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勇者になることを誓うが人を守れない  作者: T・S
第1章 冒険心は忘れられない
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第14話 人間の敵討伐隊

 ジガン先輩はもう先へ行ってしまっている。


 燃え尽きたゴブリン、そしてこの熱風、ジガン先輩が持っていた円錐状の(ランス)から溢れ出る炎の渦が物語っている。

 ジガン先輩は火の魔法を、いや、火と風の魔法を使ったのだ。


 別にそんなに悲しいわけではない。

 出会ったばかりのゴブリン。

 娘を守ろうとしてた優しいゴブリン。

 なんであれたかがゴブリンだ。そう、たかが。

 ゴブリンとして生まれてしまったのが悪かっただけ。

 だから、もし生まれ変わったら人間になることを望んでおくことにしよう。


 僕は僕の心にしょうがないと言い聞かせるが、胸は苦しくなるばかりだった。


 今やるべきことと言ったら、他のゴブリンにも同じような感情があるのか確かめに行くことか。

 まだ生きてたらだけど。


 僕はまだみんなが手をつけてなさそうな所を探して走る。


「あれ!?またユーマがいない...

 せっかく模範となる俺がいるってのによー」


 隠れているゴブリンがいないか隅々まで探してみる。

 すると、前からゴブリンがすごい勢いで飛んできた。


「うわぁ!な、なんだ!?」


 僕は咄嗟に避けることができた。


「クソがぁ!意味もなく貪り殺す人間ごときがぁ!」

 飛んできたゴブリンが喋った。


 でも、さっき見たゴブリンとはまた違う、こいつは羽の生えたゴブリン、グレムリンだ!


 地面に体を叩きつけていたところを見ると、自分の意思で飛んできた訳ではなさそうだった。


「口悪いけどお前も平和に暮らしたかっただけなのか」


「あぁ!?何が平和だぁ!」


 グレムリンが地面を蹴って低空飛行で勢いよく僕に突っ込んでくる。


 僕は咄嗟に闇の短剣を手に取るが、その時にはもう手に届く距離まで迫ってきていた。


 早く身を守らなければ、手に力が入るが間に合わない...。


 グレムリンの猛烈な頭突きをお腹でまともに食らってしまう。


 終わった...。

 そう思ったが、体に触れると同時にグレムリンを闇が包み込んだ。


「なんだこれは...」


「アアアァ!クソォォォ!日々を返せぇぇぁぁ!!」


 グレムリンは闇に蝕まれていき、やがて灰燼(かいじん)と化した。


 短剣から放たれる闇のオーラが僕の体にも流れている。


「これが闇属性の力なのか」


 色々思うことはあるが、まずは自分が助かったことをありがたく思った。


 しかし僕もこんな力が使えるなんて、これこそ魔法の世界だ。


 さっきのグレムリンも本当は平和を望んでいたのかもしれない。

 殺してしまった罪悪感なんてのはないけど、どちらが悪なのか分からなくなってくる。


 立ち止まって考えていたら、また何かが飛んでくるのが見えた。


「あれ、さっきのやつどこ行った?」


 この人はたしか、冒険者協会で話しかけてきた、エイルって人だ。


「それってこっちに飛んできたグレムリンのことですか?」


「おう、そうだが、見たのか?」


 この人も飛んできた。

 おそらくこっちにグレムリンを吹っ飛ばしたんだろう。


 そのおかげであやうく大怪我を負うとこだったんだが...。


 まあそれは置いといて、風の魔法を使いこなすと空を飛ぶことができるのか。


「そいつなら灰になりました」


「ほ、ほう、やるじゃんかよ

 それは最高にハイ!ってやつだ」


 エイルがニヤけていると、地面が急に揺れだした。



 つづく

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