お姉様の婚約者候補様へ、わたくしのこの熱く滾る苦しい胸の内を告白します!
途中からめっちゃ方言入ります。
つい最近。
お姉様に、婚約者候補の方ができました。
我が家門は軍閥系なのですが、うちにはお姉様とわたくしの姉妹二人しかおりません。
わたくしはあまり身体が丈夫ではないため、お姉様が婿を取って我が家を継ぐ予定になっております。
わたくしは結婚はしない予定なのですが……その、文武両道でクールビューティーなお姉様が冷たく見えるそうで、小柄で童顔なわたくしの方が殿方の庇護欲をそそるという評判らしく、わたくしに釣り書きが多く届いているようなのです。
本当に困ったものです。
それで、お姉様が各貴族家の令息方をうちにお招きして交流をし、婿候補の方々を吟味している最中なのですが――――
とある伯爵家の令息がお姉様との交流する前に屋敷の中で迷ってしまい、偶々図書室へ向かう途中だったわたくしと遭遇。お姉様の婚約者候補の方と紹介されたので、彼をお姉様の許へ案内して差し上げました。
それが、あの方との出会いでした。
彼は、うちでよく見る護衛の殿方達よりも細身で綺麗なお顔をしていました。金髪碧眼の、如何にも女性に好まれそうな王子様みたいな容姿。
それ以来、彼はお姉様との交流中にわたくしに会いに来てくれるようになったのです。
何度も何度も、彼はわたくしに会いに来てくれて――――
わたくしのことを気遣い、お花や、可愛らしいアクセサリー、お菓子などをわたくしへ贈ってくれました。
お姉様を差し置いて、わたくしに。
「このようなこと、許されることではないのです。もうおやめください」
そう彼に告げて、何度も不適切なこの関係を絶とうとしました。
けれど――――
「ああ、君が俺の婚約者だったらよかったのに……君と先に巡り会えていたなら、なにを置いても君に求婚した。だというのに、なぜ俺は君の姉の婚約者となってしまったんだ? 君の方が遥かに儚げで……こんなにも守ってあげたいと強く思うのに」
と、熱い吐息で、酔ったような顔で、彼がわたくしに囁くのでした。
いえ、まだお姉様の婚約者が彼に決まったという話は聞いておりませんが……
「大丈夫。君のお姉さんと結婚しても、俺が本当に愛するのは君だけだ。心配しないで?」
甘い囁きが落ちます。
わたくしは……熱くなる頬を押さえ、
「あ、待ってっ!?」
戦慄きそうになり、堪らず彼の前から逃げ出してしまいました。
ああ、どうしましょう……もう、この熱く苦しい胸の内を隠すことなどできそうにありません。
もう一度、彼と顔を合わせてしまったら――――きっと、わたくしは止まれない。
この、熱く滾る強い思いを彼へと全力でぶつけてしまうことでしょう。
そんなこと、わたくしのためにも、お姉様のためにも良くはないのだと判っているのです。お母様にも叱られてしまうことでしょう。
ですが、彼に会ってはならないと、頭では理解していても・・・
どこかで、また彼と出会えることを期待してしまうのです。
だって、もうこの苦しい胸の内を、熱く滾る思いを、抑えることが難しいのですから!
そうやって、彼の顔を見たくない。けれど、我慢を重ねるのは限界だとわたくしは葛藤を抱えていたというのに――――
彼の方から、お姉様との交流という名分を利用し、わたくしに会いに来てしまったのです。
なので、わたくしは・・・
もう、つらく苦しい我慢をするのを、やめることにしました。
「やあ、最近は顔を見せてくれないから心配していたよ。身体の具合が良くないのかな? それとも、君のお姉さんとばかり会っていたことに嫉妬でもしてくれた? ああ、そんなに赤くなって。君は本当に可愛いな」
そんなことを言う彼に、
「そ、その、こんなことを言うと……お姉様にも、お母様にもはしたないと、淑女失格だと叱られてしまうことは判っているのです! ですが、もうわたくしはこの強く育ってしまった思いを我慢することなどできません! なので、どうか……こちらへ、来て……ください」
少しの興奮と高揚感と震えてしまう声で彼を見上げると、
「……わかった。それで、どこに行こうか」
ゴクリと喉を鳴らし、ニヤリと嬉しそうに笑った彼が応えました。
ああ、よかった。これからすることは、とてもはしたないこと。誰かに見られてしまったら、きっと酷く叱られてしまう。令嬢としては、酷く失格なことなのだから――――
ドキドキと煩く高鳴る鼓動を抑え、わたくしはお姉様の婚約者候補である彼を、空いている……ひっそりと人気の無い部屋へと案内しました。
「ああ、君が俺のことを受け入れてくれるなんて……とても嬉しいよ」
にこりと、嬉しそうにとろけるような笑みを浮かべて両腕を広げる彼へと――――
「ああ゛? いつもいっつも、婚約者候補の妹相手に欲情した視線向けて、臭くて荒い鼻息フンフン吹っ掛けおってからに、バチクソキッショいんじゃ我ぇっ!! 疾く去ねやっ!!」
我慢していたこの熱く滾る苦しい胸の内を、思いっ切りぶちまけることにした。
「・・・は?」
驚愕でぽかんと点になった目が、うちを見詰める。
「頭も悪ぃなら耳も悪いんかいっ! つか、婚約者候補の妹に色目使うとかクソ野郎にも程があるわボケぇ! ったく、姉ちゃんも、幾ら駄目男調教するんが趣味言うても、うちに迷惑掛けんといてほしいわ。マジキッショいし、マジ迷惑やから! 金輪際、うちに近寄らんといてや!」
姉ちゃん、駄目男を調教するんが好きなんよね。ンで、婚約者候補という名目で、姉ちゃんに調教……もとい、更生させてほしいっつって駄目息子送り込んで来る家とか、前よりも増えとえるし。知らぬは送られて来る馬鹿共だけ。それでうちに粉掛ける馬鹿とか、心底迷惑なんよね。
「ぁ……ああ、どうやら幻聴を聞いてしまったようだ。すまないが、もう一度言ってくれないか? その、今度は君の言葉を逃さず聞こう」
引き攣った顔で額に手を当てて首を振り、幻聴だとか言うキモいクソ野郎。
「だから、婿入り予定の婚約者候補如きのクセに、その妹に色目使って欲情しとるような、鼻息が荒くて臭くてマジキモいクソ野郎は生理的に無理じゃ言うとろうがっ? ほんに、頭も耳も悪ぃやっちゃな? 二度とうちに関わんなやっ!」
「な、な、なにを言ってるんだ君はっ!?」
「ああん? おんなじこと何度も言わすなやボケカスクソがっ!!」
「き、君は病弱で大人しくて、はにかみ屋で従順な可愛らしい女の子だろっ!!」
「馬鹿か! 病弱やからって、気ぃ弱くて大人しい従順な子ぉばっかなワケあるかボケっ!! ふんっ、勝手にうちの容姿に夢見とる馬鹿が多くてほんに迷惑しとるわ。バチクソ気ぃ悪い! ほなな、二度とそのニヤケ面見せんなや!」
「っ!? こ、このぉっ!? 人が優しくしてやってりゃ付け上がりやがってっ!?」
と、なぜか激昂してうちに殴り掛かろうとするクソ野郎。
「ハンっ、婚約者候補の妹に手ぇ出そうとする下衆い下心満載の優しさなんぞ要らんわボケぇっ!! ちなみにやけど、我が家でうちに手ぇ出すと、うちのパパが黙っとらんぞ? 戦争、族滅覚悟で殴り掛かって来いやっ!!」
仁王立ちしてそう一喝すると、ガクブルと震え出してへたり込んだクソ野郎。
「ケッ……根性無しが。早よ去ね」
小さく言い捨て、うち……いえ、わたくしは部屋を後にした。
それから――――
なぜか、クソ野郎を撃退したことがバレて姉ちゃんと母ちゃんにしこたま怒られた。
誰や、母ちゃんにチクったんは? 護衛か? 使用人の誰かか? 全く、余計なことしおってからにっ!?
「ああもう、これだからあなたは一人で外に出せないのよっ! 全くもう、どこでそんな汚い言葉を覚えたというのっ? 淑女がクソだなんて言っちゃ駄目じゃないのっ!」
目を吊り上げて怒る母ちゃん。
……家ン中で覚えたんやけどね? ほら、うちは軍閥系やし。訓練中に、上官が部下を罵って扱いとる言葉とか? 上官の目ぇ盗んでの私闘とか? 寝込んどるときとか、外から怒鳴り声がよう聴こえとったし。地方出身の軍人が頭に血ぃ上って、郷の訛り出ることも多いんよね。
目ぇと違て耳は塞がれんから、聴こえて来るもんはしゃーないやんな?
あと、よう覚えとるんは――――
「昔。パパと喧嘩しとるとき母ちゃんが、『こんクソ野郎が、ブチ食らぁすぞコラぁっ!!』ってドス利いた声で言うとったん聞こえててん。そん後に、ガッシャーンっ!! ってなんかが割れる音がして、パパが頭切って流血して医者が呼ばれたの覚えとる」
ちなみに、なぜお母様は母ちゃん。お姉様は姉ちゃんなのに、お父様はパパなのかというと・・・なんのことはない。ちっこい頃からパパ呼びやってん。せやけど、何度か父ちゃん呼んだら、ガチ泣きされたわ。せやから、うちがめっちゃ怒っとるときや機嫌悪いとき以外は基本、家ン中ではパパ呼びなんよね。泣かれると鬱陶しゅうて敵んし。あ、対外的にはお父様呼びしとるんやけどね?
「・・・コホン、わたくし。そんな下品なことは言ったことがありませんわ。それに、アレは旦那様が転んで、偶々そこにあった花瓶の方に頭が突っ込んで怪我してしまっただけですわ。ええ、そうです。わたくし達が喧嘩して花瓶を投げたなんてことはありません」
すっと目を逸らして横向いた母ちゃんが言う。うん、夫婦喧嘩……つか、一方的にブチ切れて、パパに花瓶投げ付けて流血騒ぎ起こしたんな? 動揺したんか、自分で白状しよったわ。
ん? うちで最強なんは、元王族女性の護衛騎士しとった母ちゃんよ? パパは歴戦の猛者で国内一の強さを誇る軍人として国内外でも有名やけど、うちではめっちゃ尻に敷かれとるし。姉ちゃんにも、うちにも甘くて弱いし。
それに確か、母ちゃんがあないにブチギレた原因はうちやってん。
うちが小さい頃、高熱出して寝込んどったとき。パパがどこぞのパーティーでしこたま酒かっ食らって上機嫌に酔っ払って帰って来よったから、母ちゃんがブチ切れたんよね。
うちがヤバめな高熱出して寝込んどるんに、「娘死にそうんときになにしとんじゃ我ぇっ!! それでも父親のつもりかっ!?」って。ンで、なんぞ下手な言い訳しようとしたパパは、頭に血ぃ上った母ちゃんが投げた花瓶頭に食らって派手に流血。
いろんな意味で修羅場やったみたい。
まあ、熱で細かいとこはよう知らんけど……頭に包帯巻いて土下座しとったパパの背中を、母ちゃんと姉ちゃんが憤怒の顔でぐりぐり踏ん付けとった気ぃするわ。
「せやかて、姉ちゃんの男の趣味悪いんがいけんのやろ? うちに色目使うて鼻息荒くするようなゲスい勘違いクソ野郎うちン中入れんといてや。か弱いうちが襲われたらどうすんの? パパがブチ切れたら、マジでどこぞの領に攻め入りそうなんやけど?」
「ぅっ……その、それはごめんなさい。今度から、あなたに色目使うような奴は即行で訓練に放り込むことにします。そう、精も根も果てるまで、厳しく締め上げ、死地からも生還できる一流の兵士へ育て上げてみせましょう!」
「おー、がんばれー」
クールビューティーで、うちより可愛げがない見た目やと言われとる姉ちゃんは、うちの軍閥の女王様やからなー。
姉ちゃんは駄目男共を調教……もとい、ごっつ厳しい軍事訓練を科し、訓練中はうちのこん口調なんぞ目ぇじゃないくらい口汚く野郎共を罵り、プライドと心をへし折り、立派なドM犬……じゃなくて、屈強な軍人に育て上げることを趣味としている。そのうち、姉ちゃんにシバかれたり罵られてたりして、「ありがとうございますっ!!」とかガチで言いよるようなるし。
うん、ある意味マジで女王様やわ。ボンボンな駄目男が屈強で礼儀正しい軍人ンなるって、割と好評なんよねー? 姉ちゃんは嬉々としとるんやけど、自分らで教育失敗した馬鹿坊共、うちに送り付けんのやめてほしいわー。
思えば……あのとき母ちゃんと一緒に土下座するパパ踏ん付けたことが、姉ちゃんの中の女王様を呼び覚ましたンかもしれんなぁ……なんか、めっちゃ複雑な気分やわ。
そして、あんま身体が強くないうちは……パパ、母ちゃん、姉ちゃんに大事に大事にされとる。うちを嫁にしたいなら、それぞれが『自分を倒してからにしろっ!!』とか宣言しとるし。やー、うち愛されとるわ。
それにまあ、身体が強くないからって、気ぃまで弱いなんて誰も言うとらんし? 大抵のクソ野郎共は、うちのこの口の悪さにドン引きして逃げてくんやけどね?
ただ、勘違い野郎共が多くてマジ困るわ。
コホン……っと、あらいけませんわね。
そろそろ令嬢らしい言葉遣いに戻しませんと。
「それでは、ごめんあそばせ」
と、姉ちゃんと母ちゃんの……いえ、お姉様とお母様のお説教から逃げることにしました。
これ以上のお説教は勘弁願いたいですもの。
――おしまい――
病弱で見た目可憐な小動物系なのに、気の強くて口の悪い主人公ちゃんでした。(((*≧艸≦)ププッ
そして、世のお父様方。奥さんや子供の体調が悪いときに自分だけ遊び歩いたり、外食したり、お酒を飲んだりしてはいませんか?
その挙げ句、「俺の飯は?」や「それじゃあ今日は簡単なごはんでいいからさ」などという、気遣いやデリカシーの欠片も無い言動をしてはいませんか?
そんなことをすると、子供が成人して数十年経ったとしても……下手すると、一生根に持たれてずっと恨まれる案件だそうです。( º言º; )"
なので、奥さんや子供が体調悪いときは早めに帰宅して、せめて自分の分のごはんの用意や家事は自分でやりましょう。
できるなら、奥さんや子供に冷えピタやスポドリ、レトルトのおかゆやうどん、アイスクリームやプリンなど、食べやすいものを用意してあげましょう。※アレルギーの有無の確認超大事! 体調が悪いと、アレルギー反応も酷くなります。
お酒は飲まないで、もしかしたら病院に連れて行くことになるかもしれないという心づもりで、慌てず騒がず、待機していましょう。
そしたらきっと、一生恨まれたり軽蔑されるようなこともなく、『いざというときには頼りになるお父さん』だと、感謝されると思います。(*´∇`*)
おまけ。
主人公「苦しい胸の内? ンなん、キッショい嫌悪感我慢すんのが苦しゅうて敵んかったに決まっとるやろ」(´・ω・`)?
「熱く滾る思い? 怒りと、めっちゃ追っ払いたいん我慢しとっただけよ? なんでそないなこと聞くん?」(´・ω・`)?
「はあっ? アレに恋愛感情? ぷはっ、ンなんあるワケないわっ!?」ʬʬꉂꉂ(๑˃▽˂๑)
「ハッ! なんか母ちゃん……じゃなくて、お母様の気配がしたようなっ!?」( ̄□ ̄;)!!
「コホン……それでは皆様ご機嫌よう、わたくし失礼致しますわ」ζ*'ヮ')ζ
ちなみに、方言は適当にごちゃ混ぜです。(*ノω・*)テヘ
以上、最後まで読んでくださり、ありがとうございました♪(*^▽^*)