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26話 天使と女神

オレがクラスの場所に戻ると、クラスメイトたちが集まってきた。


皆から注がれる熱い視線。

だけど誰も何も言おうとしない。

異様な雰囲気だ。


そこにやってきた担任がしれっと、

「“持田の奇跡”第二章の始まりだな。」

とか言い出す。


それを呼び水に“持田”コールの大合唱が始まる。

泣きながら肩を抱き合っている女子もいて、収拾がつきそうにない。


『三年二組はすぐに入退場門へ移動して、閉会式の準備に入ってください。』

相沢のアナウンスが流れてきた。


それを聞いた何人かが、入退場門へ移動し始める。


ナイスだ相沢。


放送テントを見ると、相沢が手をふってくれている。

オレも大きくふりかえす。


オレが入場退場門へ移動し始めると、残りのクラスメイトたちも、後に続いて移動を始めた。


まるでオレが先頭にたって、集団を引き連れているかのような光景だ。


閉会式は開会式に比べて短時間でおわった。

退場行進、整理体操、校長の言葉、それくらいしかなかった。


教室に戻ると、何人かのクラスメイトがまたオレの周りに集まってきた。

いい加減うんざりしていたが、盛り上がりに水をさすのもどうかと思い、仕方なしに対応する。



(伊蔵さん。大人気っすね。)

スラが興味深げに話しかけてくる。


スラ、本当にそう思うか?


(そう言われると、違う気もしてきたっす。)


素直なスラ。


多分だけどな、この持田フィーバーは一時的のものだ。しばらくしたらみんな忘れる。


(そうっすかねぇ。)


そう思っていないと、この状況にオレの感情がついていかないんだよ。


(そんなもんっすかねぇ。)


そんなもんだ。


オレはスラと話しながら、わずかしかないソーシャルスキルを駆使して、当たり障りのない対応を心がける。


そこに担任が入ってきた。


担任も疲れていたのか、さっさと連絡事項を伝えると、あいさつを済ませて教室を出て行った。


その後は三々五々の流れ解散になる。


そして予想通り、オレと一緒に帰ろうとする奴は一人もいなかった。


なっ、オレが言ったとおりだっただろう。


(みんな忘れるの早すぎじゃないっすか…)

驚きを通りこして、あきれ口調のスラ。


オレが教室を出て、一人下足室に向かって歩いていると、満面の笑みをうかべた天音が走り寄ってきた。


「お兄ちゃん、かっこよかったよ。」


その一言にオレは泣きそうになる。


(伊蔵さん。泣いていいっすよ。)


うるせえ!


(素直じゃないっすねぇ。)


お前が言うな。


(おいらは素直っすよ。)


知ってるよ。


そんなやりとりをしながら、オレは天音と一緒に廊下を歩く。


何人かの女子生徒が天音に声をかけて走りさっていく。


そこに神乃さんもやってきた。


「先輩、お疲れさまです。」

天音が神乃さんに向かって頭を下げる。


「天音も、お疲れさま。」

笑顔で答える神乃さん。


“天使”と“女神”の邂逅に尊さがあふれ出す。


そうだった。


バスケ部に所属する天音は、神乃さんの後輩になるんだったな。オレはそんなことを思い出しながら、二人のやりとりを見守る。


「先輩、お兄ちゃんすごかったでしょう。」

自慢げな天音に、心の中でガッツポーズをするオレ。


「うん。すごかった。本当にすごかった…」

うなずきながら答える神乃さん。


いかん。

涙腺が崩壊しそうだ。


(泣いていいっすよ。)


泣かないよ!ぜってえ!


(素直じゃないっすねぇ)


だな。


「それじゃ天音、また来週ね。」

神乃さんはそう言うと手をふって走り去っていく。


一瞬オレの方を見た気がしたが、きっと気のせいだろう。


「先輩、お疲れ様です。」

走り去るうしろ姿にあいさつする天音。


「よし、帰るか。」

オレは天音の頭をポンと軽くたたき歩き出す。 


「待って、お兄ちゃん。」

あわてて追いかけてくる天音。


オレは天音の足音を背中で感じながら、下足箱のある出入り口に向かうことにした。

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