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22話 疑惑

オレは生徒指導室のトビラをノックした。


「入りなさい。」

という声がする。


トビラを横に引いて中に入った。


中では馬場さんが机を挟んでオレの真正面にすわっている。


「そこにかけなさい。」

あごで自分の正面の椅子にすわるよう促す馬場さん。


有無を言わさないその態度に正直イラっととしたが、ともかくすわることにした。


「持田。なんで呼ばれたかわかるか?」

オレがすわったのを確認した馬場さんがたずねてきた。


「・・・・・。」

オレは何も答えない。


その様子を鼻で笑ったあとで、馬場さんは机の上に何かを出してきた。


数学のテストの答案だった。


「お前、カンニングしただろう。」

どすのきいた声が腹に響く。


「・・・・・・。」


「この期におよんで、何も答えないのか。」

嘲笑を含んだ声色に、オレは思わず馬場さんをにらみつけていた。


「なんだ。言いたいことがあれば、にらんでいないではっきり言えよ。持田。」

何か確信を得たのか、余裕の態度の馬場さんに、オレの怒りはMAXに達しようとしていた。


その時…


トン トン トン

ノックの音がした。


続けて、


「馬場先生、入りますよ。」

軽い調子の声がしたかと思うと、森田先生が指導室に入ってきた。


「森田先生。今、生徒指導中なんでね、何か要件があれば後にしてくれませんかね。」

面倒くさそうな態度で、森田先生をにらみつける馬場さん。


「いや馬場先生、それがね、生徒指導に関係することなんですよ。」


「どういうことです?」


「実は理科のテスト100点だったんですよね。」

森田先生はそう言うと、理科の答案を机の上においた。


机の上に二つ並んだ100点の答案。


“これで言い逃れできないだろう”とばかりに、にやつく馬場さん。


「なあ、持田。正直に言え。正直に言えば、今回のことは“おおごと”にはしない。」


勝ち誇った顔の馬場さんに、オレが切れようとしたそのとき、それをさえぎるように森田先生が理科の答案を裏返した。


「馬場先生、これ何かわかります?」


「はぁぁ?何かの落書きでしょう…」

突然の問いかけに思考がついていかない様子の馬場さん。


「なあ、持田。これ落書きか?」


「公式です。」

事態がのみこめていない様子の馬場さんを横目に答える。


「なんの公式?」


「シュレーディンガー方程式です。」


オレの答えを聞いた直後、馬場さんはようやく事態がのみ込めてきたのか、森田先生をにらみつけながら大声を出し始めた。


「あのね、森田先生。シュレーなんとかの方程式か知らないけどね、こいつのカンニングとどう関係してるんです?生徒指導の邪魔するなら出ていってくれませんかね。」

どすのきいたその声に思わずオレは体を固まらせてしまう。


森田先生は、その声が聞こえていないかのように、数学の答案も裏返した。


「私が試験監督をしていた時に、持田が書いていた公式です。馬場先生、これなんの公式か分かられますよね?」


「解の公式だろう。」

腕を組んで、顔を横にそむけながら答える馬場さん。


「馬場先生、よくみてください。持田は、平方完成をつかって解の公式を証明しているんですよ。」


それを聞いた馬場さんが、答案の裏に書かれた公式を確認し始める。


「馬場先生。解の公式を覚えている生徒はたくさんいます。でも、平方完成をつかって公式を証明できる生徒は何人います?」


「何が言いたいんだ。」


「持田はテストの解答が終わったあと、残りの時間公式の証明を書いて過ごした。私はそんな彼が、カンニングのようなリスクのあることをするとは思えないんですよね。」


名推理炸裂だ!

ありがとう森田先生。


オレが心の中で拍手喝采を叫んでいると、馬場さんがまた何かを言い出した。


「ふん、どうだかな。まあいい…。次の英語のテスト、私は試験監督補助に入る。そこでしっかりと確認させてもらおうじゃないか。」

馬場さんはそう言うと、数学の答案をつかみ、肩をいからせながら指導室を出ていった。


嵐が過ぎ去ったような静けさが指導室におとずれる。


オレは肩の力を抜くと、ホッと胸をなでおろす。


「持田、嫌な思いをさせてすまんな。馬場先生も悪気はないんだ。ただ、熱心すぎるあまり行き過ぎてしまうことがある。馬場先生にはまたオレの方から話をしておく。昼からのテストがんばれよ。」

森田先生はそう言うと、オレをねぎらうように肩を優しくたたいてくれた。


オレは無言でうなずくと、立ち上がり、礼をしてから指導室を後にする。


昼からの英語のテストの解答を、オレは30分で終わらせた。


すぐうしろで目を光らせていた馬場さんは正直うざかったが、気にしない。


残った時間で答案の後ろに、Queenの“We Will Rock You”の歌詞を書きなぐる。


“We will, We will rock you.”

(オレが オレたちが お前らを目覚めさせる)


“We will, We will rock you.”

(オレが オレたちが あっと言わせてやる)


“We will, We will rock you, sing it.”

(そんなオレが オレたちが 奴らをロックする 歌おう) 


“We will, We will rock you, everybody.”

(オレが オレたちが 世間をあっといわすんだ みんな)


“We will, We will rock you, hmm.”

(オレが オレたちが 世界を揺るがしてやる そうさ)


“We will, We will rock you, alright.”

(オレが オレたちが 世界に衝撃を与えてやるんだ その調子だ)


オレは小さく足踏み(ストンプ)していた。


鉛筆を走らせる音とストンプがオレの抵抗の証だ。

オレは心の中で“We will, We will rock you.”をシャウトしていた。

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