入学式してからの短期間で、杏子、五宮先輩という2人のハイスペック女子から告白されていた。
『チャーム【魅了】』という力が作用しているとはいえ、その他大勢からもてていた中学校時代とは明らかに違う状況にオレは正直戸惑っていた。
(以蔵さん、実はさっきザジさんから追加の伝言があったっす。)
そんなオレの戸惑いを察したかのようなスラの一言に、オレの気持ちは切り替わる。
どんな伝言だ…!?
(魔人化に伴って『チャーム【魅了】』は『魅惑【エンチャント】』に進化しているとのことっす。)
えっ!?
どういうこと?
(『チャーム【魅了】』は関わる相手に好感を抱かせ徐々に魅了していく力っす。それに対して『魅惑【エンチャント】』は、意識した対象を虜にしてしまうより即効性の強い力になるっす。)
それはつまり、オレが意識してしまう相手は『魅惑【エンチャント】』の力で好きにさせてしまうってことか?
(その通りっす。相手への意識が強いほどより強力な虜状態にしてしまうっす。)
なんてことはない。
『魅惑【エンチャント】』の効果でモテすぎていただけだったのか…
道理で告白されても嬉しくなかったはずだ。
魔人化したことでさらにオレの「もてたい」という願望は実現したことになるけど、なんだこのモヤモヤ感は…
スラとそんなやりとりをしているうちに、副会長の説明が終わってしまう。
「最後に連絡があります。持田君いますか?いたら手を挙げてください。」
そう言って挙手をうながしてきたのは書記の女子生徒だった。
クラス全員の視線がオレに集まる。
せめてもの抵抗で小さくを手を挙げるオレ。
「持田君とは相談したいことがあるので、放課後に生徒会室にきてください。」
有無を言わさぬ表情で決定事項のように伝えてくる書記にイラッとしつつも、ここで断ると五宮先輩の顔つぶしそうなので黙ってうなずくことにする。
そんなオレの様子を確認して満足そうに目配せししてくる五宮先輩。
なんだか面倒くさそうな風向きになってきたぞ…
「私もついて行くから。」
何かを決意したように宣言する杏子が、オレの制服の腕の部分を引っ張ってきた。
ここにももう一人を面倒くさい女子が…
オレはげんなりしながらも、これ以上二人を意識しないよう、修行僧のように心を無にするのだった。




