貴方は転生したいのね?なんで転生したいのかしら?ただの願望とか巫山戯ないでよね?さあ貴方は最期に何をするのかしら?
「貴方は馬鹿ねえ」
……っては!?
俺の理性がついていかないんだが……今……美女が呟いたのは。
俺に対する攻撃の言葉?
「聞いています??もしかして脳内妄想だらけとか言わないでしょうね?」
「い、いえ違います!」
慌てて答えなくてはこの美女に殺されそうな気がする。
こ、ここはさすが美女でも俺は死ぬの嫌だ!
「ねえ、貴方は自分が馬鹿だって自覚してるのかしら?」
詰め寄ってくる美女。
きょ、巨乳だし!可愛いと言うより尖ったような美人顔とかチョー好みだぜ。
あと、服も白いカラーをベースとしたドレスっぽいやつ!
ウェディングドレスまでとは行かないけど似ていて胸も高鳴ってくる。
や、ヤバい。俺……違った意味で死ぬかも。
でも美女の目も射抜くように殺すように見てきてこえー。
いや、俺はフツーに部屋に引きこもっていただけだよ?
いわゆるヒッキーだろうけどそうだけど!
そこは気にするな!俺はただフツーにラノベ読んでそれに釣られて小説サイトに作品を投稿しまくってただけなんだって。
別にいやらしいことはしてねー。
いきなり美女がガチャーンとそれはそれは盛大に窓ガラスを割って入ってきやがったんよ。
ま、美女だから許してやったんだ。
そんなこと言ってる場合じゃねー。なんてこう美女は俺に鋭い罵声を浴びせるんだ!
美女に見とれていたら第一声が「貴方は馬鹿なねえ」だし。
意味わからないよ!!
「えーと引きこもりさん?プっ、馬鹿ね。それに今読んでるのは……」
「だあああ!見るなあ!」
俺がパソコンで見てた今ハマってる小説なんて美女に見せたくない!
なんとか消そうとマウスに手を伸ばしたが。
「ふーん転生ねえ」
サッと一瞬で見られてバレてしまった。
「これを読むってことは貴方は転生したいのね?」
「し、したくないです!」
いや、したいよ!転生なんてしたいし絶対したい!
だけどしないと思うし、こんな美女にそんなこと言ったら恥ずかしい!
「ただの平凡社会人がフラフラと歩いているとトラックに轢かれる。そして哀れに思った神様が異世界転生させる。そこでハーレム誕生。俺幸せ〜、ね」
内容を冷たく呟く美女。
「そういや、貴方は自分で似たような小説を書いてたわね?」
「え……!?」
って何で知っているのよ!?
だが、美女はフッと笑う。
「なるほど。転生への憧れがじゅーぶん伝わってきたわ。貴方はなんでそんなに転生したいのかしらあ?」
こ、こいつ。
俺の読んでる小説、書いてる小説、思っていること!なんで全てを分かるんだ……?
しかも窓から入ってきたのはヤバい状態だし……。
だが美女はすっごい目線を向けてくる。
ぐ、答えるしかないか。もう腹くくれ!恥なんて置いてけ!
「俺の今から転生したらメッチャ楽しそうだろ!」
だってみんな転生したいだろう?
出来ないと分かっていてもしてーだろ!
別に思うぐらい許してくれよーー!
「ああそう。貴方の書いている小説はひきこもりニートが転生だったわね。読んでる小説の方がよっぽどましだわ。一応主人公は社会人になっているのだから」
うるせえ!ニートが何がいけないんだよッ!
だ、だって仕方ないだろぉ!
「ま。明日ニートなことを後悔することになるわね」
「……は?俺は後悔してるけどこの生活が楽でいいんだ!」
「貴方の寿命は明日で消えるわ。カップラーメン食べすぎの栄養失調との理由にでもしておきましょうか」
俺の寿命なんてあるのか……。
明日?すぐじゃねえか……。
ってかなんで美女がしているんだ!やっぱ得体の知れないやつ!
「言っておいてあげたわよ。ま。貴方のことだから何もしないと思うけど」
「はぁ?」
「まず。なんでニートになったのかしら?」
なんで?なったかって……?
俺が……高校受験に落ちたからだよ!後は土方しかねえなと思ったけどそんなの体力が足りなくてすぐやめたぜ。
だから何もしてないが?
「……何の勉強もしてなかったのね」
ドキッ。
いや……俺はしてた。学校の中ではトップだった。
「悪いけど貴方の学校。言い方が悪いけどレベル低いから。田舎でしょ?貴方が学校一だからって出しゃばって中学受験したけどボロ負けしてたじゃない」
ああ……あれは俺の黒歴史の始まりだ。
学校で一番頭がいいって言われたから中学受験したら合格の足元にも及ばなかったこと……。
「で、落ちて。高校受験は成功させるように勉強すんのかなーと思ったら何もしなかったと」
「いやしてた!学校ではトップ……」
「だから、その学校は標準のレベルより低いって言ったでしょ。中学受験でそれが分かったはずでしょ?だけど学校の勉強だけでヘラヘラしてた」
「うるせえ……」
けれど美女はキッと視線を鋭くする。
「もう一人の学校トップの女の子が言ってたじゃない?ここはレベル低いから人一倍勉強しないと高校落ちちゃうよ……って切羽詰まって言ってたのに貴方は『何馬鹿なこと言ってんだよ?この学校舐めてんのか?』って言って。中学受験で落ちた人がよく言えるわ」
あーいたなメッチャ学校を嫌ってたやつ。
まああいつは人気者だったしみんなと平等に接していたけれど勉強に関すると途端に見下したような目線を投げるやつだったよなーまあ美人だったけど。
そういや、あいつどこの高校に行ったんだろ。あんぐらい言うからいいとこいってるよな。行ってなかったわ笑えるぜ。
「そんな悠長なこと言っている場合じゃないわ。あの子は早○田大学出たわ。学校より先へ先へ進んでやっと入ったのよ。本当に憧れる」
「え……」
「ちなみに、他のクラスメイトで高校入ったのは誰もいなかったわね。いたけれどみんなスポーツ系で行ったわよ。勉強で行ったのは一人もいない。だけど行かなかった人は行かなかったなりに仕事を頑張っているわ」
……なのに、と美女は続ける。
「貴方はその仕事さえも真面目にやらない。体力がないからって諦める。勉強もしないわ、いいとこ何一つなし」
あいつメッチャすっごいとこ行ってるじゃん……。
それより美女!俺のことをディスるのやめろ!
「挙句の果てに引きこもって親に迷惑をかける。そして、ラノベ読み漁って転生とか考えてる」
「考えるのは別にいいだろ!」
「転生したいとかただの願望とか巫山戯ないでよね?なーんにも努力してないくせに」
俺は……中学受験で失敗したら努力をやめたよ……。
だって仕方ないだろ?一応学校の勉強はすげー簡単だったから楽勝だったけど他には自信が持てなかったのだから。
「努力もしないでニートになったのも後悔するはず。後悔しなかったらもう落ちぶれたやつってことね」
「は……俺はそこまでじゃ!」
「んじゃ言いたいことは言ったわ。……貴方は最期に何をする気なのかしら?」
馬鹿にしたように笑うと美女の周りが霧に包まれた。
うお!?霧!?前が見えねーじゃん。美女を最期ぐらい愛でたかったのに……。
そうして霧が晴れると美女はいなかった。
くー!俺の最期がぁッーー!
結局やることなんて何もない。
ラノベを読むか小説サイトに転生ものを書くぐらい。
だけどなあ!読みたくなくなるんだよ!
美女がこれを笑ったから!!
「……だけどなあ」
このままボーッと死ぬわけにもいきたくない。
最期ぐらいはなにかしたいよなあ……。
転生とかしたいけどそんなんなるわけないし……。
だけど、自然とパソコンに手が行ってしまう。俺の癖だ。
「どーしよう……」
いつもの癖で新規小説作成を押してしまう。
って、何も書くことないのに何押してんだ、馬鹿か。
「……──」
でも書きたい。それが癖だ。
だけど笑われるよなあーあいつに。
性格は大っきらいだけど顔はいいからなるべく笑われたくないんだよな……。
うーこんな気持ちも死んだら残んないのかな。
……残らないよな。
なんか不思議だなあー……。
俺……本当に死ぬのか……?
実感湧かないけど……一応……受け入れてみるか。
だけど何か最期に残したい。
いや!残らせてみよっかなー……。
「そうだ!」
新規小説にこのこと書くとか良くね?
ナイスアイデア。俺すげー。
カチカチとキーボードを叩いて俺の心情を書く。
うえ、ヤバいことばっかだ。
あと、俺の過去も書くとか面白そうだな。
美女に言われたことも書くか。
書いていくうちにすっごい文字数が上がっていくのに気づいた。
俺の一生。そして来るはずであろう”最期”。
俺の寿命が明日でなくてもこうやって死ぬ日は遅かれ早かれ来てたんだろうなー。
まだ明日って知ってこんなこと出来る方がまし?なのか?
「ふー」
やっと書き終えた。
駄文だしすっげえ長いし、大丈夫かと思う一生だけどな……俺も笑えてきたぜ。
だけど最期ぐらい……恥かいていいよな?
俺、これを投稿するわ。
題名は……そーだ。こういうときぐらい美女に笑われたから笑われないようにしてやる。
『俺みたいになるな』
これでどうだ!
せめてもの教訓として残るはずだ!!
いいねえ!そのまま投稿!ポチッと!
──そして眠くてキーボードの上で寝てしまったらしい。
ハッと飛び起きる。
まだ朝か。今日で終わりかー。
最期に散歩ぐらいしてこよっかな。だけどそれはそれでお母さんになんか言われそうだし……。
そういや、昨日投稿してどうなってるんだろ。
結構気になる。
ポチッとホームを押すと。
「ええええ!?」
感想が書かれました!の赤字が。
あ、あの俺のすっごいヤバい一生に?
これ、最期にいいこと出来たんじゃね?
感想を初めてもらえて感動だし!!
じゃ、早速ポチッと拝見致しますか。
どんなこと書いてくれたんだろ〜。
ポチッ
……!?
『とってもいい教訓だと思います。
私は実はニートです。恥ずかしいですが、こうして作品として堂々とニートのことを言っているので勇気を出して言ってみました。
ニートで最期を迎えるなんてとっても辛いですよ……。そっかあ、最期は来るんですね。
私の最期がニートで終わったら哀しいです。
でも気づきませんでした。教えてくださりありがとうございます。
だから最期ぐらい普通にしたいから、ニートから離脱したいなと思い始めました。
けれど難しいです。難しいですけどこのエッセイを糧に少しずつ出来たらなと思います。
このエッセイがどこまで本当か分かりませんが、大変な境遇で作者さまが心配です。
きっと作者さまではなく学校のレベルの低さがいけないんです。
貴方は悪くない。
確かに少し調子に乗ったけど調子乗らせるほどレベルが低い学校が悪いんだと思います。
けれど今となっては遅いけれどせめてこれで元気を出してくれたら幸いです。
素敵な心を動かすエッセイをありがとうございました。』
「だってさ」
フッと美女は笑う。
「最期ぐらいちゃんとしてくれたわね。しかもこんな素晴らしい感想もらって……。いいわ」
「転生ぐらいさせてあげる」
「……だけど、庶民からよ?きちんと努力してきなさいよ?」
「本当はやり直しなんて出来ないんだから贅沢じゃない!!」
「この私に感謝しなさいよ!」
彼女の叫び声が礼拝に響き渡る。
彼女は彼の魂の回収に向かったのだった。