39話 告白
オレが図書室に入ると、神乃さんは椅子にすわって本を読んでいた。
「なんの本よんでるの?」
オレは神乃さんの向かいの席にすわるとたずねる。
「犬がいた季節。」
本を閉じながら答える神乃さん。
「おもしろい?」
「うん。とても。」
うれしそうにうなずく神乃さんに、オレまで笑顔になる。
「きてくれてありがとう。」
「こちらこそ。お招きしてくれてありがとう。」
いつになく自然な受け答えができているオレに、かすかな不安を感じる。
「卒業式の答辞、すごくよかった。」
「うん。」
「私が言えなかったことを、伊蔵君が代わりに言ってくれたような気がして、なんか胸のつっかえがとれたような気がした。」
「オレのほうこそ、最初に拍手してくれてありがとう。正直あれかなり痛いパフォーマンスだったから、ほんと助かった。」
「たしかにあれはちょっと痛かったかも…」
「えっ、神乃さんもそう思ってたの。」
「うん。ちょっとだけね。」
「いや、そのちょっとだけがすごく気になるんですけど…」
まるで仲の良い二人のような会話に増々オレの不安は大きくなる。
「あのね伊蔵君。わたし謝りたいことがあるの。」
真剣な眼差しでオレを見つめてくる神乃さん。
「小学校の卒業式のあとに、わたし手紙を伊蔵君に渡したの覚えてる?」
オレは小さくうなずく。
「手紙を渡したあとね、わたしちゃんと言葉で伝えればよかったって、すごく後悔したの。」
神乃さんの潤んだ瞳にオレの顔が映る。
「わたしね、断られるのがこわくて、手紙に逃げてしまったの。」
違うよ神乃さん。
オレは君のその手紙に救われたんだ。
あの暗闇の中にいるような生活の中で、唯一の光が君からの手紙だったんだよ。オレは伝えたい言葉をのみこむと神乃さんを見つめる。
「だからごめんなさい。今さらなんだけど。そして今度はちゃんと伝えたいの。」
決意に満ちた凛とした表情に目がくぎ付けになる。
「わたしは伊蔵君のことが好きです。ずっと好きでした。こんなわたしだけど、つき合ってください。」
ありったけの思いが込められた告白。
オレはこの瞬間をどれだけ夢見てきたことだろう。
どれだけ願っても届かないと思っていたものが、いま手を伸ばせば手に入れることができる幸せをかみしめていた。




