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32話 パパラッチ

オレたちが美容院を出た頃、街はお昼の時間を迎えていた。


「なんだこれ…」

“どこから湧いて出てきたんだ”というくらいの人で埋め尽くされた街の変化にたじろぐオレ。


「お兄ちゃん、すごい人だね。」

天音がのんびりと声をかけてくる。


妹よ。

“すごい人”レベルの話ではないぞ。

人の海じゃないか。

お前の兄は、こんな海を泳ぎ切る術を知らないぞ…


そんな現実逃避をしている兄をしり目に、天音は人ごみの中に分け入っていく。


「天音待て(おいていかないでくれ!)。一人だとあぶないぞ(二人でいたほうが安全だぞ)」

オレはあわてて天音の後を追いかける。


天音が目指していたのはクレープ屋だった。

すでに長蛇の列ができてしまっている。

妹よ、もしかしてこれに並ぶのか…


「お兄ちゃん、こっち、こっち!」

笑顔でオレを呼ぶ天音。


仕方なく最後列に二人して並ぶ。


しかし、いくら待ってもなかなか列は前に進む気配を見せない。それどころか、オレたちの後ろにはさらに長い列ができはじめていた。


スマホをいじりながら時間をつぶす天音。


スマホを持たないオレは、手持ちぶさたな時間を、人間観察をしてやりすごす。


冷静に人の波を観察し始めると、様々な年代の男女がいることに気づいた。


ファッションも様々で、観ていて飽きない。


そんな中、制服を着た女子高生と目が合った。

さっきからずっとオレたちのことをみていた女の子だった。


その子が近づいてくる。


「あの、写真撮らせてもらえないですか。」

顔を赤らめながら聞いてきた。


「オレ…?」


うなずく女子高生。


「いいじゃん、お兄ちゃん。」

天音がうれしそうに、女子高生の援護射撃をしてくる。


「できたら、妹さんも一緒に…」


「だって!」


オレの腕をつかみながらポーズをとり始める天音。

パシャ パシャ


シャッター音を響かせながらスマホでオレたちを撮る女子高生。


それを見かけた通行人たちが何事かと足を止めはじめる。


「ありがとうございました。」

満足げな女子高生がお礼を言って去っていく。


そしてそれを待っていたかのように、第二、第三のパパラッチが現れる。


「あの、私もいいですか?」

別の女子高生が声をかけてきた。


「私もいいですか?」

こちらは明らか社会人と思われるお姉さん。


クレープ屋の列に並ぶのを忘れて、撮影会にのめりこむ天音。


オレは引きつった笑顔でそれに合わせる。


10分もすると、オレたちを囲む人の輪は、通行を妨げるほどに大きくなっていた。


写真だけでなく、動画を撮る輩もではじめる。 


危機感を覚えたオレは、天音の手をとって輪の中から抜け出した。


人波をぬいながら駅に向かって走る。 


なんとか駅についた時には、二人とも肩で息をするほどばてていた。


「お兄ちゃん、ごめんね…」

あふれそうになる涙をこらえながら謝る天音。


「こっちこそ、ごめんな。危ない目に合わせてしまって。」

オレは天音の頭をなでながら答える。


「帰ろう。」


「うん。」


オレは天音にハンカチを渡すと、腕時計に目をやった。


「お兄ちゃん、このハンカチ前に私が渡したやつだよね?」


ハンカチで目頭をおさえながら天音がたずねてきた。


「そう。ちゃんと洗ってるから、安心して使いなさい。」


天音の顔に笑顔が戻る。

やっぱり“天使”に一番似合うのは笑顔だ。 


電光時刻表を確認すると、あと5分で帰りの電車が到着する。


オレは天音に待つように伝えると、乗車券を買うため券売機に向かって歩きだした。

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