33話 思い出
最寄りの駅に到着した時には16時をまわっていた。
電車の中で軽く食べていたが、二人とも腹ペコだった。
「天音、なんか食べていくか。」
「そう言ってくれると思った。」
うれしそうな天音に、オレもうれしい気持ちになる。
「なに食べたい?」
「そうだなぁ…パフェ!」
「パフェ?」
「そう。駅前の珈琲店に行こう。」
即決だった。
二人で珈琲店に向かう。
店内は時間帯もあってか人はまばらだった。
オレたちは、向かい合ってすわっているカップルを横目に、一番奥の席に移動した。
席にすわると二人してメニュー表をめくりはじめる。
しばらくすると年配のウェイターがおしぼりと水を運んできた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
おしぼりと水をおきながらたずねてくる。
「私はスペシャルパフェで。」
最初から決めていたのだろう。何の迷いもなく答える天音。
「じゃあ、オレも同じので…」
注文を決めかねていたオレは天音のオーダーにのっかる。
「かしこまりました。」
ウェイターは丁寧に一礼すると、店のカウンターの方へ消えていった。
店の中では山下達郎の“クリスマスイブ”が流れていた。
毎年流れてくるこの曲を聴きながらオレは、二年生の修学旅行のことを思い出していた…
二年生の修学旅行は京都だった。
新幹線で京都に向かった。
京都駅に到着したとき、“古都”をイメージしていたオレは、現代化された景観と人の多さに面食らってしまった。
そして、バスガイドさんに引率されてバスに分乗した時には、オレは立ち上がれないほど体調を崩していた。
ホテルに到着すると、オレはすぐに救護ルームで寝かされた。
天井がぐるぐる回る感覚に吐きそうになるのをこらえる。
なんでこんな所にきてしまったのだろう…
この時のオレは、修学旅行当日まで一日も学校に行けていなかった。
担任の熱心な誘いとクラスメイトからの励ましの手紙にすっかり踊らされたオレは、甘い見込みで修学旅行に参加したことを心の底から後悔していた。
次の日…
体調が回復してきたオレは、一人で遅い朝食をとっていた。
ホテルの一室を臨時の食堂にしていたその部屋には、たくさんの長机と椅子が所せましと並べられていた。
貸し切りの食堂で一人食べていると、誰かが部屋に入ってきた。
オレは気にせず食事を続ける。
「伊蔵君?」
ふり向くと“女神”が立っていた。
「・・・・」
「驚かしてごめんね。」
無言で首をふるオレ。
「食事中に申し訳ないんだけど、私のスマホ見なかった?」
ようやく事態を理解し始めたオレは自分の周りを見渡す。
スマホらしきものは見当たらない。
「どんなスマホ?」
念のためにきいてみる。
「緑のカバーがしてあるアイフォン。」
オレは立ち上がると神乃さんと一緒にスマホを探し始めた。手分けして両端から順に、しらみつぶしに確認していく。しかし見つからない。
「本当に食堂に忘れたの?」
「うん。最後にスマホさわったの食堂だったから。」
「落とし物とかで届いていない?」
「それも確認したけど、届いていないって…」
八方ふさがりの状態に泣きそうになっている神乃さん。
オレがなんとかしなければ。
「もう一度探そう。まだ見ていなところがあるかもしれないから。」
小さくうなずく神乃さん。
「ちなみに、神乃さん、どこにすわってたの?」
「そこの席だけど…」
神乃さんは、ちょうどオレの目の前の席を指さした。
オレはその席のあたりを念入りに探し始める。そして気づいた違和感。調味料のおいてあるトレイが、わずかに浮いていたのだ。
調味料をのけてトレイを持ち上げると、下からスマホが出てきた。
緑色のカバーのアイフォンだ。
オレはスマホを手に取ると、神乃さんに手渡した。
「・・・・・」
神乃さんがぽろぽろと涙を流しはじめた。
「伊蔵君。ありがとう。」
涙をふきながらお礼を言ってくれる神乃さん。
お礼を言われたオレは急に恥ずかしくなってきた。
無我夢中で探すあまり普通に話していたけど、これってすごい状況なのでは…
やばい。
何を話せばいい…
てんぱり始めるオレ。
そんなオレに“女神”からの祝福の言葉が告げられる。
「伊蔵君。もしよければ一緒に京都観光しない?」
しないわけがない。
したい!
オレが答えようとしたその時、保健の先生が部屋に入ってきた。
「神乃さん、スマホみつかった?」
「見つかりました。」
あわてて答える神乃さん。
「よかった。A班の子たち金閣寺に先に行って待ってるって。早く行ってあげなさい。」
「あ、はい。」
そんな二人のやりとりを呆然と見守るオレ。
「伊蔵君。よかったら一緒に行こう。」
まだ誘おうとしてくれる、彼女の気持ちがうれしかったが、オレは体調不良を理由にその申し出を断った。
走り去る”女神”の背中を見送るオレ。
そしてこれが、オレの修学旅行唯一の思い出となってしまった。




