12話 一目ぼれ
「わかった。話は変わるけど、スラ。お前“読心術”以外に何か能力はあるのか?」
これから長いつき合いになりそうなので、一応きいておく。
「そうっすね…他には“形態模写”と“音声模写”ができるっす。」
なんだって!てことは、“〇坂46の△田ひかる”にも変身できるのか…
「もちろんっす!」
なぜかテンション高めのスラ。オレもテンションMAXだ。
「変身してください。」
「了解っす!」
スラはのりのりで答えると、オレの目の前で人間の形をとり始める…
そして…
わずか数十秒でスラは、変身をとげていた。
オレの目の前に突如現れた美少女。
「まじか…」
それ以上の言葉がでない。
「伊蔵君。」
美少女から発せられた声は、本物の“△田ひかる”そのものだった。
ドキドキが止まらない。
思春期真っただ中の中学生には刺激が強すぎる。
落ち着けオレ。
目の前の美少女はスラだ。
語尾に“っす”つける変なスライムじゃないか。
ああ、でも無理だ…
理性が吹き飛ぶ。
「あの、胸さわってもいいですか…?」
オレは口走っていた。
「いいよ。」
微笑みながら答える美少女。
オレはゆっくりと美少女に歩み寄る…
あと数センチでオレの手が、胸に届きそうだ…
指先がふるえる…
神様、いや悪魔様ありがとう…
その時。
「お兄ちゃん、いるの?」
ドアをノックする音と天音の声がオレを現実に引き戻す。
「入るよ。」
有無を言わさないその声と、ドアのむこうに現れた“天使”に姿に固まるオレ。
「お兄ちゃん、それなんのポーズ?」
不思議そうにたずねてくる天音。
「えっ?これ?あの、あれだ。新しいストレッチ…」
てんぱりすぎて、思いついたことを言ってしまう。
「かわったストレッチだね?」
「そうだろう。手かざしストレッチっていうんだぜ…」
だめだ…言えば言うほどおかしなことになりそうだ…
「お兄ちゃん、さっき誰かと話してた?」
突然話題を変えられ思考がついていかないオレ。
あわてて辺りを見回すが、美少女の姿はない。
「いや、あの、独り言。」
変身したスラの姿が見あたらないことに安堵しながら答える。
「ほんとに?なんか隠してない?」
鋭い。するどすぎるぞ。本当に“天使”なんじゃないのか…
(...っす。)
突如きこえたスラの声。
お前、どこにいるんだ…
(部屋の床に擬態してるっす。)
そうか。それなら、ばれる可能性は少ないな。
オレは密かに胸をなでおろす。
「っていうか、天音。オレの部屋に何しにきたんだ?」
強気で話題を変える。
「あっ、そうだった。お兄ちゃんのQUEENのCDかしてほしいの。」
なんだそんなことか。
「いいけど、何に使うんだ?」
CDラックに向かいながらたずねる。
「えっとね、体育大会のダンスの練習で使うの。」
「集団演技ってやつか?」
「そう。」
うれしそうに答える天音。
「そうか。がんばれよ。」
そう言いながら、CD渡す。
「ありがとう。」
“天使”の微笑みにオレの煩悩が浄化されていく…
部屋を出ていく天音。
ドアを閉める音を合図に、スラが姿を現す。
壁の前で球形のスライムが、プルプル体を波打たせている。
「どうしたスラ?」
様子がおかしくなっているスラにたずねる。
「惚れたっす…」
惚れた…?まさか天音に?
「ハイっす!」
いやダメだろう。スライムが人間を好きになっちゃ。
「好きに人間もスライムも関係ないっす!」
いや、あるだろう!
「ないっす。これから伊蔵さんのことを“お兄様”と呼ばせてもらうっす。」
何を言ってるんだこのスライムは…
「これからもよろしくお願いしますっす!」
「“すっす”じゃねえわ!」
思いきりつっこみながらも、スラを受け入れる決意を固めたオレ。
まあ、“天使”には指一本触れさせないけどな。
こうしてオレと使い魔との新しい生活が始まった。




