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29話 復讐

世間が12月に浮かれ始めたとき、その事件は起きた。


きっかけは1本の動画がSNS上に公開されたことだった。


中学生らしい三人組が、一人の生徒に殴る蹴るの暴行を加えている動画は、瞬く間に拡散した。 


もちろん動画に出てくる生徒の顔にはモザイクがかかっていたし、声も変えられていたが、暴行を加えている側の生徒がつけていた腕時計が話題になっていた。


『これ“HUBLOT”じゃねえ?』

『多分だけど、“ビッグバン・エボリューション・コールドセラミック”だと思う…』

『なにその長い名前、まじ受けるんだけど。』

『ちなみにお値段は300万円をこえます。』

『まじかあ!』

『300万円の腕時計をしてる中学生って、何もの?』 

『気になる!』 

『誰か調べて!』


のようなやり取りがSNS上で繰り広げられ、村田新八が特定されてしまった。 


そして勝手に公開される村田の個人情報。


『村田新八(中学三年)

生徒会会長。「なくそう“いじめ”」運動を推進中だったらしい。


村田権八(父親)

村田工業の社長。談合をすっぱ抜かれ現在火消しの真っ最中。


村田きよ子(母親)

現職市会議員。次期市長選に出馬予定だったが、秘書との不倫がばれて自宅謹慎中。』


次々にネット上に公開される村田とその家族の情報。

そしてそれに食いつくマスコミたち。


鳴りやまない苦情の電話と、学校に殺到する報道陣。

その対応に追われる教育委員会。 


未曾有の大混乱の中、村田、山本、田中の事実確認が行われた。 


山本と田中はすぐに暴行の事実を認めたが、村田は最後までしらを切り通したらしい。


これにらちが明かないと思った教育委員会は、学校全体にイジメアンケートを実施する。


すると出るわ、出るわ、これまで村田たちがおこなってきたイジメの数々が明るみにでた。


そして、これらのイジメの事実があったにも関わらず、それを握り潰してきた存在があったことも明らかになった。


馬場三郎だ。


生徒指導部長だった馬場は、自分の評価を上げるために、イジメの相談があったにも関わらず、それを管理職に報告しなかったばかりか、記録としても残していなかった。


そしてこれが、学校の管理体制や、組織としての正常性が問われる大問題に発展していた。


いつしか“村田事件”と呼ばれ始めたこの事件の裏には、何ものかの意図が見え隠れしているように思えてならなかった。


なあ、スラ。


(なにっすか?)


お前だろう。“村田事件”の仕掛人。


(そうっす。)


お前、怖いな…


(悪魔を怒らせるからっす。)


だな。


(だす。)


“だす”ってなんだよ!


(だすっす!) 


いや、そうじゃなくて…


(伊蔵さん。これで少しは溜飲下がったっすか?)


そうだな。


(それはよかったっす。)


でも、正直なんか複雑な気分だ…


(どうしてっすか?)


たしかに村田たちや馬場さんは最悪な奴らだった。でも悪いのはあいつらだけか?


(・・・・・)


オレはいつかどこかで、この事件の“けじめ”をつけようと思ってる。


(“けじめ”っすか?) 


“けじめ”だ。


(でもそれは、伊蔵さん一人でやってくださいっす。)


わかってる。 


オレは窓の外を眺めながら“けじめ”について思いめぐらす…


校門の前には相変わらず、たくさんの報道陣が詰めかけていた。

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