第16話 剛力のゴブリン王
距離を取れてないこの状況でどう行動すればいいのか。
ゴブリンキングは巨体による大きな踏み込みによって距離を詰め、その勢いのまま殴りかかってくる。
短剣で身を守ろうとしたが、隙を狙った右フックにより顔面に強烈なパンチが...。
僕がここに来た理由...さっきまで明白だったはずなのに、みんなを...守る?あの男を...殺...す?
そっか、こんなところで殺られてたら何も成すことができないじゃないか。
ゴブリンキングを倒すことが目的じゃない。
ただ、僕はまだまだやることがあるんだ。
ふと目が覚めると、ゴブリンキングは闇に覆われている手を地面につき、跪いていた。
そして僕自身は左の頬に少し痛みはあれど無傷であり、フードも大丈夫そうだ。
殴られた頬からは闇のオーラが溢れているのが見える。
ゴブリンキングは僕の体を見回しながら喋り出す。
「柔らかいのに吹っ飛びもしないその体、その体に流れる闇の力
汝人間ではないな」
「んん!?
人間ですけど」
「闇の力は魔女様とその使い魔が扱うもの
人間が扱えるとは思えない」
魔女...!
闇の力を扱う魔女なんてすごい恐ろしい気しかしないけど、体に流れてる僕に闇の力は効くのか?
いやいや、魔女だしいろんな魔法が使えるのか。
ん?あれ、もしかして全適性の僕って魔法が効かなかったりして...。
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないよな。
「僕たちはこの村の者を悪だと決めつけ、自分たちの平和のために争いを起こしてしまったんです
でも本当は両者とも平和を望んでいたことを知った今、できるならあなたとも争いはしたくないんです」
僕は心を込めて話した。
「元々は命令を受けて人間の村を襲っていた
いつしか命令されなくなり、人間の言う平和を真似したくなった
人間が過去の我々を真似したのなら、我々は抗うことも真似しなくてはならない
だが汝は強い、我では敵わない
よって生き残っている我が民を連れ、この村を去ることにする」
こんな争いの連鎖を生んでしまうのはつらい現実だ。
ゴブリンたちは、この村から離れることが今の最善策なのかもしれない。
「僕も手伝います」
ゴブリンキングは角笛のようなものを取り出し、大きく息を吸ってから思いっきり吹き鳴らした。
「手伝いは必要ない
我が民に合図を送った
民は撤退の合図だと勘づき村を出る
それにこれで人間を誘き寄せられた」
ゴブリンキングは小さい姿に戻り、勢いよく走っていった。
のだが、すぐにぴたりと足を止めた。
急に頭を抱えて蹲み込んだかと思ったら、辺り一面を巻き込むほどの大きな雷が直撃する。
雷は3秒ほど続き、激しい音と光を放っていた。
僕はただ呆然と立ち尽くしたまま見ていることしかできなかった。
ゴブリンキングは焼き焦げ、地面には大きく穴が空いている。
つづく