25話 Don’t stop me
『次はプログラムナンバー14、学年別クラス対抗徒競走です。体育大会最後の種目になるので、しっかりと応援しましょう。』
相沢の声によるアナウンスだ。
オレはストレッチをしながら順番を待つ。
「“もてたいぞう”。なにストレッチなんかやってんの。お前もしかして俺らに勝つつもり?」
村田が声をかけてきた。
それを無視してストレッチを続けるオレ。
「はああ。なに無視してんの。“もてたいぞう”のくせして生意気じゃね?」
周りに同意を求めるようにからんでくる。
うざい。
そのとき歓声が聞こえてきた。
一年生の競走が終わったらしい。
二年生たちがそれぞれのレーンに入っていく。
緊張感が高まる。
二年生たちが走りだした。
一周300メートルのトラックを、全力で走る二年生たち。さすがの村田も黙って競走の行方に視線を走らせている。
そしていよいよ3年生に順番がまわってきた。
四人がそれぞれのレーンに入る。
村田はトラックよりの1コースで、オレはとなりの2コース。
クラウンチングの姿勢でスタートの合図を待つ村田と他二人。
オレだけ上体をあげた姿勢だったのに気づき、あわててクラウチングの姿勢にかえたタイミングでスタートの合図が鳴り響く。
オレは完全に出遅れてしまった。
あわてて三人の後を追うが、かなり差が開いているように思える。
ちくしょう!
自分の優柔不断さをののしりながら、全力で手をふり、足を前に出す。
(まだ、大丈夫っす)
本当か…?
(前の三人は、200メートルを過ぎたあたりから徐々にスピードが落ちていくはずっす。)
その言葉信じるぞ。
オレはそう告げると前の三人を追走する。
そのアドバイスで余裕ができたのか、流れていた曲に耳を傾けることができた。
“Don’t Stop Me Now.”だ。
相沢が約束を守ってかけてくれていた。
オレのテンションが上がり始める。
“So don’t stop me now, don’t stop me
‘Cause I’m having a good time, having a good time”
(だからオレをとめないでくれ だってオレは最高に楽しんでいるから)
3レーンを走る走者が目の前に迫ってきた。
“I’m a shooting star leaping through the sky
Like a tiger defying the laws of gravity.”
(オレは空をはねる流れ星 重力の定めに逆らうトラにようなね)
オレは150メートル手前でそいつを追い抜かす。
“I’m a racing car passing by
Like Lady Godiva.”
(オレは走りすぎるレーシングカー レディ・ゴディバのようなね)
4レーンを走る走者のスピードが落ち始める。
“I’m gonna go go go.
There’s no stopping me.”
(オレは行くよ 何もオレを止められない)
オレは200メートルを過ぎたところでそいつも追い抜かした。
“I’m burning through the sky.
Yeah! Two hundred degrees.”
(空を燃えながら渡るんだ 200度の温度でね)
オレはこの日のために、300メートルを走りこんできた。
“That’s why they call me Mister Fahrenheit
I’m traveling at the speed of light.
I wanna make a supersonic man out of you.“
(だからミスター・ファーレンハイトと呼ばれるのさ 光の速さで動くんだ 君を音速マンにしてあげたいよ)
村田の背中が見えてきた。
“Don’t stop me now. I’m having such a good time.
I’m having a ball. Don’t stop me now.”
(今はとめないでくれ こんなに楽しんでいるんだ
オレは楽しんでいるんだ 今はとめないでほしい)
ゴールの20メートル手前で村田と並ぶ。
オレは必死の形相の村田を横目に抜き去ると、そのままゴールテープ切った。
大歓声が”Don’t Stop Me Now.”のサビをかき消す。
最下位からの大逆転劇に、クラスメイトたちは抱き合って喜んでいる。
ゴールしたあと、倒れこんで息を整えている三人をしり目に、オレは順位のかかれた旗のうしろに並んだ。
「先輩、めちゃかっこよかったです。」
先にすわって待っていた二年生の一位が声をかけてきた。
「おめでとうございます。」
続けて、一年生の一位が熱い眼差し向けながら声をかけてくる。
「ありがとう。」
オレは答えながらその場にすわりこむ。
震える足。
背中を伝い落ちる汗。
そのどれもが心地よく思える。
オレは不思議な高揚感に包まれながら流れてくる曲に耳を傾けていた。
“Don’t stop me, Don’t stop me, Don’t stop me
Don’t stop me, Don’t stop me, oh-oh-oh
I like it
Don’t stop me, Don’t stop me
Have a good time, good time
Don’t stop me, Don’t stop me,”
(今はとめないでくれ どうか今はとめないでほしい すきなんだ とめないでほしい 楽しんでいるんだ だからとめないでほしい)
オレはフレディの歌声を聴きながら、今、この瞬間の喜びを全身で味わっていた。




