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34話 覚醒

「お兄ちゃん、パフェきたよ!」

天音の声がオレを現実に引き戻した。 


ウェイターが、高さ30センチはあろうかというスペシャルパフェを二つトレイにのせてこちらにむかっている。


あれ、危なくないか…

胸騒ぎがする。


なんとかオレたちの席の前までたどり着いたウェイターが、パフェをテーブルにおこうとしたその時、パフェの一つがグラスごと目の前で倒れはじめた…


それはまるで、スローモーションのような滑らかさだ…


オレは思わず手を出して、パフェのグラスをキャッチしていた。


そしてキャッチした瞬間に、スローモーションが通常のスピードに切り替わった。


「お兄ちゃん、ナイスキャッチ!」

天音が声をあげる。


「お客さま、申し訳ありません。」

大恐縮のウェイターの声に、他の客の視線が一斉に集まる。


幸か不幸か、天音のパフェは無事だったが、オレのパフェはグラスより上の部分がほぼ全壊していた。


「今、新しいものをお持ちしますので…」

頭を下げながら恐縮するウェイター。


「いや、いいですよ。オレ、見た目とか気にしないんで。食べれれば問題なしです。」


「それでは、せめてお代をタダにさせてください。」


「オレもそっちの方がうれしいです。」


交渉成立だ。


「お兄ちゃん得したね。」

天音がパフェをほおばりながら、うれしそうに話しかけてくる。


「そうだな…」

心ここにあらずな返事をしながらオレは、さっきおきた出来事を振り返っていた。


なぜスローモーションになったんだ…?


(それは認知能力が覚醒しているからっす。)

スラがオレの疑問にすかさず答えてくれる。


それってどれくらい覚醒しているんだ?


(通常の5倍くらいっす。)


5倍?


(認知能力が5倍に覚醒すると、一秒を五秒として認識することができるっす。)


じゃあ、例えば時速100キロの物体は、時速20キロの速さで認識できるってことか?


(その通りっす。)


それはどんな時に発動するんだ?


(慣れてくれば自分の意思でいつでも発動できるようになるっす。)


そうか。ちなみに持続時間は?


(これについては、はっきり言えないっす。ただ、覚醒した能力の大きさや定着の度合いによって、時間の長さは変わってくるっす。)


要は、オレの努力次第で伸ばすことができるという理解で大丈夫か?


(大丈夫っす。)


スラの説明でスローモーションになった理由がわかった。


「お兄ちゃん、パフェ食べないなら私が食べるよ。」

また天音がオレを現実に引き戻す。


「お兄ちゃん、さっきから考えごとし過ぎ!」

心ここにあらずのオレに怒りはじめる天音。


「すまん天音。今からちゃんとするから。そうだ、ケーキとか食べるか?」


「本当に!」


ケーキ攻撃が効いたのか、機嫌をなおしてメニュー表をめくり始める天音。


しかしよく食べるな。

うちの妹は。


オレは、昔のオレのように太らないか心配しながらも、幸せそうにメニュー表をめくる天音を眺めていた。

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