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2話 桃太郎誕生

 おかしい。

 非常におかしい。


 ここはどこだ? 俺はさっきまで『西高の番長』と正々堂々と戦っていたハズ。


 それがどうしてこんな真っ暗な空間にいることになるんだ?


 そういえば、俺はあの時足を滑らせて……。


 その後どうなったんだっけ? やばい記憶が無い。


 頭を打って、その後……もしかしてここ病院?


 この真っ暗闇で狭い空間、もしやこれが噂に聞く集中治療室という奴だろうか?


 俺は生まれてからこの方、病気やケガといったものとは縁が無かった。だから病院というのもテレビとかでしか見たことが無いんだけど、これが集中治療室だとすると全ての説明が付く。


 きっと俺は頭を打ってしまって気絶したのだろう。そしてその隙をついて卑怯にも『西高の番長』とその仲間達が寄ってたかって俺をこれでもかという程ボコボコにし、その後河川敷を通りすがった心優しい誰かが救急車を呼んでくれたといった所か。


 ふぅ、そうと分かれば、看護師さんかお医者さんがくるまでここで待機するとしよう。


 そうだ、生まれて初めての病院だ。折角だから初めに来た人にはサインを貰っちゃおう。


 ふふ、楽しみだぜ。




 

 おかしい。

 非常におかしい。


 待てど暮らせど、ここには誰も来ない。


 鋼の精神力を持つと自負している俺でさえこれ以上待つのは限界だ。


 俺の感覚ではもう1週間はここにいる。


 不思議な事にお腹は全く空かないし、トイレに行きたいとも思わないのだが、これが集中治療室の効果というやつなのだろうか?


 にしてもこれほど誰も様子を見に来ないというのは不自然な気がするんだけど……。


 こんな何も見えない暗闇に、事情説明もせず一週間も人を置いておくなんて、これが心の弱い人とかなら発狂しているのではないだろうか。


 全く、ここまで病院が不親切だとは思わなかった。


 こんなことなら最初に来た人にサインを貰うのはやめておいたほうがいいかもしれない。


 怪我を治療してもらったとはいえ、この扱いにはきっちりとした説明をしてもらう必要がある。


 ふふ、覚悟しておけ。





 おかしい。

 非常におかしい。


 あれから俺の体内時計ではおよそ1ヵ月もの時が流れた。


 始めの頃は沸々と煮えたぎっていた俺のあんまりな扱いに対する怒りも、最近は感じなくなってきている。


 いったい俺はいつまでここにいればいいのだろう。


 あまりにも暗い場所に長期間いた影響なのか、最近は視界に頼らずに周囲の気配をかなり正確に感じ取れるようになってきた。


 今も当然のように何も見えないが、周囲の状況は手に取るように分かる。


 そのおかげで、どうやら俺の今いる謎の空間は球体の中らしいという情報も分かった。


 あ、今俺の右側にある木に鳥が止まった。羽を休めてるのかな?


 お、今度は左側で小動物達が喧嘩し始めたぞ。全く、怪我しないようにしろよ?


 ……自然に満ち溢れすぎである。


 どうなってんだよここっ!


 もうどう考えてもここ病院じゃないよね!? てか俺何で周囲のこと、気配だけでこんな把握できるようになってんの!?? 自分が怖いよ!! 


 ふぅ、落ち着け俺。この意味不明な状況を一刻も早く打開するんだ。


 この空間から力尽くで無理やり脱出しようとしたのは大分前に失敗した。


 大声で助けを呼ぶ作戦も失敗した。


 じゃあ他にはどんな作戦が――?


 そう考えていた時だった。


 突然俺を閉じ込めていた球体が転がり出した!


 ごろんごろんごろん。


 ――と、とんでもないスピードだ。


 それに依然として球体の中が真っ暗で周囲は何も見えない。そのせいで怖さに拍車がかかっている。


 ヤバいヤバいヤバい。


 中にいる俺はさっきからずっと前転を繰り返しているみたいな感覚でめちゃくちゃしんどい。もうどっちが上でどっちが下なのかも分からなくなってきた。


 俺の今いる場所が山だというのは何となく分かっていたが、まさかこの球体が地面に固定されていなかったなんて。


 どうやらこの球体が今まで動くことが無かったのは、雪と氷で固定されていたかららしい。それが春が近付き雪が融けたせいで俺は今こんなゲロ吐きそうな状況になっているというわけか。


 うぷっ。や、やばいいい、いい加減止まってくれないと俺の三半規管が……。


 誰かー、とめてーーー。






 30分ほど転がっていただろうか。ようやく俺を閉じ込めている球体は動きを止めた。


 周囲の気配から察するに、どうやらこの球体は山を転がり続けて、川に飛び込んだらしい。


 さっきからぷかぷかと上下に動き続けている。


 う、さっきの吐き気がまだ引いていないのにこの断続的な揺れはちょっとヤバい……。


 誰か―、とめてーーー。





 さらに一時間ほど経った頃、球体は川から引き上げられた。助かった。


 気配から察するにこれは人間の仕業らしい。久しぶりに人間が近くに居るのを感じられた俺は少し嬉しくなっった。


 ありがとう、名も無き人間よ。この恩は決して忘れません。


 そう思った次の瞬間、


 ゴロゴロゴロ


 その人間は球体を運動会の玉転がしの要領で転がして移動を始めた。


 ま、またこれかよ……。


 もう俺は誰も信じない、助けだって求めない。


 ゴロゴロゴロ


 あ、また気持ち悪くなってきた。


 ちくしょおお、転がしてる奴覚えとけよおおお!

 





 しばらく転がっていると、ようやく人間は球体を転がすのを止めた。


 やっとあの前転地獄から解放か? そう思って外の気配を探ってみると、なぜか人間が1人増えた。


 はぁ、どうでもいいけどこれどうやって球体から脱出すればいいんだ? 


 いい加減俺もこの謎空間から外に出たいんだけど……。


 ん? なんか片方の人間、刃物みたいなもの持ってないか? それをどうするつも――


 ――殺気!?


 避けないと不味い!


 スパンッ


 あ、危ねぇー。


 球体が真っ二つじゃねぇか。これどう考えても避けなきゃ死んでただろ……。


 ふざけやがって! 完全に殺人未遂だぞ!


 温厚な事で有名だった俺でも言うときは言ってやる。


「おい、危ねぇじゃねーかッ! 俺も真っ二つになっちまうところだったぞ、コノヤロー!」

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