10話 覚醒の種
「そもそも“魔人”とは、悪魔と人間が一体化した状態のことを指すっす。」
語尾が“す”のときは“っす”が言いにくそうなスラ。
「じゃあ、今のオレは“魔人”にはなっていないってことか?」
ひざの上のスライムをポヨポヨ押しながらたずねる。
「その通りっす。人間が魔人化する時に、もしそれに耐えられない場合、死んでしまうっす。だからおいらが、伊蔵さんのところへ遣わされたっす。」
ってことは、今のオレには魔人化は無理…
「はいですっす。」
イクラちゃんのような受け答えに、むりやり“っす”をつけるスラに、オレは尊敬の念すら覚え始める。
「つまりお前は、オレを魔人化させる準備のためにここに来た。そういうことか?」
ポヨポヨでリズムをとりながらたずねる。
「そうですっす。もう魔人化に向けてのメニューは組んであるっすよ。」
さも当然かのように答えるスラ。
「いや、せっかく組んでもらったのに言いにくいんだけど、魔人化を断ることはできるのか?」
碧水晶のよう球形のボディのスラを見つめながらきいてみる。
「それも可能っす。ただし、能力の覚醒に制限がかかってしまうっす。」
えっ、どういうこと?
「魔人化する前の契約状態だけでは、常人の5倍までの能力しか覚醒しないっす。」
常人の5倍って…ちなみに今のオレは何倍なんだ?
「1倍っす。」
んんん?1には何をかけても大きさが変わらない…
「って、おい。オレには何も変化がおきていないってことか?」
思わず大きな声になってしまうオレ。
突然スラがひざから飛び降りた。
そしてオレから距離をとって向き直る。
「伊蔵さん。」
そこは“っす”つけないのかよ。
「実はもう、種はまかれているっす。」
種? なんの種だ…?
「“覚醒の種”っす。」
いつの間に…しかし一体いつ?
「契約の時っす。そしてもう間もなく芽をだそうとしているっす。」
芽をだす?
覚醒の種が…
「実は”覚醒の種”にとって、芽を出す前と出した直後が、一番大事なのっす。だからおいらが遣わされたっす。」
そいうことか。
「そういうことっす。」
なんだか安心した様子のスラ。
ともかく、魔人化するかどうかの判断は置いておこう。
契約状態でも5倍まで能力が覚醒するならそれを目指す。
「わかった。スラ、お前のメニューで進めていこう。ただし、魔人化の件は一旦保留だ。」
オレは決めたことを伝える。
「了解っす。ザジさんもそれで進めていくよう、おしゃっていたっす。」
そうなのか。ザジはオレのこの反応と決断を予想していたってことか…
しかし、あいつ、今どこでなにしてるんだ…?
「ザジさんは、マイケルをサポート中っす。」
マイケル?フレディの次はマイケルのサポートに…?
「そのマイケルって、“ジャクソン”もついたりするか?」
「その通りっす。」
スラが誇らしげに答える。
あいつ一体なにものなんだ?
いや、そもそも魔界ってどんなとこなんだ。
なんで、フレディやマイケルが生前と同じような活動ができているんだ…
疑問が洪水のようにあふれ出す。
「今から、魔界と、それをとりまく“世界”について伝えるっす。」
オレの疑問を予想していたかのように、スラの説明がそこから始まった。




