Killer Family Game ~キラーファミリーゲーム~
キラーファミリーゲーム。
直訳するとどうだろう、家族殺しのゲームといったところか。
それがどういう意味を持ってるにせよ、そんなことはどうでもいい、些細なことだった。
和訳なんて所詮、解釈の違いに過ぎない。平仮名か、片仮名かの違いでしかないのだ。
どうでもよかった。城裂一賊にとって、そんなことは―――。
「遠美が誘拐された!」
一賊の大将、すなわちリーダーであるところの親也は、玄関のドアを開けるなりそう叫んだった。
遠美といえば、冬馬より2つ年下の、中学1年生だ。また、一賊の中で最も年齢の低い人間だった。そんな人間が誘拐されたとなれば一大事だ。家族を何よりも大事にする一賊――それが城裂一賊。こと家族のことに関しては、それこそ家族総出で事に当たるのが暗黙の了解である。
「誰に誘拐されたんだ!」
大将の次に年長の城火が親也に聞く。
「よく分からん!ふざけた名前を言ってやがった!返して欲しければ、一賊総出で三宮駅まで来いと!」
「……行くしかないな。しかし、何故三宮駅なんだ?あんなに人の多いところに集まって、一体何をしろと……」
今度は、ルームメイトの重一が冷静に返す。この人は冬馬から見れば、いつも冷静でいることに定評を持つ、優しいお兄さん的な存在だ。最近髪の毛を伸ばしているらしく、軽く後ろで束ねている。19歳の普通の美青年だ。
他の城裂達も、重一の意見に賛成らしく、首を縦に振っている。
「よし、各自すぐに準備しろ!10分後にここを出る」
リーダーの親也はそう言うと、隣の部屋に向かったようだ。城裂一賊は現在、22人の家族だ。さすがにマンションの一室で生活できる人数じゃないため、4つの部屋に分かれている。分かりやすく言えば、このマンションの最上階、14階に、城裂という表札が4つあるということになる。
遠美とは、年が近いだけに喋る機会が間々あった冬馬は、誘拐と聞いて少しショックを受けた。それは、家族が目の前からいなくなる恐怖と似たようなものだった。
「行こうか、冬馬」
重一が落ち着いた様子で冬馬に話しかける。
「ああ―――」
冬馬の足は重かった。
さきほど述べた、冬馬が50kmの道のりをかけて歩いてやってきた、政令指定都市というのは神戸市のことだ。
神戸市。
人口約150万人。人口密度は約2780人毎平方キロメートル。
9つの区からなる神戸市は、外国との交流も深く、外国人居留置がある。また、地形の特徴として、山と海の間が近いということが挙げられる。それは、三宮なり灘なりに行ってもらえれば分かると思うが、市街地から山が見え、その反対側を見れば海が見える、という状況だ。また、神戸の夜景は日本三大夜景に登録されている。100万ドルの夜景、と昔言われていたが、今は1000万ドルの夜景とも言われるようになった。
まあ、神戸の紹介はこれくらいでいいだろう。とにかく、神戸は面白い都市なのだ。そして、その面白さは、今回城裂一賊の敵に利用される結果となった。
神戸駅前に出向いた一賊は驚いた。
「人が……誰もいない……だと!?」
誰も、いなかった。否、一賊以外はという意味になるが。
いつも人であふれてる、駅前広場には、城裂以外の人間が存在していない。
それだけじゃない。
この世から、自分達以外の人間が全て消えてしまった、そんな感覚。
そこへ、親也の携帯電話に着信。
「お前か!一体何のつもりだ!何がしたい!」
その後しばらく話した後、親也は電話を切った。
「そこのベンチの下に、腕時計がある」
親也が指さした先が、丁度冬馬の足元近くだったので、冬馬はしゃがんでベンチの下を確認する。すると、何やらダンボールの箱が出てきた。中を開けると、、本当に腕時計が入っていた。
「何で腕時計?」
全く話が読めない冬馬は、不思議そうに腕時計を眺める。
「それを全員付けろ」
親也が皆にその旨を伝えた。
「で、今この状況ね…………」
冬馬はぼやいていた。JR神戸線の高架下で、少し息を荒げながら。
「何をぼやいてる。家族のためだろう。それともお前は、城裂一賊を抜けるのか?」
冷静沈着が売りの美青年、城裂重一。その口調はまさしく家族に話しかけるようだった。
「重にいは19だろ?俺はまだ15だぜ。基礎体力が違う」
「そんな話はしてないんだがな……」
呆れたように呟く重一。彼もまた、家族を失った身だ。そして親也に拾われた。
「お前の能力、なんだっけか?」
「あ?能力?」
「とぼけるな冬馬。お前はノーマルじゃないだろ。勿論俺もだ。お互い、能力は確認しておいた方がいい」
「けっ、分かったよ。俺の能力は」
そう言って冬馬は、ビー玉ほどの小石を拾い、それを人差し指に乗せ。
「ほいっ」
ひゅんっ!という発射音。
小石はJR線の線路を支える柱に5cmほどめり込んで、そこで停止した。
「……サイコキネシスか」
「ああ、この間、レベル3になった」
「じゃ、俺の能力か。俺のは説明しにくいんだが、まぁ予知能力とでも言うか」
「へぇ~初めて会ったな。ちょっと何か予知してみてよ」
「……………………」
少し目を瞑った後。
「ふんっ。あと10分程でここに奴らが来る。移動するか」
「あ?ああ――」
二人は神戸の夜道を歩き出した。