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1話 不運な死

 俺は今、河川敷で高校の先輩である通称『西高の番長』と対峙していた。


 今日は朝から雨が降っていたので、番長の自慢のリーゼントは少し崩れかけている。


 番長の後ろには20人程の子分や仲間達がいて、口々に「やっちまってくだせー」とか「その生意気なガキをぶちのめせ」とか恐ろしい事を口走っている。


 ちなみに俺の後ろには誰もいない。


 べ、別に誰も居なくても寂しくなんて無いんだからね!←謎ツンデレ


 この状況を誰にでも分かるように簡単に説明すると、タイマンである。古来より不良達の間で語り継がれ、面々と受け継がれてきた伝統芸能タイマン。その舞台に人畜無害なこの俺が上がっているのだ。


 はぁ、なんでこうなっちゃったんだろうなぁ。

 いや原因は分かってるんだ。ただその原因に納得がいっていない。


 だって番長がいつもお昼に楽しみにしている購買の『神々の焼きプリン』と『クロワッサン(極み)』を俺が先に買ったせいで食べられなかったからって、こんな事態にまでなるか普通?


 食べ物の恨みは恐ろしいとは言え、本当に信じられない事をするものだこの番長は。


 全く、どうりで俺が『神々の焼きプリン』と『クロワッサン(極み)』を買った時、購買のおばちゃんと周囲の生徒達が俺を化け物か何かを見るような目で見ていたハズだよ。


 お昼ご飯を買うと同時に学校の番長に喧嘩を売ってるんだもん。くそっ、誰か教えてくれても良かったじゃないか。


「……ようやく来たか、舐めやがって。お前は俺の大切な物を奪うだけに飽き足らず俺らに攻撃まで仕掛けたんだ。覚悟しろよ?」


 うわっ、番長めっちゃ怒ってる。


 どうしよう、テキトーに土下座でもしてお茶を濁そうと思ったんだけど、これ程の怒りだとやるだけ無駄っぽいな。


 やっぱり昨日の放課後呼び出しに応じなかったのが悪かったのかな。でも昨日はプロ野球の日本シリーズがあったから早く帰りたかったしなぁ。


 それとも呼び出しに来た番長の配下その1を橋から川に突き落としたのがダメだったのか? でもあれも何度も何度もしつこいし、暴力に訴えてこようとしたからしょうがないし……。


 いやいやもしかしたら今日の朝、またもや呼び出しに来た番長の配下その2を警察に通報したのが良くなかったかもしれない。通学路から教室までずっと付いて来てていい加減うざくなったのだ。そこで、メールで妹に連絡して警察にストーカーがいると通報してもらった。でもそれだって自分の身を守るためだ、しょうがない。


 どれを思い返してみても正当防衛の域からは出ていないように思える。


 全く、何もかも悪いのは向こうなのに何で俺がここまでブチ切れられなきゃいけないんだ。段々俺もイライラしてきたぞ? あの二つを買って食べたのは、俺じゃなくて隣の席の小西君ですと言っても信じてもらえなかったし。


 タイマンが始まってから使おうと思ってたけど、相手を待ってやる必要も無いだろ。もう勝手に始めちゃうか。


 ヒュンッ


 先手必勝。相手が油断している今が最大のチャンス。


 俺は中学まで野球部でエースだったその実力を遺憾なく発揮し、ポッケに忍ばせていたコブシほどの大きさの石を番長に向かって全力投球した。


 我ながら球速には自信がある。最速132キロを誇る俺の全力投球を果てして避けられるかな?


 俺が投げた石はものすごい速さで番長に向かって行き、見事番長のおでこに直撃した。


 げっ、昔からコントロールには自信が無いからテキトーに投げたんだけどよりによって頭かよ。


 番長がこれでもし死んだら、俺が犯罪者になっちゃう!


 どうか死にませんように。そんな俺の願いが通じたのか番長はギロリとこちらを睨みつける。


 石が直撃したおでこからは血が噴き出ていて、かなりホラーな顔面になってしまっているが、見事に生きている。良かった!


「ぐっ、い、石は反則だろ。それにいきなり始めるなんててめぇにはプライドが無いのか……?」


 プライド……? 知らない子ですね。


 俺は俺の為に全力を尽くす、ただそれだけだ。それで周囲に迷惑が掛かろうと知ったこっちゃない。

 だから俺は番長の問い掛けには答えずに無言で2個目の石を投げる。


 番長はきっと会話をして自分のペースを掴み直そうとしているのだから、俺がそれに答えてやる義理は無い。


 ヒュンッ


 ちっ、外れたか。やっぱり俺のコントロールはかなり悪いらしい。1試合20四球の伝説は伊達じゃない。


「あ、あぶねぇ。くそ、こいつイかれてやがる。ぜってぇぶっ潰してやる。うおおおぉぉぉぉぉお!!」


 番長はこのままでは勝機は薄いと判断したのだろう。俺が石を再び投げる前に思いっきり俺に向かって突進してきた。


 ふっふっふ、その動きは石を投げると決めた時からもう読んでいるのだよ……!


 俺は近付いてくる番長の股間に向かって、右足のスネの部分(鉄板をガムテープでグルグル巻きにして固定してるのを制服で隠してる)で思いっきり蹴り上げようと右足を一方後ろに引いたその時――


「あ、やべッ」


 俺としたことが番長を倒すことに集中するあまり忘れてしまっていた。


 今日は朝からずっと雨が降り続いていて、どこもびしょびしょということを。

 びしょびしょという事は普段よりも滑りやすいという事である。


 つまり――――


 俺は引いた右足を滑らせ、後ろに思いっきり頭から転倒した。


 そして運の悪いことに転倒した頭の先には少しだけ大きな大きさの石があり、さらに運の悪いことにその石が直撃したのは頭の中でもかなり大事な場所だったらしく…………。


 こうして俺は15年という短い人生の幕を閉じた。


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