23話 持田の奇跡
次の日、テストがかえってきた。
全教科100点は、学年でオレだけだったらしい。
普段から生徒に関心を示さない担任が何気なくもらした、「持田、奇跡をおこしたな。」という一言ことから、“持田の奇跡”という言葉がクラスで流行りだした。
例えば、ある生徒が塾の模試でいい点をとったときに、「おれ昨日の模試で“持田の奇跡“おこしたし。」みたいな使われ方だ。
他にも「次の小テストで“持田の奇跡“起こせないかな…」など、”テスト“に関連するワードとして使われるようになっていた。
中には、「昨日先輩から告白されてさぁ、これって“持田の奇跡”じゃない?」のような、恋愛成就のキーワードとして使われているという噂もあったが定かではない。
夏休みが開けて二週間が過ぎた頃、HRの時間に10月の体育大会での参加種目を決めることになった。
3年生は受験を控えているということから集団演技はなかったが、その分個人種目への参加が義務付けられていた。
次々と参加種目の枠がうまっていく中、“学年別クラス対抗徒競走”の枠だけがうまらずに残っていた。
オレには、“その枠”を誰もがあえて避けているように思えた。
しかしこの時、体育大会初参加のオレにはその理由がわかっていなかった。
だから、それを見透かしていた(今思えば)担任の、
「持田、徒競走に出てくれないか。」という一言に、オレは不用意にもうなずいてしまったのだ。
昼休み。
放送室にいた相沢に、クラス対抗徒競走に参加することになったと伝えると、「先輩、ババつかまされましたね。」と笑いながらつっこまれた。
「なあ、相沢。徒競走ってそんなにやばいのか?」
オレは弁当をあけながらたずねる。
「やばいというか、観てるほうは盛り上がるんですけど、走る方は、きほん誰もやりたがらないと思います。」
「なんで?」
「先輩は今回が初参加だから知らなくて当たり前なんですけど、徒競走に出てくるのは、みな足の速い奴ばかりなんです。そんな快速自慢な奴らと誰も競走したくないでしょう?」
たしかに…。
ていうか、少し考えたら分かるような理屈に気づけなかった自分が恨めしい。
“持田の奇跡”に浮かれて冷静な判断ができていなかったのかもしれない…
「先輩、そんなに落ち込まないでくださいよ。たぶん誰も先輩が勝てるなんて思っていませんから。気楽にいきましょう。」
言ってから“やばい”という顔になる相沢。
「そうだな。誰もオレに期待していないよな。まあ、気楽に参加するわ。」
オレはそう言うと卵焼きを口に放りこんだ。
相沢は安堵の表情を浮かべると、徒競走の時に流してほしい曲をたずねてきた。
「そうだな…。Queenの“Don’t Stop Me Now.”をリクエストしていいか?」
「いい選曲ですね。もちろんですよ。」
笑顔で答える相沢。
「相沢。笑うかもしれないけど、参加するからには、オレやっぱり勝ちたいんだわ。誰かに勝ちたいとかじゃなくて、オレ自身に勝ちたいというか…すまん。うまく言えないわ。」
オレは恥ずかしさを紛らわすためにご飯をかきこむ。
「先輩なんかそれ、おれも分かる気がします。おれも上手く言えないですけど…」
苦笑する相沢。
相沢お前、本当にいいやつだな。
(本当っすね。)
スラお前いたのか。
(いるっすよ。ちなみに面白い情報を仕入れてきたっすよ。)
面白い情報?
(そうっす。徒競走に“村田”も参加するっす。)
まじか!
(まじっす!)
オレの中で何かが燃え上がり始めた。
(勝ちましょうっす!)
だな。
オレは弁当のふたを閉じて立ち上がる。
なぜか不敵な笑みを浮かべているオレに、不思議な表情をうかべる相沢。
相沢、先輩のカッコいい姿見せてやるからな。
オレは“目”でそう伝えると、放送室を後にした。




