18話 タケさん
オレは市営のトレーニングジムに来ていた。
中学生なら1ヶ月1000円で、温水プールもジムも使い放題だった。
この一ヶ月間毎日通いつめ、顔なじみも増えていた。
そのうちの一人がタケさんだ。
タケさんと気軽に呼んでいるが、本名は武田毅文。
65歳の現役ボディビルダーだ。
短くかりそろえた白髪に、小麦色の肌。
Tシャツのそでからは見事な上腕二頭筋が見え隠れしている。
そんなタケさんは、ウェイトトレーニング初心者のオレのために、アドバイスや補助をいつもかって出てくれていた。
「伊蔵君。プッシュ!プッシュ!」
タケさんが、バーベルを胸の上で押し上げようとするオレの隣で声をかけてくれる。
フンヌヌヌ!
胸筋がけいれんし、上腕筋が波打つ。
「プッシュ!プッシュ!」
タケさんの激が飛ぶ。
りゃああぁぁぁ!
限界をこえた力で押し上げる。
「OK!」
伸ばし切ったオレの腕がプルプルと小刻みにふるえる。
タケさんはバーベルのシャフトをつかむと、軽々と持ち上げてフックにかける。
バーベルがなくなったのに腕をおろすことができないオレ。
「よくがんばったな。」
タケさんの声が遠くで聞こえる…
誰かがオレの腕をつかんで起き上がらせてくれた。
タケさんと目が合う。
目じりにたくさんのしわが刻まれた優しい目だ。
「ありがとうございます。」
「おう。」
タケさんはそう言うとつかんでいた腕をゆっくりと放してくれた。
「伊蔵君。まだトレーニングを続けるかい?」
タケさんが手首に巻いたテーピングをはがしながらたずねてきた。
「明日も学校行こうと思うんで、今日はこれくらいにしておこうかと思います。」
両腕を抱えこむようにしてさすりながら答える。
「そうか。それなら、この後すこし話をしないか。」
「はい。大丈夫です。」
オレはそういうと立ち上がった。
タケさんはうなずくと更衣室に向けて歩き出す。
オレより少し小さいタケさんの後ろ姿。
たくましさだけではない、“人生の貫禄”そのものが歩いているような後ろ姿に言葉を失う。
オレもいつか、この人の後ろ姿に追いつくことができるのだろうか…
そんなことを考えながら、オレはタケさんの後を追いかけた。




