家族
そもそも、城裂冬馬――否、赤城冬馬が城裂一賊に入ることになった理由については、時間を1ヶ月程前に遡る。
冬馬の父親は、5ヶ月前にリストラされた。
というか、不況の影響で、勤務していた電気店がつぶれたのだ。
冬馬の家はあまり裕福な家庭ではなかったことと、父親の職が決まらなかったこと、さらに、冬馬の他にも子どもがいたことなど、様々な条件の下、その決定は下された。
「冬馬、お前は一人で生きていけ」
父親から受けた、辛辣な言葉だ。
こんな言葉を、父親から、家族から聞くとは思っていなかった。
裕福じゃなかった分、他の家庭よりも家族の仲がいいと、冬馬は思っていた。父親も、とても尊敬できる人で、母親も、いつも優しくしてくれた。
妹も、冬馬と仲が良かった。小さい頃は、一緒に遊んでやったし、中学生になった今でも、勉強を教えてやったりしていた。
「お兄ちゃん、バイバイ…………」
妹から聞いた、最後の声がそれ。全く、たまったものじゃない。自暴自棄に成りかけたその時、父親から放たれた言葉が、僕を奈落の底に突き落とした。
「お前のそれ。それのせいもあるんだ……」
その言葉を最後に、赤城家は解散した。
妹は、母親と一緒に。父親は一人で。
そして、15歳、中3の冬馬も一人で外の世界に放たれた。それが、1ヶ月前。
財布だけを持ち、途方も歩いているつもりだったが、いつの間にか、知らないマンションのホールに立っていた。
たまたま通った住人に聞いてみると、そこは、冬馬の住んでいた都市から50kmも離れた、某政令指定都市だった。
「やぁ、よく来たね」
「え?」
声のした方を振り返ると、そこには30代くらいだと思われる男性が立っていた。男性はスーツ姿で、たった今、会社から帰ってきたような風だった。
「誰だ?あんた」
「ああ、自己紹介しようか。私は、城裂親也。城裂家の代表者だ。さ、行こうか。城裂冬馬くん」
「は?何を。俺の名前は赤城冬馬だぜ?赤城だぜ。人違いじゃないのか?」
「赤城?そうか。君の前の名字は赤城というのか。だが、君、もう家族はいないだろう?その名字を語る資格があるのかい?」
「て、てめぇ………何故それを知っている……」
何故、こんな初対面の男が自分の家庭事情や、今の事情を知っているのか、冬馬には分からなかった。が、しかし、この男からは、どこか安心できるオーラみたいなものがあった。だから、冬馬はもう少し話を続ける。
「分かるさ。僕も君と同じだからさ。だから―――」
いつの間にか、その男は冬馬の目の前に居た。そして、
「僕達は、もう立派な家族さ」
そう言って右手を差し出してきた。
「か……ぞ、く………」
それは、懐かしい響きに思えた
そして、泣きながら、自分の右手を差し出し、がっちりと握手をした。