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四拭き目:乾いた風をほぐし、苛烈な太陽を柔らかく纏い 訪れたものに人心地の安らぎを与えよ

 

 オアシスにして貿易都市の栄華を残すアルバ・マキシナ。

 その地を治める城は、昨今では珍しくなった伝統的なドゥム型の丸屋根作りの建物だ。

 白壁は太陽の反射で光り輝きながらも、年月という無二の技法が落ち着きと優美さを城そのものに纏わせている。

 この風合いと形式美こそがこの地に昔から根付いているものだった。


 ()()()、のだ。


「いやぁ、ホント。いつ見ても雰囲気台無し、近くで見れば見る程クソ野暮ったいねぇ、我らがお城は」


 城門前で入城の手続きをしていたクティは「はぁ~」とため息をつきながら建物を仰ぎ見る。


 丸ドゥム屋根を取り囲むのは、鋭く天を突きさす三角屋根の群れで、太陽の光も乾いた風も受け止めることなく角々しく棒立ちになっている。

 前領主、ソフィー・アルマダの代に建てられた異国様式の煌びやかで華やかで先進的な……何をもって先進的かの説明は一切なされないまま行われた増築は、今日も我が物顔で行政府の権威を誇っていた。


「でっか……無駄に」

「スイープさん、こちらに来てください」

「ぅわっとととと、今の聞いてた?!」


 城門前の詰め所で代わりに手続きをしていたオウルが音もなく戻ってきて突然声をかけられたのでクティは慌てて手で口を抑えた。

 代行とはいえ、依頼人は現領主で、目の前にある建物の主である。

 オウルは怪訝な顔をした。


「なんです?」

「あ、いや、なんでも~? 許可下りた?」

「あなたの顔で通れるようにしておきました。あちらが守衛長」


 城門前の詰め所にいるひげ面の男が槍を持った手をクティに向けてあげて見せたので、クティも腕を大きく振った。


「顔見知りだ」

「そのようですね、なんでもベルモントの店に通っているとか」

「ベルの店は人気だからな、アルバ・マキシナのスケベ野郎は一度はあの店に行く」

「お仕事をお任せする期間、城への出入りは自由です。詰め所に声掛けしていただく必要はありますが」

「普通は一々手続き必要なんだろ? すげぇ好待遇~!」

「手間を出来る限り簡略化した方が働きやすいでしょう、城働きの者たちには今朝一番にアナタの事も周知しておきました、後ほど顔見世はしていただかなくてはならないのでお付き合いください」

「話早くなるから助かるよ、さっすが領主サマ」

「後ほど無駄に広い城内も案内いたします」

「しっかり聞いてんじゃねーかよ」



 城の中に入ると、最初にクティを出迎えたのは連なる回廊でも天井に等間隔で吊るされた豪奢な色ガラスランプでも、カーブを描く壁に描かれた古タイルのモザイク画でもなく、むせ返るような花の匂いだった。


「なん、だ……これ」

 天国にでも来たのかとクティは五感を疑った。


「花、花だ……おい、これ本当に咲いてる花なのか? こんな……これは……ギャッ!」


 クティは悲鳴を上げる。

 活けられている花瓶に近づいた、彼の起こした僅かの風で、花弁が揺れ一枚零れ落ちてしまったからだ。

 反射的にクティは飛び込み、身体を転げさせて床に落ちる花びらを両手で受け止めた。

 その様子を、依頼人兼領主代行であるオウルは苦々しく眺めていた。


「うわ、わ……すげぇ、うわ」


 たった一片(ひとひら)で三日分の生活費の価値はあるだろう花弁を、食い入るようにクティは見つめ、花弁が舞ってしまわないように慎重に息を吐いた。

 砂漠と荒野に囲まれたアルバ・マキシナでは花は何よりの高級品だ、一般領民では葬式の時に死者に添えられる一輪くらいしか縁がない、それが来訪者を出迎える回廊の十歩ごとに束となって飾られている。


「え、あの、これ、このはなびら、どうすりゃいい? なあ、おい領主サマ! これ!」

「捨ててください、ゴミです」

「なっ、おまっ!」


 オウルは苦々しく眉間に皺を寄せながら、ため息をついた。


「無駄の極みとはこのことです。なんらかの役に立つことも、ましてや食べることもできないものに、毎日毎日貴重な水を使わねばならないなんて。十日もすれば枯れてしまうのですよ? 前領主が亡くなって半年、今だ喪中ということで仕方なく活けてはいますが」

「コレを飾らせてんのはアンタじゃないってこと?」


 白の楚々とした美しい花、その立ち連並ぶ姿を見つめ、クティは力が抜けてへたり込みそうになったが、なんとか気力が勝って立ち上がることができた。


「これらを命じているのは前領主の一人娘、アルベルティーヌ様です」


 オウルはこめかみに指先を添えた。


「貴方にお願いしたいのは、まさにこういうことなのですよ、クティ。これらの片づけ、積もり積もった遺品やらの整理。私では……昨夜も白状しましたが全て火にくべるしか考えつかなくて」

「とんでもねぇ仕事受けちまったなぁ」


 これまで掃除して、捨てさせてきたものとは規模も価値も全く違う。

 ハッと不安に駆られたかのように顔を向けてきたオウルに、クティは手手のひらの中の花びらを口の中に含んでみせた。


「花はこんだけ?」

「いえ、城中いたるところに」

「そっか、とりあえずは会わせてもらおうかな」

「はい、勤めの者たちには中庭に集まるようにと、先ほど守衛長へ伝言を他んでおきました」

「そっちも大事だけどぉ」

 口の中の花びらを飲み込む。


「まずはお花の君に」




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― 新着の感想 ―
[良い点] わくわくする景色が広がっていて。 踏み込んだら好奇心をくすぐる人たちがいて。 新たな難題とどう向き合うのか、とっても気になります!
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