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43話 決闘

春休み。


田中と山本は工場の入り口前に呼び出されていた。


村田事件以降、卒業式にも参加せず不登校をきめこんでいた二人だが、四月から隣の市の工業高校に進学することになっていた。


「村田のやつ、自分から呼んでおいて遅刻とかありえねえだろう。」金色に染めた髪をかきあげ、細くなった眉をしかめた田中が愚痴る。


「まじそれ。ありえねえわぁ。」

赤い髪をリーゼントで固めた山本がそれに同調する。


そんな、いかにも高校デビューして悪ぶろうとしている二人に誰かが声をかけてきた。


「二人とも、遅くなってすまん。」

謝りながら工場の入り口から現れたのは、黒いパーカーとニット帽をかぶった村田だった。


「なんだよ村田、工場の中にいたのかよ。驚かせるなよな…」

「まじ、それな。」

不満げにぼやく田中とそれに同調する山本。


「お前ら相変わらずだな。」

村田は懐古とも侮蔑ともとれるような言い回しで二人の表情を確認する。


「ていうか村田。お前のせいでこっちは大変だったんだからな。」


「そう、そう。おかげで地元の高校に進学できなかったしな…」


そんな恨み節をもらす二人を酷薄な目で見つめる村田。


「それなんだけどな、今日はお詫びもかねてお前らに渡したいものがあるんだよ。」


村田のその一言に目の色を変える二人。


「工場の中に用意してるから、とりあえず入ってくれよ。」

村田はそう告げると二人に背を向けて入り口から工場へ入っていく。


「ちょっ、待てよ…村田!」

慌てて追いかける田中に金魚のフンのようについていく山本。


大小の機器が並ぶ薄暗い工場の中を進んでいく三人。


人気のない工場は廃墟のような静けさにつつまれており、そこに足音だけが響く…


「村田、この工場ってもしかして…」


「そう、オレの親父の工場だ。いや、正確には"だった"か。」

田中の問いかけに振り向きもせず答える村田。


「勝手に入って大丈夫なのか…?」


「近々競売にかけられるようだけど、それまでは大丈夫だろ。」


心配そうにたずねる山本に、何でもないという風に答える村田。


三人で歩くこと数分…

工場の一番奥に位置する資材置き場に到着する。


「さあ、着いたぞ。」


そう言って村田が立ち止まった場所には、3メートル四方のスペースが作られていた。


「ここに何があるんだよ…!?」

いぶかしんだ様子でたずねる田中。


「何がって、これがあるんだよ。」

言いながら、村田がパーカーのポケットから取り出したのはリボルバー《回転式拳銃》だった。


「な、なんだよそれ。まさか本物じゃないよな…!?」

山本が青ざめた顔でたずねる。


「当たり前だろ!ここは日本だぞ。本物の拳銃がそんな簡単に手に入るわけないだろう。なあ、村田。」

こみ上げる恐怖を表に出さないようにしながら確認する田中。


パーンッ!!


そんな二人をあざ笑うかのように銃声が響きわたる。


「お前ら、今からここで殺し合え。」

天井に銃口を向けた村田が嗜虐的な笑みをうかべながら、恐怖に固まる二人に命令する。


「なに言ってるんだよ、村田。冗談だろう?」


「そうだ。ドッキリかなにかだよな…!?」


村田の命令を現実とは受け入れられない二人が、泣きそうな表情で答える。


「つべこべ言ってないで早く始めろ。今から10数える間に始めなければ二人とも殺す。」


狂気を宿した村田の目に怯えるしかない二人。


無情なカウントダウンが始まる中、最初に手をだしたのは山本だった。


ボガッ!


後ろから突然殴られた田中が前のめりに倒れる。


「てめぇ、いきなり卑怯だろう!」


振り向いて文句を言おうとする田中の背中に飛び乗る山本。


「死ね、死ね、死ね!!」

山本は連呼しながら田中の後頭部を殴り始める。


「調子にのんなよ!」

叫んだ田中が腕を立てて上半身を持ち上げると、背中に足を弾かれた山本がバランスを崩し仰向けに倒れる。


そのまま立ち上がった田中は、体勢を立て直そうとする山本の腹めがけて飛び蹴りを入れる。


グッボッ!


口から吐しゃ物を吐き出しながら腹を抱えてのたうち回る山本に蹴りを入れ続ける田中。


今や3メートル四方のスペースは、殺し合う二人の闘技場コロセウムと化していた。


「田中、ごめん。さっきのは違うんだ…」


頭を守るようにして縮こまり、ゆるしを乞う山本に、容赦のない攻撃を加える田中。


逆立った金髪と血走った目は、さながら獲物をいたぶる殺人鬼のそれだった。


「おい、山本。このままだと、お前殺されるぞ。」

殺し合う二人を他人事のように観戦していた村田が、防戦一方の山本に声をかける。


そして何を思ったのか田中の背後にまわりこむと、どこからか取り出した鉄パイプで、攻撃に夢中になっている田中の背中を殴りつけた。


不意打ちをまともにくらった田中が、何がおきたのか分からない表情で、その場にうずくまる。


「第2ラウンド開始だ。」

村田はそう告げると、持っていた鉄パイプを放り投げる。


カラーンという音をたてて転がる鉄パイプは、あろうことか山本の手元に転がっていく。


それを手にした山本がよろよろと立ち上がる。 


ガリガリ…ガリガリ… 


鉄パイプを引きずった山本が、うずくまる田中にゆっくりと近づいていく。


「おい山本、冗談だろう…」

鉄パイプをかまえた山本に、恐怖に顔をひきつらせた田中が呼びかける。


山本はそんな言葉が聞こえていないかのように無言のまま鉄パイプを振り上げると、田中の頭上目がけて一気に振り下ろす。


ガキッ!!


頭部を直撃したかのように思えた鉄パイプは、咄嗟に頭部をかばった田中の左腕をとらえていた。


痛みに顔を歪めながら、残った右手で鉄パイプをつかむ田中。


互いの顔を凝視し合いながら鉄パイプを引っ張り合う二人。


ありったけの力をこめて鉄パイプを握りしめる二人の手が小刻みにふるえる。


いつしか二人の目からは涙がにじみ出ていた。


「なあ、こんなのもうやめようぜ…」

切り出しのは田中だった。


「無理だ。やらなきゃ、殺される。」

山本がかぶりをふって答える。


「村田、もう許してくれよ。もし俺らが死んで行方不明になったら警察沙汰になるだけだ。何の得にもならないだろう。」


「そうだ…。こんなことしても誰も得しない。もうやめよう、村田…」


ダメ元で提案する田中と、それに同調する山本。


「わかった。」

二人のやり取りを黙って聞いていた村田が突然口を開いた。


そして、2丁の拳銃を手にした村田が二人の間に入っていく。


「何で二つ持ってるんだよ…」

驚きの表情でたずねる田中。


「拳銃が一つだなんて言った覚えはないけどな…」

村田は酷薄な笑みをうかべながら、両手に構えた銃の銃口を二人の額に押しあてる。


「村田、ゆるしてくれよ…」

失禁しながら哀願する山本。


「なぁ、俺たち友達だろう…」

かすれた声でゆるしを乞う田中。


(予想通りこいつらには、誰かを殺してまで生き残る度胸も覚悟もなかったか…。挙句の果てに友達をアピールしてゆるしを乞うとはな。使えねえ馬鹿どもだ…)


そんな二人を何の感情もない目で見つめながら、心の中で罵る村田。


「すまん。オレはお前らを友達だと思ったことは一度もない。」


死刑宣告のようなその言葉と同時に、拳銃の引き金が引かれる。


工場内に響く銃声。


その音に呼応するかのように、鉄パイプが床に落ちる。


「おい。約束通りエサを用意したから、後は好きにしていいぞ。」


拳銃をしまい鉄パイプを拾い上げた村田が何者かに声をかけた。


それを合図に隠れていた何体もの黒い影が、二つの死骸の周りに集まり始める。


いつしか死骸を覆いつくすほどに集まった黒い影は、死骸をついばんでいた。


クチャクチャと咀嚼する音は、さながら地獄の鎮魂歌レクイエムを奏でているようにも聴こえる。


村田は作業イスに座ると、床に突き立てた鉄パイプを両手で握りしめながら、元人間だった『もの』が解体されていく様子を眺めていた。


(さて、次はだれにするかな…)


村田はこのとき決意を新たにしていた。

自分を裏切ったもの、コケにしたものに相応の報いをくれてやることを。


歪んだ復讐心と凶暴化した殺意を具現化したようなその笑みは"悪魔"そのものだった。

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