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3話 旅立ち

 俺が転生してから二年もの月日が流れた。


 転生……というのも、ジジイに殺されかけたあの日、俺は球体いや桃の外に出てジジイとババアの二人に説教している最中に気付いてしまったのだ。自分が赤ん坊だということに。


 どうやら俺はあのタイマンの最中に死んでしまっていたらしい。


 番長、俺が死んできっと焦っただろうな。事故とは言えタイマンの最中に相手が死んだんだ。きっと警察からこってりと叱られた事だろう。


 そしてジジイとババアから話を聞いたところによると、ここは日本でもなければ地球でも無いということが分かった。


 これを知った時はかなりショックだったが、死んでもこうして記憶を維持して赤ん坊としてやり直せるのなら俺はかなりラッキーだったと言える。おかげでほんの数分で気持ちを切り替えることも出来た。


 ただ問題は、俺が赤ん坊の姿で桃から生まれたという点である。


 始めはいわゆるテンプレートな異世界転生かな? 魔法も使えちゃうかな? チートはあるかな? とかノリノリで考えていたのだがどうにもその点が引っ掛かったのだ。


 そこでさらにこの世界の詳しい事情を聞くと、


・今俺がいる大陸には三つの大国が存在すること。 

・別の大陸にも国があるが、それを知っているのは三大国の重鎮のみであること。

・この大陸では数十年戦争は起きておらず平和そのものであること。

・魔法は存在するが、大きく才能に依存するため使えるのは大陸全土を見ても百人もいないこと。

・文明レベルは意外にも地球とほぼ変わらないこと。


 と以上のことが分かった。

 

 そしてこんなことも教えてもらった。


 最近鬼ヶ島という島を拠点とする鬼達が各地の村で悪さをしていて人々が困っているらしい。


 オーマイゴッド!


 さらについでとばかりに「お前生まれだばかりで名も無いだろう? お前の名前は今日から桃太郎だよ」と軽い調子で言われてしまった。


 つまりはそう、俺は桃太郎の世界に桃太郎として転生してしまったのだ。

 

 

 



 この二年、俺は色々な事を教わった。


 この世界の文字や礼儀作法、さらには戦い方まで。


 俺は戦う気なんてさらさら無いから、戦い方は教えてくれなくてもいいと言ったのだが、ジジイとババアの両方が自分の身くらいは自分で守れ。お前はどこの国の人間でも無いんだから、いざとなった時誰も助けてはくれないというような事を言ったので確かにと思い頑張って学んだのだ。


 頑張ったと言っても無理しない程度にね?


 よく異世界転生のお話では気絶するまで魔力を使い切るだとか暇さえあれば剣を振るといった話があるが、俺には絶対に無理だ。


 だって前世でもそんな全身全霊を掛けて勉強や部活の練習をしてこなかったんだぞ?


 転生したからっていきなりそんなにストイックになれる訳が無い。


 だから毎日3食の食事と8時間の睡眠時間、そして2時間以上の自由時間は確実に確保してその他の時間で気が向いたら努力をした。


 大体1日に3~4時間くらいだろうか。


 これにこの家での俺の仕事である狩りの時間を加えて普段の1日になる。


 最初は木の実くらいしか持ってこれなかった狩りも、ある程度戦う力を身に着けてからは熊や猪を狩ってこれるようにまでなった。


 身長も生まれてから2年と思えないくらいに伸び、今では小学校低学年位にまで大きく成長を遂げた。


 ババアの作った密造酒をこっそり飲んで怒られたこともあったし、ジジイと一緒になって筋トレをしたりもした。


 充実した2年間だった。


 前世を含めてもこれ程濃い2年を過ごしたことは無い。


 だけどそれも今日まで。


 今日、俺はこの家を旅立つ。





「ホントに行っちまうのかい桃太郎?」


「あぁ、いつまでも世話になる訳にはいかないからな」


 俺は今、家の玄関を出た所でジジイとババアに別れの挨拶をしていた。


「気にせんでいいのにのぉ。むしろ桃太郎が居てくれて助かることの方が多いんじゃが……」


 2人は俺が家を出ることを告げてからずっと、こうして別れを惜しんでくれている。


 良い人達だな。


 俺の今生での最初の出会いがこの2人で本当に良かったぜ。


「悪いな、俺は世界を見てみたいんだ。たまに遊びに来るから元気にしてろよ? いつか恩返ししてやるから」


「ふん、このジジイはどうか知らないが、あたしはあと100年はピンピンしてるよ」


「わ、ワシだってこの自慢の筋肉であと200年は生きてやるわい」


 ババアはともかく、筋肉で200年生きるとかもはや化け物だろ。まぁこの2人なら大丈夫だろう。殺しても死なないような2人だし。


「それじゃあ行くわ。2人共本当に世話になった。ありがとう」


「いつでも家に帰って来ていんだからね。あ、帰ってくる時は出来るだけ酒を持って来なよ」


「元気でな。プロテインの摂取は忘れちゃいかんぞ」


 ふふ、最後まで2人らしいな。


 ババア、次に帰ってくる時はきっとババアも見たことも無いような珍しい酒を持ってきてやるよ。


 ジジイ、この俺がプロテインの摂取を忘れるハズが無いだろう? 誰に筋トレを習ったと思ってるんだ。


 こうして俺は2年間世話になった2人と別れ、1人、旅に出た。

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