14話 変化
明日から新学期だ。
思い返せばあっという間の一か月だった。
規則正しい生活とトレーニングの成果もあって、オレの体重は70キロを切って68キロになっていた。
身長も5センチ伸びて160センチになっている。
心なしか体も軽い。いや確実に軽くなっている。
歩いてもひざが痛まないし、息も上がらなくなった。
変化は体だけじゃなかった。
学習面での理解力や応用力もびっくりするくらいに伸びていた。
スラが言うには、認知、思考、記憶、推論などの能力が常人の“2倍”に進化しているらしい。
今まで理解できなかった問題、思考が追いつかなかった問い、覚えられなかった言葉などがオレの中で咀嚼され知識として吸収されていく。
そして知識として吸収されたものを言語化、視覚化していく能力もあわせて進化していた。
オレは生まれて初めて“学ぶ”ことの楽しさを実感していた。
誰かにやらされるのではなく、自分の意思で学ぼうとする時に、“学び”は好奇心を満たす“発見”の喜びに変わっていく。そのことに気づけたことが何よりの収穫だった。
オレは明日からの登校に向けて制服を試着していた。
一年生の時に着ていた時にはぶかぶかだった制服も、ちょうどいい塩梅になっている。
じゃっかんきつい感じはあったが(特に腹回り)、着れないほどではない。
「伊蔵さん。制服姿けっこう様になっているっすよ。」
姿見の前にいるオレにむかってスラが声をかけてくる。
「本当にか?なんせ、制服着るのなんて一年ぶりくらいだからな…」
髪型をいじりながら答える。
「明日から学校が始まるので、トレーニングメニューを次の段階にステップアップしようと思うんっすけど、いいっすか?」
いいもなにも、こちらからお願いしたいくらいだ。
「了解っす。」
うれしそうに答えるスラ。
「この一か月間、本当にありがとうな、スラ。」
こみ上げてくるものをこらえながら伝える。
「お礼なんていいっす。“芽”は確実に成長しているっすよ。これも全部伊蔵さんの努力のたまものっす。」
オレを持ち上げてくれるスラ。
なんていいやつなんだ…
オレが女なら惚れてるな。
「それは、天音さんとの交際を認めてくれるということっすか?」
えっ、何を言ってるんだ…
「いや、だから“天使”と“魔物”の交際を後押ししてくれる…」
「わけ、ねえだろう!」
オレはスラが全部言い終わる前に叫んでいた。
「ですよね…っす。」
語尾の“っす”がやけに寂しそうだったが、ここはスルーだ。
油断するとすぐ調子にのってくるな…
オレはそんなスラとのやりとりを楽しみながらも、不安と期待の入り混じった感情が心の中を満たしていくのを感じていた。




