17話 後輩
昼食の時間、オレは放送室に顔をだした。
放送室には2年の相沢慎一が放送当番できていた。
「よお!」
軽い感じであいさつしながら空いている席に腰をおろす。
「持田先輩、お久しぶりです。」
機材を器用に操作しながらあいさつを返す相沢。
「なんの曲流してんの?」
弁当をかばんから取り出しながらたずねる。
「えっ、先輩“yoasobi”知らないんですか?」
知らない。でもなんかすごくいい感じの曲だ。
オレは黙って弁当のふたをあける。
「“優しい彗星”ていう曲です。」
オレの沈黙の意味を察した相沢が教えてくれる。
「いい曲だな。」
卵焼きをほおばりながら流れてくメロディーに耳を傾ける。
「いいでしょう。最近のお気に入りなんです。」
うれしそうに答える相沢。
「そういえば、先輩なんかやせました?」
メロディーを鼻歌で口ずさみながらたずねてくる。
「まあ、いろいろあってな。少しやせた。」
メインディッシュのハンバーグを切り分けながら答える。
そうこうしているうちに曲が終わる。
続けて次の曲が流れてきた。
「これも“yoasobi”の曲?」
ハンバーグを口に放りこみながらたずねる。
「ええ。“ハルカ”ていう曲です。」
二人で黙ってしばらく曲に耳を傾ける。
歌詞、メロディ、ボーカルによるハーモニーが最高だな…
オレは食べることも忘れて聞きほれていた。
二曲目も終わる。
あわててマイクのスイッチをONにする相沢。
「“yoasobi”で“優しい彗星”と“ハルカ”、二曲続けてお送りしました。さてこれでお昼の放送は終了します。みなさん、昼からもがんばっていきましょう。今日の放送担当は二年の相沢でした。」
言い終わるとマイクのスイッチをOFFにして、こちらをふり返る。
「先輩は体育大会参加するんですか?」
「いちおう参加するつもり。」
突然の質問に戸惑ったが、動揺を隠しながら答える。
「おれ、体育大会のとき放送担当なんで、先輩が出る種目のときはQueenの曲かけますよ。」
少し照れた感じの相沢。お前、いいやつだなぁ。
(本当っす。)
スラもそう思うか。
(はいっす!)
「相沢、ありがとうな。」
「お礼なんていいですよ。むしろこっちがお礼言いたいくらいですから。」
「えっ、どういうこと?」
「あれ、顧問の森田先生から何もきいていないんですか?」
気まずい沈黙…
「もしかして、Nコン(NHK全国高校放送コンテスト)のことか?」
一か八かできいてみる。
「なんだ、知ってるんじゃないですか。先輩が前に書いてくれた物語をもとに、おれたちで脚本をアレンジして応募したんですよ。」
思い出した!そういえば天音が先生から“持田のおかげで決勝まですすめた。ありがとう。”っていう伝言をあずかっていたっけ…
その時は気にもかけなかったけど、そういうことだったのか。
「決勝に進出したんだよな。いや、おめでとう。伝えるのおそくなってごめんな。」
「ごめんとか言わないでくださいよ。おれたち先輩に感謝の気持ちしかないですから。」
笑顔の相沢につられてオレも笑顔になっていた。
「じゃあ、オレもう行くわ。」
かばんに弁当をしまいながら立ち上がる。
「お疲れさまです。」
どこまでも丁寧な相沢。
オレは放送室を出ると職員室に向かう。
職員室で担任の先生に帰宅することを伝え、学校をあとにした。
遠くで昼休みの終わりを告げるチャイムの音が聞こえる。
段々小さくなっていくチャイムの音をふり払うように、オレは早足で次の目的地に向けて歩き出した。




