1話 ライオン男
オレは持田伊蔵。
中学三年。
もてたくて、もてたくて、もてまくりたいあまり、
悪魔を召喚してしまったらしい…
それはありえない姿でオレの目の前に現れた。
裸の上半身にはライオンの頭がのっている。
何より目を引くのは、真っ白な“まわし”をしめていることだった。
「あの、どなたですか…」
おそるおそるたずねる。
「自分で呼んでおいて、それをオレ様にきくか?」
面倒くさそうに答えるライオン男。
だいたい自分のことを“おれ様”と呼ぶ奴にろくな奴はいない
「…と思う。」
やばい!心の声の語尾だけがもれてしまった。
「お前、いまオレ様のことを“ろくでもない”とか思っただろう。」
にやけた口調で追及してこようとするライオン男。
はっきり言ってうざい。
「お前、いまオレ様のことを…」
「はいはい、思いました。いま、“うざい”とおもいました。」
先に言ってやった。
「カッカッカッカ!なかなか正直でよろしい。オレ様お前のこと気にいったぞ。」
突然笑いだしながらの、上から目線発言にイラっとする。
「繰り返しになりますが、どなたですか。」
わざとたずねる。
「このやりとりにも飽きてきたからなぁ。そろそろ教えてやろう。」
それなら最初から教えといてくれ。
「お前、いまオレ様に…」
「はいはい、わかりました。もうけっこうなんで、かえってください。」
正直面倒くさくなってきたので無理やり話を切り上げる。
「お前、本当にそれでいいのか?」
突然猫なで声になるライオン男。
「・・・・・。」
そうだった。オレの望みがライオン男を呼び出したんだ。
「そうだ。オレ様はお前の魂の渇望にひかれて召喚されたのだよ。」
どや顔で答えるライオン男。
キモイ。
「お前、いまオレ様のこと…」
「わかったんで。オレの心が読まれていることもうわかったんで。いちいち突っ込んでくるのやめてもらえませんか。」
思い切って頼んでみる。
「なんだ、つっこんでほしくて毒づいていたんじゃないのか?わかった。お前がそう望むなら、無用なつっこみは控えよう。」
ライオン男は案外すんなりと頼みをきいてくれた。
「さっき、オレの魂の渇望にひかれて召喚されたと言っていたよな。」
確認でたずねる。
「ああ、言ったよ。」
ライオン男が答える。
「じゃあ、あんた“悪魔”なのか?」
ライオンの顔を見つめながらたずねる。
「いかにも。オレ様は“悪魔”だ。お前の魂の渇望にひかれ、その渇望を満たしてやるためにここにいる。」
言っているセリフはかっこいいはずなのに、全くそれが伝わってこない。
残念だ。とても残念だ。
なんで悪魔のお前が“まわし”をしめている。
だれと相撲をとるつもりだったんだ。
ここぞとばかりに、心の中でつっこみまくる。
これがオレと、つっこみどころ満載の“悪魔”との出会いだった。